良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)さすがにきつくなってきました。

 『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』は2001年から順次発表されてきた、映画版のハリーポッター・シリーズの第4作目ということになります。第一作目、そして第二作目の時のようなファンの熱狂は既に無い。また3作目から急速に進んだダークな世界観を推し進めていくのかと思いきや、青春映画の要素まで無理やり入れられてはたまらない。  主役級の俳優達からも、ファンタジー作品に必要だったはずのあどけなさや新鮮さといったものがとうの昔に消えうせ、儲かるから惰性で演じ続けている感が否めません。ダークな世界に存在するには人物としての深みと重みに欠けている。  ダニエル・ラドクリフは後述するとして、ロン役のルパート・グリント、そしてハーマイオニー役を務めるエマ・ワトソンが役柄と乖離してきているように思えます。当たり前のことなのですが、実際の彼ら自身の成長速度と映画世界での成長の速度が合っていない。  ダニエルは容姿はともかく、若々しさと深刻さのどちらを前面に出していくのか、いまだにはっきりせず、いつまでたってもキャラクターに深みがない。これは本人自身に魅力が無いからであろう。  なよなよしていても、何故か知らないが、大団円で最後はいつもヒーローに納まるというのではファンは納得しません。試合会場(ホームのみ)とレフェリー(ダンブルドア)によって絶対勝利する弱いレスラーかボクサーみたいです。  内容自体に深みが加わってこないのに、演じる役者だけ勝手に「身体的」にだけ成長し、身体的にだけ重たくなり続けているのです。ファンタジーの要素がどんどん消失し、暗い過去や悪魔との対決にシフトするならそれで良い。無理やりにダンス・パーティなどの青春映画の要素をぶち込むのは勘弁して欲しい。見苦しいんです。  ジョージ・ルーカス監督はスター・ウォーズ新3部作を急いで撮影し終えた感がありますが、理由の第一は新三部作での重要なキャラクター、アミダラ姫を務めたナタリー・ポートマンが加齢によって役柄のイメージを崩さないうちに撮り終えたかったようです。  個人的には新三部作は気に入らない事ばかりでしたが、ナタリーのイメージのために制作を急いだというのは致し方なかったのかとも思うようになっています。  さて、ハリー・ポッター最新作である『ハリー・ポッターと炎のゴブレット(以下ゴブレット)』ですが、今回も大金をかけた素晴らしい特撮が用いられています。最初にこのシリーズの幕開けの『ハリー・ポッターと賢者の石』を見た時に、その独特の中世のような雰囲気と現代的な感覚が同居する世界観がとても斬新に思えました。  動き出す絵画やステンド・グラスなどの細かい動きも見事でしたし、こうした見た目の面白さへの工夫には感心しました。さすがに飽きてきましたが。雨が降るシーンで、ステンドグラスが泣いているように見える描写がありましたが、ああいうのをあざといと言うのでしょう。  照明もロー・キーを中心に統一され、撮影もCGが駆使されているため、カメラが実際にはありえないアングルや動きでキャラクターを追って行く様子を興味深く見ていました。特にロング・ショットでのカメラの動きが個性的でした。  ゴールドがかった不思議な色調を持つ画面には品があり、嫌いではありません。しかし、いつまでも続編を出し続ける価値があるかといえば、かなり疑問を持っています。  作品自体はクディッチ(ずっと、この映画で出てくるサッカーのようなクリケットのようなスポーツ)・ワールド・カップでスタートしますが、時期的に外れていて、本来ならば、今年の3月公開くらいにすればちょうど良かったのでしょうが、年末公開という誘惑には勝てず、フライング気味に市場に出回ることになりました。  対戦が『アイルランドブルガリア』というのはとてもマニアックで、これがサッカーの1990年代だったならば、アイルランドにはロイ・キーン、ボナーがいましたし、ブルガリアにはストイチコフ、バラコフなどのスーパースターが健在でした。  通好みの良い試合が期待できます。作品での重要な役柄であるクラム選手(スタニスラフ・イワネフスキー)の容貌が、フランス・サッカー界の異端のスーパースター、エリック・カントナに似ているのは偶然ではないでしょう。  カントナという選手はマンチェスター・ユナイテッドに所属していた選手で、ベッカム以前のユナイテッドを支えていた選手です。数々の騒動でも有名で、野次がうるさい観客に怒り、観客席に飛び込んで蹴りをかましてくるという暴挙までしでかすほどの選手でしたが、才能だけではなく、炎のような熱さを持った名選手でもありました。  ワールド・カップを台無しにするデス・イーターたちも、明らかにフーリガンを意識しているようでした。お話自体はいつものように魔法を使って、難題を解決していくTVゲームのような内容です。  今回、目を引いたのは西川ヘレンのような大女の女子高校長、カントナみたいなハリーのライバル、ロートレックみたいなおっさんなど脇キャラでした。ブレンダン・グリーソンが演じるマッド・アイ・ムーディは丹下段平みたいで良かった。  また舞踏会シーンで、2階から階段を下りてくる、ドレスで正装したエマ・ワトソンがまるでラックス・シャンプーのCMみたいで笑いそうになりました。話も端折りすぎで、つながりが強引過ぎるきらいがあります。「こんなことがありました」、「あ、そうそう。あんなこともありました」という具合で、つなぎのないパサパサのハンバーグのような感じです。  通してみていくと、まずい方向に進んでいるのは明らかです。なかでも作品世界に深みが出てこないのは第一の致命点です。第二は演じる役者達にも新鮮味がなくなったこと、魅力的でなくなってきていることが挙げられます。   特に前述したように、エマとロイ役は深刻です。今回彼らは全く活躍していません。これほどまでに重要性がなくされているのもはじめてでした。ラドクリフ一人ですべてをやり遂げるのならば、他のキャラは全く必要なくなってしまう。  また宣伝ではハリーの恋について、かなりウェイトがかけてあったようでしたが、実際にはチョウ(ケイティ・レオン)との絡みは一言二言会話するのみでほとんど無きに等しく、嘘の広告でジャロに告げ口しなければならないくらい無意味でした。  いつもの先生達は個性的で脇としては良い。アラン・リックマン(スネイプ先生)、ロビー・コルトレーン(ハグリッド)、ダンブルドア校長先生はいつもハリーをひいきし続けますが、いい加減公平という言葉があることを理解すべきでしょう。  がんばっているのは特撮部門くらいでしょうか。音楽面でもいつものテーマをほとんど流さないのは新しく起用された監督の意地なのでしょうが、シリーズとしての一貫性がなくなるようなことは認めるべきではない。 総合評価 67点 ハリー・ポッターと炎のゴブレット 通常版
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