良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『地震列島』(1980)いつ起こっても不思議ではないと言われ続けて30年。

 数多く製作された東宝特撮パニック映画のうちの一本で、80年代に公開されたのが大森健次郎監督の『地震列島』でした。1973年に日本を沈没させ、1975年に東京湾を炎上させられかけ、そして今回もまた、首都を壊滅させる地震が襲ってきます。  SF特撮の素晴らしいところは絵空事と言い切れないディディールを積み重ねるほどに説得力が増してくるところではないでしょうか。10の現実の中に、2の虚構をブレンドすれば、緊迫感のある作品に仕上がります。10のうち、4の虚構を入れると、完全にドラマとして受け取られ、感情移入はし易いものの、現実ではない世界として、その映画を楽しむことになる。  この作品が公開された1980年当時にはかなりの話題になった作品でした。そのころ、関東地方に住んでいた方ならば、容易に理解していただけるとは思いますが、震度2くらいの軽震は頻繁にあり、年何回かは震度4程度の地震も経験しました。うちの近所は海岸だったので、地震が来るたびに津波も気になりました。  何もなければ、「また地震が来たか。」程度だったのですが、この頃にはマスコミでしょっちゅう東海大地震についての情報番組が放映されていたため、子供だった我々の脳裏にも情報が植え付けられていきました。  関東地方の学校に通った事のある人は誰でも経験したであろうことに月一回の避難訓練があります。大体土曜が多かったと記憶していますが、4時間目の後に学校のサイレンが鳴り、訓練が始まりました。笑っていたり、ふざけてたりすると恐い先生に怒られたものです。校庭に集まってからは先生の話があって、それが終わるとそのまま集団下校というパターンでした。  イスには座布団兼防災頭巾が付いていて、給食の牛乳などをこぼした後の避難訓練は最悪でした。いろんな話を聞かされましたが、全く聞いていなったので、内容も覚えていません。しかし地震が来ると自動的に窓を開け、風呂に水を張る習慣が付いているのが不思議ではあります。  地震の恐さを本能的に知っているのか、避難訓練の賜物なのかは定かではありませんが、咄嗟の行動は今でもとれるようです。小学校高学年の時にはこの地震と、ノストラダムスの大予言がかなり心理に暗い影を落としていて、「どうせ死んじゃうんだよなあ」的な投げやり感がありました。  映画でも『ノストラダムスの大予言』というのがあり、ラストシーンでの水爆発射など結構ショッキングでしたが、『日本沈没』、『地震列島』の三つの作品は個人的には子供心に与えた影響力が強かった覚えがあります。  それはさておき、この作品では勝野洋が主役を務め、脇には山崎努大滝秀治、永島敏行、多岐川裕美、斉藤達雄、佐分利信松尾嘉代などが顔を揃えていました。印象に残ったのは斉藤達雄と松尾嘉代でした。どちらも嫌な男と嫌な女を上手く演じています。  映像的には今の目で見ると、拙く映るのかもしれませんが、特撮チームは精一杯の努力を怠ってはいません。高速道路の倒壊と乗用車の落下、ガラスの飛散、街を埋め尽くす紅蓮とどす黒い炎、高層建築物の倒壊、堤防の決壊、エレベーターの恐怖、列車の転覆、地下街の恐怖など都市生活中で起こるパニックを盛り込み、現実味を増す演出を実現している。  地上の話はあまりなく、高層階上と地下での一般市民が巻き込まれたパニックに特化した演出を行った。そのため、自衛隊や政府の動きが見えてこないというマイナス要素を背負ってしまい、正当に評価されにくい作品になってしまったのは残念です。  この作品での政府はほとんど何もせず、指示を出すだけであり、その指示も的を得たものではない。政府官邸の地下から様子を眺めるショットは無力な政治を痛烈に皮肉っているようにも見える。映画的に失敗したのは予算の関係もあったのであろうが、自衛隊の活躍や消防の奮闘もすべてを台詞で済ませてしまった事です。  せっかくパニック映像が優れているにもかかわらず、肝心の対策や対応を全く描いていないために、大作を萎ませてしまいました。これは非常に残念です。見るべき教訓となりえる映像が多々あるのに、脚本がダイナミックさを台無しにしている。  近視眼的に小市民の視点で地震を描いてしまい、本来持つはずであった器を自分から小さくしてしまいました。政府の対応の描き方が中途半端だったために、余計作品を陳腐なものにしてしまいました。新藤兼人が担当した割には良いとは思えません。  予知と防火を二項対立として捉え、どちらを優先するのかをテーマとして持ってきたのは優れていると思います。実際に現政府にも企業にも対策があるとは思えません。狭い道路、備蓄食料、警察消防の無力化など山積する問題は何一つ解決されてはいない。  特撮の拙さを笑う前に考えなければいけない問題を避けて通っていないだろうか。欠陥住宅、欠陥道路、欠陥政府...。何も変わっていない。  もっともセンセーショナルな話題になったのが、地震の影響で倒壊する高速道路と河川が決壊し、地下水が流入して、地下鉄が浸水して乗客が溺れ死ぬというシーンでした。当時、建築関係者は「このようなことは決して起こらない」と豪語していましたが、神戸の震災で高速がどうなったかは皆さんご存知です。ストーリーと演出の先読みの素晴らしさは建築物破壊のシーンに明らかです。 総合評価 64点 地震列島
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