良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『イージー☆ライダー』(1969)あの時代を突き抜けた、音楽と風俗の集大成。

 1969年に、主演俳優のひとりでもある、デニス・ホッパー監督によって製作された、『イージー☆ライダー』は、ハリウッドの平均からすると、かなりの低予算映画であったのにもかかわらず、制作費に対して、10倍以上ものとんでもない興行収益を挙げました。  30代である、僕らの世代からすると、この作品は一世代前の若者の夢物語という印象が強い。ドラッグ、バイク、ロック、ヒッピー、フリー・セックスという、60年代後半から、70年代前半に続いていく現代文化というか、風俗史の記念碑的な映像で満たされています。    ジャック・ニコルソンの珍妙な感情表現や、名優ヘンリー・フォンダのどら息子、ピーター・フォンダ愛国者アメリカ国旗・ヘルメットのため、今の十代の子達に見せたらかなり笑われてしまうと思います。しかし、30代の自分がみれば、彼らは明らかにかっこ良いのです。野獣の匂いと、アメリカの奔放さが同居している、ピーターとデニスの良さは、もしかすると30代までしか理解できなくなった時代に入りつつあるのかもしれません。  ただ、あの素晴らしい音楽の数々、ステッペン・ウルフの『Born To Be Wild』、ザ・バンドの『The Weight』、ジミ・ヘンの『If 6 Was 9』などのロックの名曲で一杯のフィルムには、あの時代にしかなかった、あの時代でしか表現できなかったメッセージが確かに存在しています。熱気と失望感、夢と絶望、将来と刹那が浮き上がったり、沈んだりしています。  忘れられない映像が沢山ある作品でもあります。まずはオープニングでの、ピーターが時計を投げ捨てるシーンは、時間に縛られる一般的社会人の生活との決別を、映像で表現した、秀逸なシーンです。その直後にギターの爆音と共にかかる、ステッペン・ウルフの名曲『ワイルドで行こう!(Born to Be Wild)』とバイクのエンジン音が、彼らの獰猛さと奔放さ、そして無軌道振りを完璧に表現しています。  音と映像が、完全に同調している、見事なまでのオープニング映像でした。これをデニス・ホッパーが撮れたという事は、素人同然だった彼が、いかに映像に対して、素晴らしいセンスを持っていたかの証明になります。  中盤での、フリー・セックスとドラッグのトリップ場面の映像表現も、センスに溢れているばかりではなく、実際にドラッグに嵌まりこんでいた人間達によって撮影された映像だったため、中毒者のリアルな視界を表すショットが優秀で素晴らしい。  素晴らしい映像が多く存在する中でも、特に印象深いのが、ラスト・シーンでの燃え上がる炎(表現がおかしいのですが、激しく静かな)の後に、ザ・バンドによって、寂しく演奏される『イージー・ライダーのバラード』は、ラスト・ワルツのように、ゾクゾクッときました。あの燃え上がる炎、あの夕日、破壊されたバイク、生き急いだ二人への鎮魂歌として流れる『イージー~』は映画でのロック・ナンバーの使い方としては絶品でした。  前述した『ザ・ウェイト』も、ボブ・ディランのバックバンドをしていたザ・バンドのナンバーで、60年代を代表するナンバーのひとつです。ザ・バンドではもう一曲、『アイ・シャル・ビー・リリースト』という素敵なバラードもありますので、興味をもたれた方には聴いて欲しいナンバーです。  やっていることはとても刹那的で、いきあたりばったりなのですが、あの時代のあの国は、ああだったのだろうことは自然に受け入れることが出来ます。むしろすがすがしさを感じました。彼らの「死」は青春の終わりのイメージなのでしょうか。  演技の面では、デニス・ホッパーピーター・フォンダだけではなく、脇役として出演している、ジャック・ニコルソンがとても大きな存在感を示しています。ドラッグをやる時や、嬉しい感情を表す時の「ハーン!ニッ!ニッ!」という変なリアクションが妙に印象に残っています。  『ターミネーター2』のしゅわ知事のバイク・シーンをみていても、スタイルとしてはヘルスエンジェルやピーターとあまり変わりがないように思います。ロード・ムービーとしてはまさに最高峰と言ってよい作品です。リンチの『ストレイト・ストーリー』の、のんびり感も良いです。   時代を超えて欲しい作品のひとつであり、刹那的で獰猛なエネルギーはいまでも十分に感じることができる、素晴らしいロード・ムービーです。友人の一人は、これを見てからバイクを買いました。彼はいつかアメリカに行って、なんにもない灼熱の砂漠地帯をバイクで飛ばし、大陸を横断すると意気込んでいましたが、未だその夢は叶っていません。  あれからもうじき20年近くになります。二輪はいいねえ!としみじみ思う、今日この頃です。残念ながら、今は原付しか乗りませんが、四輪よりも風、寒さ、暑さを体感できる二輪が好きです。これは一貫して変わりませんね。 総合評価 83点 イージー★ライダー コレクターズ・エディション
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