『2010』(1984) My God! Its’ Full Of Stars!x10回くらい。
1984年に公開された、この作品は、言わずと知れた『2001年 宇宙の旅』(1968)から16年もの歳月を経て、製作された続編作品です。原作者はアーサー・E・クラークではありますが、その他のスタッフは当然変わり、監督も、前作では「巨匠」、スタンリー・キューブリックが務めましたが、今回は「職人」、ピーター・ハイアムズが監督となりました。
ピーター・ハイアムズといえば、『カプリコン 1』の監督でもあり、SF作品は初めてではない。彼はクリエイターというよりも職業監督であり、独創的な才能を持つわけではありませんが、きちんと鑑賞に堪えうる作品を作り出せる実力は持っています。
キューブリック監督及び、彼の『2001年~』での独断専行、膨れ上がる制作費と時間、気難しさ、細部へのこだわりへの異常さを知り尽くしているMGMとしては、大当たりを取れそうもない企画である『2010』に、彼を使うのには二の足を踏んだのかもしれません。原作者のクラーク自身も、好き勝手に自作をいじろうとするキューブリックよりは、閃きはないが、自作を忠実に映画化しようとするハイアムズのほうが、都合が良かったのではないでしょうか。
映画の基本はあくまでも脚本であり、ストーリーやキャラクターの描き分けなど、作品の重要な要素を決定してしまいます。ここが弱いと、どれだけ俳優が頑張って熱演しても、どれだけ綺麗な画面を描き出しても、効果音や音楽で盛り上げようとしても名作にはなりえない。反対に、脚本が優れていれば、ある程度の水準までは持ってこれる。
映画製作で失敗するのは、以下の通りでしょうか。(2つOKだったら、まあ見れます)
1.脚本(ストーリーと思ってください)は素晴らしいが、演出と演技がダメな場合。
(例) 『暴走機関車』(コンチャロフスキー版)
2.脚本と演出は素晴らしいが、演技がダメな場合。
(例) 人気だけのアイドルやスター出演作品の多く。
3.演出(見た目)は素晴らしいが、脚本と演技がダメな場合。
(例) 『カフカ 迷宮の悪夢』、『CASSHERN』
4.脚本、演出、演技すべてダメな場合。
(例) 『プラン・9・フロム・アウター・スペース』、『デビルマン』
そして、このような見方をしてから、『2001~』と『2010』を見比べた場合、前者に在った驚きは後者には全く無い。前者が謎かけだったのにたいして、後者は謎解きである事(ストーリー)、また前者のデザインをほぼ踏襲しているため、懐かしさはあるものの斬新さは無いが、時間が9年進んでいるためか、宇宙船内部が色彩豊かになっている(演出)。前作ではゴミ扱いだった人間が、今回は大きく扱われている(演技と脚本)。
こうしてみると、特に変わったのは人間の存在に重みが出てきている事とその対極にあるコンピューターの地位低下、宇宙船内の色彩の豊かさ、宇宙シーンそのものが軽くなり、重厚感が失せている。寒々しさがなくなってしまったのは、このシリーズとしては致命的かと思われる。
また、米ソ対立など政治要素をあまりにも多く盛り込んだため、本来のモノリス探求がおろそかになっている。ただ悪い点ばかりでもなく、エウロパ(木星の衛星か?)に酸素、有機物、葉緑素、水素などが存在する事や、星から攻撃を受けた事などが驚異的な事実として迫ってくるのは現実世界をとり入れているからだろう。想像力を喚起する映像は見られないが、科学的にありえないことでも、現実的なストーリー展開によって、まるで現実に思えてくる。
セットの作りこみにしても、ハイアムズはキューブリック作品の後を受けただけに、あまりにもみっともない物は作れないので、丁寧な仕事を心がけているように思えます。彼にも職人の意地があります。2001マニアがみても、簡単にダメ出しをされないほどの出来栄えを持っています。
シーンの中で最も印象に残ったのは、最初にディスカヴァリー号に調査に行く時に、絶対の真空空間である、宇宙の中を僅かな酸素と命綱のみで、渡っていくところです。恐怖というのはあのようなものかというのが、はっきりと生理的に伝わってくるシーンでした。HALが混乱して、壊れた原因も明らかになり、彼の『間違えるのは人間だ。』の台詞も証明されます。
ハイアムズにとっては、非人間であるHALよりも、人間達の方が作品では重要だったようで、比重も人間に大きくかかっていますが、彼にはHALやスター・チャイルドを演出する自信がなかったのでしょう。冷徹なキューブリック監督だからこそ出来たのかもしれません。
観客にとって、ディスカヴァリー号の船内を覗くのは実に17年振りになりましたが、あの時のままの無機質な暗さと、赤く光る船内中枢部が、まるでHALの内臓に見えたのは僕だけでしょうか。撮影自体にもクロース・アップが多くなり、突き放したような視点はなくなっている。また、前作でアップを独占していた、コンピューターたちに、ハイアムズのカメラはとても冷淡でした。
続編としては、かなりの水準を保っている稀な例であることに間違いはありません。前作の口うるさいマニアが見たとしても、頭ごなしに否定できるような出来の悪い作品ではありませんし、『2001~』の続編ということを忘れ、一本の作品としてみても、良質なSFである。
1984年に、この作品のサントラを買った時にポリスのギタリストであった、アンディー・サマーズが『ツァラトゥストラはかく語りき』をテクノヴァージョンで演奏していまして、もしこれがあの映画の本編に使われたならば、映画ファンから凄い量のクレームがくるだろうと思いましたが、さすがのハイアムズは、そのような愚挙は行いませんでした。
最近の映画ならば、無理やりにでも、曲をぶち込もうとするので油断なりませんが、この頃はまだ、映画界にも誠意は残っていたんでしょうか。
総合評価 74点
2010年
2010年 [DVD]