良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『金星人 地球を征服』(1956)スピルバーグも、ジョー・ダンテも大好きな作品。

 金星人といっても、細木数子先生の占いとは全く関係はありません。これは大金をかけて、ギミックを競う最近のSF映画とは一線を画す、ある意味もっともSF映画らしい正統派の作り込みがなされている作品なのです。ここでいう正統派とは短期間かつ低予算で制作されていて、どこかいい加減な可笑しさを感じさせる作品であるという意味です。

 『金星人 地球を征服』(1956)はミスター・”B”、ロジャー・コーマンによって制作された、いわゆるカルト映画として語り継がれている作品です。ロジャー・コーマンの名前を聞いただけで、何かワクワクしてしまう人は間違いなく、B級映画マニアだと断言出来ます。

 彼が制作に関わった、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』、『古城の亡霊』、そしてこの『金星人 地球を征服』などはとりわけマニア達の愛し続ける作品でしょう。

 みんなが褒める、または覚えている大金の掛かったハリウッド映画や、アカデミー賞受賞作品とは異なり、一般のファンには存在さえも知られていない映画たちの中にも、忘れられない強烈な印象を残す作品が数多くあるのです。

 個人的にはクリストファー・リーが多く出演したハマー・フィルムのホラー映画、ダイナメーション撮影が郷愁を誘うハリーハウゼン関連作品、ジョージ・A・ロメロの初期作品、そしてロジャー・コーマン関連作品がこうした作品として当てはまります。

 このなかでも、ロジャー・コーマンは「ミスターB」、もしくは「Bの王様」とでも呼んでよいような映画監督兼プロデューサーです。音楽界で例えれば、映画界のフランク・ザッパのようなイメージです。80年代の村上龍監督作品(たしか『トパーズ』、『ラッフルズ・ホテル』、『KYOUKO』のいずれか)にもプロデューサーとして関わっていたような記憶があります。

 この作品にも熱狂的なファンが多く、ジョー・ダンテ監督はスピルバーグ監督に、ファンからもらった金星人のガレージ・キットを見せびらかし、スピルバーグもこれを欲しがったという逸話がわざわざビデオのパッケージに書き記されているくらいです。

 モノクロで撮られたこの作品は、大がかりなセットもなく、特撮にもお金をかけず、アマチュア無線よりチャチな通信装置?をつかまえて、「これは凄い!最新式じゃないか!」と言わしめさせる台詞を真面目に演技させるシーンがあったりして、思わず全身の筋力が弛緩していきます。

 予算が無いために特撮に金がかけられず、写真を使って表現される金星人の宇宙船が地球へ突入シーンの凄み、エド・ウッド監督の迷作『プラン9・フロム・アウタースペース』並みの軍事基地のセキュリティ体制など大笑いするところも多いのですが、仕掛けにお金をかけなかった代わりに、俳優陣にピーター・グレイヴス、リー・ヴァン・クリーフらを起用するなどきちんとした人を使い、結構しっかりとストーリーが構成されているので、割り切って見ていけば、十分に楽しめる。

 なによりも凄いのが、金星人の容貌です。なんとインパクトの強いルックスなのでしょう。金星人というよりは金星蟹と言ったほうが、イメージを掴みやすいかと思います。言葉で言うよりは「見ればわかる!」としか言いようがないほど、かなり強烈な印象を見た者に与えてくれるのは必定です。見れば、思わず口があんぐりと開いてしまうか、後ろにひっくり返ってしまうかのどちらかでしょう。

 彼の姿形だけでも、ご飯が一杯食べられる感じです。彼が地球に現れた、まさにその時、この金星蟹の科学力により、電気、石油、その他すべての動力が少々強引ではありますが、いきなり止まってしまうのですが、それは彼の科学力によってではなく、彼の容姿を見て、みんながずっこけているようにしか見えません。吉本新喜劇で、ギャグをかまされた後に、みんながこける、あの感じを思い出します。

 大阪ではギャグを言える人(ボケ)が一番偉く、ギャグに反応して切り返せる人(ツッコミ)が同じように偉く、両方できない人は「こける」ことが期待されます。たまに両方できる人がいて、彼(彼女)は職場のリーダーになります。もちろん、ボケのレベル、ツッコミのレベルによっても、瞬時に頭の良さを判断されてしまいます。言えればよいという訳ではないのです。

 いくら仕事が出来ても、このコミュニケーションが出来ないと、「おもろないねん」のひとことで、すべてを否定された上司や先輩を何人も見てきました。ひとりで会話中に「ボケ」と「ツッコミ」を交えて話をする猛者もいますが、そういう人に限って、面白くない人が多い。

 まあ脱線しましたが、なんとパンチの効いた映画なんでしょう。ぶん殴られたような衝撃が頭に走る作品です。宇宙人から逃げる時の住民の必死な形相と、彼らが持って逃げるものが人形だけだったり、ゴルフコンペか何かのトロフィーだけだったり、大笑いするシーンも沢山用意されています。不条理な世界が展開されていき、この感覚を楽しめれば、映画も楽しめます。

 銃弾、バズーカ砲を跳ね返すほど強靭な金星蟹が、不合理な武器により最後にとどめを刺される時、頭の中を駆け抜けたのは、かに道楽の「と~れとれ♪ ぴ~ちぴっち かにりょ~り~♪」(キダ・タロー作曲)の歌でした。

総合評価 63点

金星人 地球人を征服