良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『狼たちの午後』(1974)マフィアのボスの後に演じた、トリックスター役が、むしろ絶品。

 1974年度に公開された、シドニー・ルメット監督作品です。彼の作品には、何故か、お気に入りのものが多いのですが、この作品に関しては、小学生のとき、高島忠夫が司会をやっていた、フジテレビ枠の土曜の夜の「ゴールデン洋画劇場」で見たのが最初でした。  その後にも二度ほど見た作品です。何故に何回も見たのか良くわからないのですが、やって いるとついつい見てしまう作品のひとつです。シドニー・ルメット監督作品には、こういうことがよくありまして、『十二人の怒れる男』、『プリンス・オブ・シティ』、『セルピコ』、『オリエント急行殺人事件』、そしてこの作品など、当時は監督名など気にする事も無く、ただ好きで見ていただけでした。  大学生くらいになった頃になって、クレジットに彼の名前を見つけると、「ああ、これも彼が撮ったんだ。」と感心することしきりでした。監督の持つ生理というか、見せ方というか、それが合う、合わないで言うと、彼は合う監督です。  主演を務めた、アル・パチーノの存在感のおかげというだけではなく、良い映画の要素でもある、助演や脇役の俳優達の素晴らしい演技が大きくものを言っている作品だと思います。演技面で、作品に厚みを加えるのは、主演俳優の好演はもちろんの事、助演やその他の俳優達の演技面での貢献です。一人では映画は撮れない。まして、群像を描くリアリズム映画とヒーロー物的性格を合わせ持った、ユニークな主人公を中心に描く作品ともなれば、なおさらでしょう。  勿論、アル・パチーノ自身も『ゴッド・ファーザー』出演直後の作品だけに、気合が入っていて、しかも自信に裏づけされた、余裕のある演技を見せてくれています。普段着のままというか、銀行強盗犯になりきっている、演技俳優らしい自然な役柄への取り組みが素晴らしい。権謀術数と殺人に生きた、犯罪者の大ボス、ゴッド・ファーザー役の後に、ユニークな単純犯罪者の役柄を自然にこなす彼の幅の広さと対応力には感心します。  銀行強盗ですから、一般的な意味でのヒーローでは、決してありません。しかし、70年代という夢破れ、抑圧されていた、社会のあぶれ者や同性愛者にとっては、彼は公衆の面前で、「ホモ」を告白した事により、英雄として捉えられるようになります。トリックスターの名称がもっとピッタリとくるのではないでしょうか。  唐突ですが、ジョン・カザールが演じた、ソニーの相棒サルって、この作品のキー・パーソンなのではないでしょうか?必要最小限の台詞しかなく、とても地味なのですが、彼がこの作品に重みと深みを与えてくれているのは間違いないと思います。「俺はホモじゃない」、「電話なんか要らない」、「ワイオミング」など、僕はむしろ結構、彼の台詞のほうが印象に残っています。   そして、映画開始後の十分足らずで消えてしまい、その後一度も姿を見せずじまいになってしまった共犯者NO.3は、いったい何処へ行ってしまったのだろう。最後にきっと出てくるに違いないという期待を見事に裏切ってくれました。  ソニーを中心に据えるのは当然としても、リアリズムの映画として描くならもっとサルにも光を 当てて欲しかったのですが...。もしかして光を当てるとまずいことでもあったのか?彼の頭から発する光のせいで、ルメットが彼のおでこに映りこむとか...。なんと強力な助演男優なのでしょう! 総合評価 86点 狼たちの午後
狼たちの午後 [DVD]