良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『世紀の謎 空飛ぶ円盤、地球を襲撃す』(1956)B級な処理と感覚を持つSFらしい作品!

 レイ・ハリーハウゼン・ファンの間では、おそらく賛否両論があるのではないかと思うのが、この『世紀の謎 空飛ぶ円盤、地球を襲撃す』です。なぜならば、レイらしいストップモーション・アニメーションの腕を振るう対象が円盤のみで、宇宙人のコスチュームもどことなく「便所虫」みたいで好感が持てないからです。  ビル破壊シーンは良く出来ていて、ワシントンを破壊していく様子や独立記念日のモニュメントを破壊するシーンは象徴的にいろいろな映像に挿入されたりしています。スピード感のない空を漂う円盤の映像は最近の早すぎる円盤とは正反対で、手作りの暖かみを感じます。  脚本にカート・シオドマク(『狼男』も彼の脚本)を迎えたことで、作品には警句的な筋が通っています。彼はかつて『狼男』で、隣人が急に狼に豹変して襲ってくるという恐怖を語りつつも、作品の根底で、ナチの台頭と一般人も加担した、ユダヤ人狩りの恐怖を隠喩として表現しました。  そして今回はナチではなく、共産党の恐怖を円盤という形で表したのです。彼らはスパイ活動を地下活動で行い、要人を誘拐し、拷問し、洗脳し、消費します。表情も分からない、金属で覆われたマスクを被り、情報もない新兵器で米軍を攻撃する様はまさに恐怖の敵です。  したたかにシュミレーションしながら、米国政府に要求を突きつける彼らの様子はテロリストのそれにも通じます。あくまでも娯楽映画の体裁をとっていますが、明らかにこれは共産主義に対する警戒感を表現したもののように思えます。  恐怖というのは時代ごと、国ごとに違いのあるものだとは思うのですが、米国映画で50年代に恐怖の対象となりえるのは共産主義者でしょう。007シリーズが冷戦終結後に機能しなくなったように、この作品も今になってみると機能しない部分が多々あります。しかし大衆の心の奥底の部分にある恐怖を描く事には十分に成功していたとは言える。  いまならテロリスト、増え続ける外国人犯罪生物兵器、遺伝子操作の失敗によるキメラの誕生、環境破壊による悪性新生物の地球規模での発生などが一般市民の恐怖の対象ではないでしょうか。  予算の問題からか、あまりお金を掛けられていないのは明らかであり、その分をシオドマクとハリーハウゼンの力量で乗り切ろうとしているのが理解できます。ただ先ほど書いたように、今回は「ハリーにお任せ!」的な映像はあまり無く、ハリーハウゼンも気乗りしなかったのではないでしょうか。  作品そのものは、いかにもなB級SF映画の雰囲気を全篇に漂わせていて、このジャンルが大好きな人(僕です!)にはたまらない展開と映像を満喫させてくれました。マット合成、ハリボテ、リア・プロテクション、円盤の効果音、ミニチュアセットなどの特撮がらみの映像と音響がSFファンを至福の世界に誘います。  少人数しかいない宇宙人が非常にロジカルに地球を攻撃する様子が、いかにもアメリカらしいのがまた良いんです。よく考えているんだか、何も考えていないのかよく分からないのがアメリカSF映画の醍醐味というか特徴ではないでしょうか。  『宇宙戦争』(オリジナル版)で、宇宙人が円盤から出た瞬間に地球の空気によって死滅する様子は「吉本新喜劇」並みのズッコケでしたが、この作品でも射程距離の短い(たしか100mかそこら)急ごしらえの原始的な音波新兵器で、先端を行く異星人達があっけなく全滅させられてしまいました。  これでいいんだろうかと思いつつ、これでいいんだと思う自分がいる。お金を湯水のように使うA級作品も良いのですが、創意工夫とお約束で切り抜けるB級も素晴らしいですね。決して子供向きには作られてはいないことも素晴らしい点です。 総合評価 65点 世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す
世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す [DVD]