良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『さらば 宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(1978)これで本当に「さらば」していてくれたら...。

 「無限に広がる大宇宙....」というナレーションを聞いただけで、一気に30年の月日を遡らせるアニメ映画がこの作品です。ガンダム・ブームが来る一昔前に大ヒットをしていたアニメの金字塔がこのヤマト・シリーズなのです。  今になって改めて見返すと、いろいろな事が見えてきました。ほとんどが残念ながら悪い面でした。製作には、次々に発表していった劣悪な続編のために、コアなファンからも見捨てられ、一気に悪名が高くなってしまった西崎義展が関わっています。  三十代後半から四十代前半の人にとってはSFアニメといえば、このヤマト・シリーズとガンダム(もちろん、最初のやつです)でほぼ決定されるのではないでしょうか。幼稚園児の頃にTVで見た『宇宙戦艦 ヤマト』のファースト・シリーズには毎週ワクワクしていました。  「地球滅亡まで、あと122日」とか、「地球滅亡まで、あと23日」とかどんどんタイムリミットが迫ってくる最後に流されるテロップは緊迫感があり、子供心にも新鮮で、僕の友達は「ヤマト頑張れ!」と無邪気に応援していました。  TVシリーズはかなり視聴率もあったんじゃないかと思います。アナライザーの塩ビ人形も家にありました。なぜか緑色だったのが不思議でしたが子供は小さいことは気にしません。  ヤマトが人気絶頂だったのは1975年?(記憶が定かではないのですが、たしかこのくらいの時期だったと思います)から1979年くらいまでで、その翌年からは『機動戦士ガンダム』がなぜか再放送されてから大人気となり、誰もがヤマトを忘れ去っていきました。  主人公アムロ・レイが成長していき、好敵手シャア・アズナブルと渡り合い、最後には圧倒していくという大河的ストーリー展開やキャラクター設定もファンに受けたガンダムは敵方のザク、ドム、ゲルググなどのモビルスーツを中心にした迫力ある白兵戦のような戦闘シーン描写が秀逸で、すぐに子供たちの心を掴みました。  プラモデルでも大人気となるほどメカデザインも優れていたために、艦隊戦しか出来なかったヤマトを完全に抜き去っていきました。円盤というか宇宙船よりも、人型をしたモビル・スーツの方が感情移入しやすかったのは事実でした。  ヤマト関連のプラモデルもとても人気がありましたが、ガンダムが現れると、いわゆる「ガンプラ」ブームが巻き起こり、何処のお店に行っても、ガンプラを買い求めようとする小中学生の列が平日でも現れ大変な騒ぎでした。  僕の通っていた小学校でも「学校休んでプラモなんか買いに行くな!」というお達しが先生から出たほどでした。なかには定価で買ったプラモを割り増しで売っていた輩もいて、今のオタクブームの先駆けともいえる様相でした。アニメージュを持っている子はみんなから羨ましがられていたものです。このへんにもオタクの兆候が見えていますね。  世代的にガンプラに並んだやつらが、オタク文化を支える中心層です。僕もですけどね。実際並んだ事もありましたが、買えなかったですね。子供たちに何処かの店に入荷するという情報が入って、みんなで行ってみると既に長蛇の列で、たまたま取材していた新聞の前で、争奪戦が起こり、怪我人が出たという記事を読んだ記憶もあります。いやあ、懐かしい。  ヤマトが没落していくのと歩調を合わせるように輝きを失っていったのはドリフターズでした。1979年くらいまでは土曜の8時といえば、ドリフの独壇場でした。しかしビートたけし島田紳助明石家さんまらを大挙起用した、フジ系列の『オレたち ひょうきん族』の出現とともに没落していきました。  何か違うセンスを子供心に感じた、「ひょうきん」とガンダムは、いまでも思い出に残るプログラムでした。サブカルチャーである、お笑いやアニメ、さらには音楽でもYMOやニュー・ウェイヴに変わっていく様子は、子供心にも「何かが違ってきているなあ」と感じさせてくれました。実際に昭和が終わりだしていたのが80年代だったのかもしれません。  これらのサブカルチャーが変化するのと同時に、ヤマトの文脈(大本営的な)を受け入れられなくなった、僕らの世代はガンダムにのめりこんでいきました。シュミレーションの要素を持って、シューティング・ゲームをしていき、だんだん速く、そして強くなっていく対戦相手を倒していくようなガンダムの展開はまさにゲームです。  横道に逸れましたが、デスラー総統やドメル将軍が好きだった僕は非国民扱いされていましたが、僕の目にはヤマトよりも、デスラー艦、ガミラス艦、三段空母(ドメル艦隊には緑、黄色、青が揃っていました)、戦闘空母(赤いやつで、三作目にはデスラーの母艦として登場したやつ)がよりカッコよく映っていました。  この第二シリーズでも、彗星帝国、アンドロメダ、ミサイル艦、無人駆逐艦超弩級巨大戦艦など漢字ばっかりのメカが沢山出てきました。拡散波動砲という響きも好きでした。  冷静に振り返ってみると、ヤマトの魅力はドラマではなく、メカニックのデザインの秀逸さだったのです。ドラマ自体は時代劇や西部劇でのパターンでよく見られる、たった一人の保安官対大人数のならず者集団との戦いと大差なく、愛国心やら自己犠牲の要素を大量に振りかけた、大本営製作のような汗臭く、忍耐礼賛の状態に陥っていたのです。  宮本武蔵の吉岡一門との戦い、板妻の『雄呂血』、勝新の『座頭市』シリーズを髣髴とさせる孤独な戦いの主人公が、一隻の船に代わっただけで、内容は何も変わっていない。ただひたすら殺陣シーンだけで、一本の作品を撮りきった強引な作品だったのです。  よくもまあ、これほどたった一隻の船内という小さなコミュニティの中で、甚大なる犠牲者を出しながら、全くの迷いや疑問もなく、任務だけをひたすら遂行し続ける軍人さんの話を、子供向けとして放映してきたものです。  軍国主義丸出しの陳腐な台詞を吐き続け、死に望んでもお国のために笑って死んでゆく彼らには恐怖すら感じます。むかしはそんなものなんだろうと思って、普通に見ていました。プロパガンダのターゲットというのが子供であるならば、この作品は見事に自己犠牲やお国のためという文脈を子供に植え付けているので、成功作と言えるかもしれません。  今回、28年ぶりにこの作品を見た感想はこのようにひどいものでした。好きだったのはメカニックであり、声や音楽であって、ストーリーではなかった事にも気づきました。  キャラクター達は個性があり、活き活きとしていましたが、それは作品が優れているためではなく、声優さんたちが優れていたからではないでしょうか。富山敬麻上洋子納谷悟朗仲村秀生安原義人神谷明永井一郎緒方賢一 、伊武雅之 、佐々木功曽我部和行大塚周夫 などアニメ界の御大がほぼ総出演しています。  宮川泰の音楽と、戦闘での効果音も素晴らしく、白色彗星のテーマ、コスモタイガーその他の臨戦態勢でのテーマ、デスラーのテーマ、波動砲のチャージ音、ワープのテーマなどライト・モチーフを上手く使い、観客が見やすくしています。とりわけ宗教音楽の趣のある、白色彗星のテーマはパイプオルガンの音色が印象的でした。  思い出は美しいままであって欲しかったのですが、この作品の思い出に関してはそうはなりませんでした。ただアニメ・マーケットがさらに進化していく過程においては無視する事は決して出来ないエポック・メイキングな作品であった事を否定することはできません。  雑誌、図鑑、プラモなどの二次利用、TVアニメのヒットを受けての劇場用映画製作、続編の制作、大量の宣伝などのちのアニメ製作会社が手本とするべき指針を数多く示唆していたのは間違いない。 総合評価 72点 さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~【劇場版】
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