『大巨獣ガッパ』(1967)日活唯一の怪獣映画!なぜか熱海で大暴れ!
日本が生み出した、怪獣映画主人公の金看板と言えば、1000人中、800人が「ゴジラ」だと即答するでしょう。残りの200人のうち、180人は「ガメラ」に決まっていると誇らしげに反論するかもしれません。
そして1000人のうち、残った20人(つまり2%)のうちの15人が申し訳なさそうに「わからない」と答え、残る5人(いるかいないかの5人)のなかで、4人が「大魔神」と言い、最後一人が、しかし決意を胸に秘めた態度で、「おれはガッパだ!」と答えるのではないでしょうか。
はじめて、ガッパを見たのは小1か小2の時で、もちろん白黒テレビでした。『大魔神』でも書いたのですが、カラーよりもモノクロの方が、怪獣達は強大に見えるのは自分だけなのでしょうか。熱海を破壊しまくるガッパは巨大であり、羽根の力で海岸沿いに暴風を起こす様子は台風のようでもあり、他の怪獣にはない迫力を持っていました。
次に見たのは高校生の頃で、徐々に個人経営のビデオレンタル屋(海賊版を堂々と貸していました)が乱立し、ツタヤがチェーン展開し始めたレンタル黎明期でした。この頃のツタヤって、ビデオを持っていない人たちのために、アタッシュケース式のビデオデッキを一緒に貸していました。なつかしいです。一緒に『赤影』やら『ジャイアント・ロボ』なんかも見た記憶もあります。
このときにはじめてガッパがカラーで撮られていることに驚いたものです。カラーだと、どうしても粗が見えてしまい、幻滅してしまう事が多い。ガッパも御多聞にもれず、がっくりしてしまいました。
で、今回また20年振りにガッパに会うことができました。こちらも大人になっていますので、細かい事は気にせずに、プロレスのレフェリーのようなあたたかいまなざしで見入った次第です。でも、やっぱり、ひどいものはひどい。
熱海を襲うというのも、時代を感じます。僕は小学生の頃、神奈川に住んでいたのですが、CMで「イトー(伊豆半島)にいくなら、はっ!とっ!やっ!~♪はとやにきめた!♪」というハトヤの歌が耳にこびり付いていたのも今では懐かしい思い出です。CMといえば、関東では「文明堂のカステラ」、「ナボナ」、関西でも「キラキラポール」、「トイチの奈良漬」があり、結構刷り込まれています。
熱海や下田が、温泉と海岸のある、夏のリゾート地であることを知っていたので、あまり抵抗はないのですが、関西から西、そして東北の人が見たら、なぜ熱海なのか解らないのではないか。
解らせるために、わざわざガッパは日光まで渋く観光しに行ってくれています。東照宮や華厳の滝を見に行って、当地の観光をアピールしています。
お話自体は『キング・コング』と『モスラ』の設定を足して、薄めて、2で割った感じになっていて、新鮮味はありません。ただガッパの凄いところは、彼らが登場するファーストシーンに集約されています。暗闇の洞窟中から出現する時、暗がりも手伝い、恐い感じの出方をするガッパのすぐ後から、もう一匹のガッパが出てきたのには本当に驚きました。
普通、怪獣は一匹で登場するのが暗黙のルールです。何匹もいっぺんに登場させてしまうと、ありがたみがなくなってしまうので、この二匹同時というのは結構インパクトがありました。あまりかっこ良いとは言えない造形のガッパなので、数で誤魔化したのでしょう。
伊豆に来る途中の海で、キング・コングかジョー・ヤングに蛸の活け造りでもご馳走になったのか、なぜか茹蛸を咥えて、熱海の町を破壊する親ガッパが笑いを誘います。片方の親ガッパは真面目に町を破壊し、人を踏み潰したりしているのですが、もう片方はいい加減に破壊します。
熱海城を壊すのは、いかにもついでにやりました感がぷんぷんしていて、よろしくない。彼らは誘拐された、子ガッパをさがし求め、関東地方太平洋岸のひとびとを脅して飛び跳ねます。京浜工業地帯を破壊するシーンでのディティールの細かさはいかにも日活らしく気に入っています。
普通、怪獣映画でコンビナートを破壊する時、怪獣はいきなり石油タンクに向かって、火や光線を吐きつけて、周りを火の海にするのが常道です。しかし、ガッパは違います。まず彼は躓き、足をガスのパイプラインに引っ掛けて、引っこ抜いてしまい、ガスを流出させます。
次に彼は石油タンクをひっくり返し、そのときにでた火花でガスと石油に引火させて、火の海にしました。やっている事は同じなのですが、ここまで細かいと笑えます。ぜひとも電柱を踏んで、棘が刺さったみたいに、抜いて欲しかったのですが、流石にそこまではやってくれませんでした。
そのかわり、親子対面場面で、母ガッパが感激のあまり泣き出すシーンがあり、おおいに萎えさせてくれます。この子ガッパの顔がかっこ悪く、ミニラとドッコイドッコイのルックスです。スターにはなれない宿命を負った造形でデビューさせた日活の責任はかなり重い。
子供が遊ぶ塩ビ(塩化ビニール)人形は、怪獣がかっこ良い東宝ゴジラ物、ウルトラシリーズの円谷物ばかりで、大映が放ったガメラでも苦戦を強いられている状態でした。うちにもミクラス、ウィンダム、バルタン星人、ゼットン、キングギドラがいました。
そのなかに、ガッパが来ても、東宝や大映にとってはたいした驚異ではなかったのではないでしょうか。デザインが最悪で、映画自体もヒットせず、マーケティングに失敗し、記憶から消えてしまったのが、この可哀想な怪獣ガッパなのです。迷走する日活の象徴と言えるかもしれません。
ゴジラのG、ガメラのGに次ぐ、第三のGとなるガッパでしたが、結果は散々でした。東宝、大映、日活の順ですね。東宝、大映(買い取られてしまいましたが)のスターは復活できましたが、ガッパファミリーは無理でしょうね。
総合評価 42点
大巨獣 ガッパ
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