良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『マルタの鷹』(1941)ボギーの魅力が画面を覆いつくす。ダンディー!カッコイイ!ヒロインは?

 ジョン・ヒューストン監督はまだ名声を得ていなかった駆け出しの時期に、素晴らしい俳優達に囲まれて、この作品の映画製作に携わる事になりました。『マルタの鷹』は主演にハンフリー・ボガートを迎え、脇にもシドニー・グリーンストリート、ピーター・ローレという稀代の名優を配して、名作ハードボイルド・アクション映画として後世に残る栄誉を得ました。  男のカッコ良さを前面に打ち出しながら、しかも男臭くなく、無表情で淡々としていて、スタイリッシュで、良質なフィルムノワールとして必要なものをほとんどすべて持ち合わせていました。活劇、サスペンス、ミステリー、アクション、ラブロマンスといった娯楽映画の要素を網羅しているにもかかわらず、上映時間約100分間の中で、きちんと物語とキャラクターを描ききっています。  贅沢な演出ですが、一歩間違うと収拾がつかなくなっていく可能性もあるので、よほどしっかりと全体をコントロールしていく力量が要求される作品だったのではないか。出来栄えは素晴らしいものになりました。     脚本にもヒューストンがかかわり、台詞は原作小説からの引用を多く取ってきたため、場面場面にカチッとはまる脚本が出来上がりました。いろいろ変えたがる人も多く、成功する場合、失敗する場合とありますが、原作に忠実に作っていくことによって、素晴らしいものが出来上がることもあるという見本かもしれません。  ヒッチコック監督作品のファンには、この作品で重要な意味を持つ「マルタの鷹」が、ヒッチ作品での潤滑油として用いられるマクガフィンであることがすぐに理解できます。ヒッチ作品ではほとんど最後まで登場しない事の多いマクガフィンですが、この作品のラストでは「マルタの鷹」が登場して、見事なオチを付けてくれます。  通常映画では台詞に頼りすぎるものは失敗作と見做されがちではありますが、ここでの台詞は見事にカッコ良く決まっているものが多いので、さほど気になりません。基本的には映像で語り、それに加えて、台詞が決まっているのであれば問題にはなりません。  「信じて欲しい」という台詞がこれほど無意味な作品も珍しいほどの裏切りの連続でストーリーが転がされていきます。ボギー自体も正義のヒーローというわけではなく、どっちにでも転んで行く危うさを秘めています。ここらへんが他の作品とは一味違う、影と個性を持ち続ける魅力的な部分かもしれません。  映像で興味深いものをいくつか紹介していきます。まずボギーの同僚が撃たれるシーンから、すでにこの犯罪が意外な人物が犯人である事を物語る。彼は撃たれる時に「なぜ?」という顔をして撃たれるのです。ここに誰が真犯人であるのかという謎解きの要素が発生します。  ヒロイン(メアリー・アスター)に感情移入させにくくする撮り方も興味深いものでした。ボギーとのツー・ショット画面でも背中を向けて話すシーン、斜め後ろを向いて話すシーン、目を合わさずに話すシーン、一緒に映っていても光と影の照明バランスで意図的に彼女の顔を暗く映す演出が繰り返されていたり、徹底した様子が窺えます。  最後のシーンで、アスターを刑務所送りにするシーンでの台詞、「男には仲間が一番大切なんだ」のあとに「縛り首になっても忘れはしないさ」を続けるセンスの良さには脱帽します。  台詞よりも印象に残るのが、彼女が警察に連行されていくシーンで、エレベーターの扉が閉まるところでの格子状の影が刑務所の鉄格子を連想させるところでした。  またこのときのボギーの取る行動が、彼女を見つめ続けるというような未練たらしいものではなく、言葉もなく、彼女を見ることもなく、黙って階段を下りていくというのがダンディーでした。違う人生を送るのだというのが暗示されています。  人物を中心に据えて、観客の視点を一定の場所、つまり画面中央に置き続けて混乱を招かないように作品を構成していくのは現在の監督連中が無くしてしまった良心を感じます。カメラをやたらと振り回したからといって、名作が生まれるわけではありません。  ヒューストン監督はテンポよくカットを割っていき、構図と光のバランス、シーンの構成を上手くすれば、目まぐるしいカメラの動きなど全く必要ではない事を映像で物語っています。古典的な方法でしょうが、基本というものはそうそう変わるものではありません。  刑事  「なんで、こんなに重いんだ?」   ボギー 「みんなの夢が詰まっているからさ」        カッコイイ!  作品の中で弱いと思うのはヒロインを務めたメアリー・アスターです。彼女にはヴァンプとしての魅力は皆無なのです。彼女の役どころに素晴らしい女優を得ていれば、さらに名作としての地位を高める事もできたのではないでしょうか。ローレン・バコールだったら、どうだったんだろうか。  作品とはなんにも関係ないのですが、「THE MALTESE FALKON」のマルチーズって、あの犬のマルチーズと一緒なんでしょうかね? 総合評価 78点   マルタの鷹 特別版
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