良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『スチーム・ボーイ』(2003)大友克洋?嘘でしょ。「飛行蒸気」でも良かったんじゃない。

 2003年公開作品で、『踊る大捜査線』の陰に隠れていたが、大いに期待を裏切った作品という意味ではダントツの作品だったのではないだろうか。監督に大友克洋の名前がクレジットされているだけで、『AKIRA』を超える出来栄えを期待するのが適当ではないことぐらいは分かっているつもりでしたが、まさかこれほどまでに酷いとは思ってもいませんでした。  とても綺麗なのです。細部にまで気の届いた一枚一枚の絵は、さすが世界に誇る日本アニメの一本であると思います。たしかに、技術は優れているのです。でも肝心な点が抜け落ちているのです。それは、この作品で大友監督はいったい何を表現したいのか、そして何を語りたいのか。完全に欠落している製作意図。これではただの絵に過ぎない。    すべてのシーンに、どこかで見たような既視感が付きまといます。ジブリの初期傑作である『風の谷のナウシカ』や『天空の城 ラピュタ』を思わせるシーンの連続には幻滅しました。スチーム城を動かす時の台詞「今やらずにいつ動かすのか!」は、ナウシカで、巨神兵を起動させる時に聞いたような記憶があります。  「スチーム・ボール」は「飛行石」そのものであり、二人で空を飛んで逃げるというシーンも「ラピュタ」でありました。ボールを奪おうとするデヴィッドさんも、天空の城で待ち受けていた悪人を彷彿とさせました。機動歩兵も「ラピュタ」や、昔見た『装甲騎兵ボトムズ』で出てきたようなデザインでがっかりしました。  環境描写も綺麗ではあるのですが、どこか昔のヨーロッパ映画の街並みシーンで見たような覚えのある描き方にげんなりしてしまいます。フェリーニ監督やら、キューブリック監督やらアメリカ人監督ではなく、ヨーロッパ監督の撮りそうな環境の描写なのです。言葉で言い表すのはとても難しいのですが、郊外の美しい街並みや、くすんだ感じの出ているロンドンの街並みの捉え方が、どうもいかにも借り物臭く、嘘っぽく感じてしまうのです。  さらに観客の視線と興味を殺ぎ、アカの他人のそれのような冷たいものに変えてしまう要素の一つに、声優陣の不甲斐なさと不適格さを挙げておきます。主役は最悪で、キャラクターと声が合っていません。スカーレットの声を務めた小西真奈美も、彼女本来の魅力は出ていませんでした。その他もたいしたこともなく印象に残っていません。  棒読みで、感情のこもっていない声に対して、どう感情を入れて見れば良いというのだろうか。アニメの場合、よくオタク的なファンが声優やらキャラクターに感情移入して、それを「萌え」と言いますが、これでは見た人は「萎え」てしまいます。  また、エネルギーの進化を蒸気に求めたのも何か作為的であり、クリーン・エネルギーへの迎合でしかない。とってつけたような蒸気では観客は納得しない。肝心なスチームそのものに説得力がないのであるから、その後の展開も無理なものにならざるを得ない。正義と悪の対立という子供でも解る構図があるわけでもなく、かといってメッセージを込めて、大人向けに作られた風でもない。  アニメ映画で必要な要素のうちで、なによりも重要な「声」、「絵」、そして「物語」に魅力がないのですから、救いようがありません。20億もの大金をつぎ込みながら表現したかったのは、その後に低迷していく大英帝国の歴史と大友監督の自分自身の才能の限界をオーバーラップさせることだったのか。  ストーリー展開としてもありふれているものであり、目新しい仕掛けも皆無である。80年代中盤の、原発問題が人々の関心事であった時代ならばとにかく、21世紀を迎えた現在に、わざわざ19世紀中盤のイギリスを舞台にして、無理な設定の物語を製作しなければならない意図は不明である。 総合評価 48点 スチームボーイ 通常版
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