『プロデューサーズ』(1968)最低のミュージカル『ヒトラーの春』で大儲け!
またまた、リメイクされた映画のひとつになった、『プロデューサーズ』のオリジナル版です。
オリジナル版の『プロデューサーズ』はメル・ブルックス監督によって1968年に公開され、アカデミー賞の脚本賞を取ったほどの作品でした。まさか『ヒットラーの春』が再び、21世紀の映画館で観られるようになるとは思ってもいませんでした。
メル・ブルックスは今回、本人自身が「プロデューサー」側にまわるというオチまでつけています。プロデューサーズと複数形になっているのは、製作する人(ゼロ・モステル)、製作者に金を出す人(おばあさんたち)、会計を手伝う人(ジーン・ワイルダー)、出演者達、ナチの脚本家、オカマの演出家など作品を作り出す要素すべてをひっくるめて複数形にしているのでしょうか。
<ネタバレがありますので、観に行く予定がある方はご注意ください。>
上映開始後、10分以上ひたすら狭いアパートの一室でのやり取りが続きます。それも舞台照明のような明るさの中で物語が進んでいくため、まるですべてが舞台上で演技されている感じなのです。彼らのアパート自体が第一幕の舞台のようです。我々観客が間近で、彼らの演じるミュージカルか、お芝居を見ているような感じです。
物語自体は、ヒットを狙おうと必死になる、ブロード・ウェイ演劇の関係者、映画関係者の舞台裏を嘲笑の対象にする、アイロニー満載のコメディ仕立てになっています。主人公達が儲けるよりも計画的に大失敗したほうが反対に儲かるということに気付き、それを実行に移していくという、ハリウッドやブロード・ウェイで誰も考え付かなかったアイデアは大変個性的で、優れています。
作戦は以下の通りです。
1.世界一、くだらない脚本、最低の演出家、下手な役者を探し出せ。
2.年寄りバアサンたちから制作費として100万ドル掻き集めろ。(実際に制作にかけるのは5万ドル以内。)
3.税務署対策に二重帳簿をつけろ。
4.ブロード・ウェイで上演させろ。
5.すぐ打ち切れ。
6.有り金に残った95万ドルを持って、リオデジャネイロにさっさと逃亡する。
なんと、ふざけた計画ではありますが、あまりにもバカバカしい計画をひとつずつ実行に移していく様子には大笑いします。この中で特に興味深いのは、ドイツ国歌のナチス・バージョンをはじめて聴いた事です。
FIFAワールド・カップなどで、ドイツ代表が歌う歌詞は解りませんが、絶対この映画で歌われる内容ではないことは断言できます。「世界に~♪~羽~ば~た~く!ナ~チス・ド~イツよ~~♪」なんてクリンスマンやベッケンバウアーが絶対に歌っているわけがない。
さらに大笑いするのが、ヒトラー役を決める時のオーディションの様子です。何十人ものちょび髭のおっさんが「はいる!ひとらー!」と叫び続ける様子はお笑い以外のなにものでもない。踊るヒトラー!歌うヒトラー!がなるヒトラー!オペラを歌うヒトラー!ロックを歌うヒトラー!
結局、ロックンローラーのヒトラーが主役の座を射止めます。このシーンでは、ヒトラーだけではなくサイケ、ロック、ラブ&ピース、フラワームーヴメントなどその当時のサブカルチャーまで、茶化し倒しています。
上映時間87分のうち、最後の30分になってようやく『ヒトラーの春』の全貌が明らかにされる。凄いです。ヒトラーを讃えるオペラ調の歌、ゲシュタポの制服に身を包んだ踊る俳優達、突撃隊SAの制服を身にまとった女性ダンサー、ナチの制服とSM衣装をミックスしたような女性ダンサーたちの悪夢のようなラインダンスには、さらに『意志の勝利』のような行進が加えられる。
まさに悪夢の連続です。ハーケンクロイツ模様にダンスする演出は冗談にせよ、やりすぎだと思うが、見た時は大笑いしました。ポーランド女性やパリジェンヌを半裸に剥いて、「ポーランドをやっつけろ!」、「フランスをやっつけろ!」とがなりたてて歌うヒトラーの登場で、最高潮を迎える舞台とは正反対に口をあんぐりあけたまま、呆然とする観客たちの様子がとても可笑しい。
席を立とうとする客が大多数を占めますが、いざ芝居が始まると、俳優達のあまりの下手さのために、コメディだと勘違いして、反対に大うけするのはなんとも皮肉で、可笑しいシーンです。最後は詐欺が発覚し、刑務所に送られるのですが、ここでも『愛の囚人』を企画するところで、エンディングを迎える。ここらは『ブルース・ブラザース』を思い出しますね。
悪ふざけが過ぎる気がしますが、コメディとしては秀作であり、アカデミー賞の脚本賞を取っただけのことはあります。これでよく、60年代にオスカーを取ったものだという驚きもあります。興味深いアイロニーも多く、見所は多い作品でした。
総合評価 74点
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