『Ｌ．Ａ．コンフィデンシャル』（１９９７）密度の濃い犯罪ドラマとカリフォルニアの青い空。

　原作はジェームズ･エルロイで、この作品は『ブラック･ダリア』に続いて出されたＬＡ四部作のうちの、第三作目のＬＡ物でした。『ブラック･ダリア』に比べるとかなり猟奇色が薄まり、良質なクライム・サスペンスとして仕上げられています。 　カーティス・ハンソン監督による1997年の作品で、見事にアカデミー賞を獲得したのが、この『Ｌ．Ａ．コンフィデンシャル』でした。ただ最近10年間のオスカーを獲得した作品の中で、また見たいと思える作品は非常に数少ないのも事実です。 　鑑賞する、こちらの感受性が随分と鈍ってしまったのか、過去ばかり褒めるような老化が始まったためか、最近の映画自体に観客へ訴えかけるエモーションが希薄になってきているためなのかは定かではありません。別に何も訴えかけたくないのかと思ってしまうような作品もたまにあります。 　この作品に限っては、アカデミー賞うんぬんは抜きにしても、どのようなファンが見ても、結構楽しめる作品だったのではないでしょうか。ケヴィン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、そしてジェームズ・クロムウェルが４者４様に演じた警察官の生き様は生臭く、鮮烈で、とかく散漫な印象を与えがちなオールスター･キャスト作品が多い中で、見事に纏まりのある作品として仕上げられていました。 　ケヴィン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアースは彼ら一人でも、一本の主演映画が撮れる訳ですから、映画会社も彼らを上手く使わないと損をします。また彼らを納得させられる監督でないと、このような企画は頓挫してしまいます。 　その意味ではカーティス・ハンソン監督の功績も見逃せない。スターを多く使ったからといって良い映画が生まれるわけではありません。彼らを引っ張るプロデューサーや監督がいて、はじめて映画は動き出すのです。主演俳優三人は良い仕事をしていました。 　彼らだけが素晴らしかった訳ではない。ヒロインを演じた、キム・ベイシンガーも重要な役どころで上手く機能しています。とても美しく撮られていて、彼女にとっても代表作になりました。彼女も自身が出演した作品で、これよりも強い存在感を出せた作品には未だ巡り会っていません。ただ彼女は生まれてくるのが半世紀ほど遅かったのかもしれません。 　とても美しい女性ではありますが、雰囲気が５０年代のハリウッド女優に近い印象があります。古典的な美しさとでも言いましょうか、個人的には好きなのですが、今風ではないと思います。とすれば彼女が出るべきなのは現代劇ではなく、禁酒法時代を描くような作品でしょう。 　存在感を再び示すにはハワード･ホークスが手がけたような犯罪映画やギャング映画に出演し、ファム・ファタールを演じるに限るのではないでしょうか。台詞や劇中に『ローマの休日』やリタ・ヘイワースが出てくるのも昔からの映画ファンには嬉しいところです。 　その他の脇役にも曲者を集め、ダニー・デビート、デヴィッド・ストラザーン、ポール・ギルフォイルなどが活き活きと作品世界に厚みを与えています。ただ、ダニー・デビートの役回りを演じる事ができる俳優が減ってきているように思います。かつてのピーター・ローレのように主役も張ることができる名脇役がいてこそ、作品も深みが増してくるのです。 　音楽にはジェリー・ゴールドスミスを起用し、ビング･クロスビーやディーン･マーチンらのムードのあるオールディーズ・ナンバーを多用して、観客にノスタルジーを喚起させている。カリフォルニアの青い空と懐かしのオールディーズが、凶悪犯罪の連続や警察内の憎悪と不信感という、ドス黒い世界とを対比させるだけではなく、より積極的な役割、つまり中和させようとしているように見えました。 　照明も全篇を通して見ていくと、犯罪映画の割にはシルキーでソフトな印象を与える場面が比較的多いのですが、暴力が渦巻く場面ではノワールな雰囲気を出している。個人的には好きな照明でした。 　緊迫感のある物語を描きながら、じつに落ち着いた編集が成されているのは小手先のテクニックに頼らずに、じっくりとこのサスペンスとミステリー要素の強い犯罪映画を観客に見せようという意図でしょう。群像劇でありながら、重厚にキャラクターが描かれているのはとても優れている。 　上品なセンスを持ち、奇を衒った演出もせず、観る者が集中しやすいように視点を誘導して、観客の目にも優しい作品を仕上げた監督と編集の手腕はもっと褒められても良いのではないでしょうか。傑作と呼べる作品の少ない８０～９０年代作品の中では、大好きな作品のひとつです。 総合評価　８６点 　 L.A.コンフィデンシャル

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