良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『眠狂四郎殺法帖』(1963)市川雷蔵の代表的シリーズの幕開けを飾る作品だが...。

 市川雷蔵という響きを聞くだけでも、昔からの時代劇ファンは大喜びする名前ではないでしょうか。勝新太郎と双璧を担った大映若手スター・市川雷蔵の代表的な作品群といえば、『忍びの者』シリーズと、この『眠狂四郎』シリーズである事は疑いない。  勝新太郎に『座頭市』シリーズや『悪名』シリーズがあったように、市川雷蔵にもファンの記憶に残る、これら二つの素晴らしい時代劇シリーズがありました。若くして亡くなってしまい、老成した姿を見ることが出来なかったのは非常に残念ではありますが、それでも彼が出演した作品の多くは今でもファンに愛されています。  この作品、『眠狂四郎殺法帖』の主人公・眠狂四郎柴田錬三郎執筆による小説がベースとなっていて、何度か映画化やTV映画化されていますが、雷蔵ほどのインパクトはありません。彼の美しく、しかも陰を秘めた顔立ち、低く響く声は他の俳優にはない個性があります。では上手いのかと言われれば、「否。」と答えますが、彼は大きな存在感のある、稀有な俳優だったのです。  カラー作品にもかかわらず、暗さに満ちた雰囲気を持つために、モノクロ作品のような印象があります。作品自体は決して素晴らしかったとは言い難いのですが、それでも記念すべき第一作目という価値は失われはしません。  茶色がかった頭髪、女形のような眉、雪のような白い顔など中性的な部分とニヒルで刹那的な印象を与える主人公・狂四郎、そして彼を演じた、市川雷蔵の持つどこか暗く沈んだ雰囲気とがピッタリとはまり、狂四郎は雷蔵に、雷蔵は狂四郎に出会って、お互いに新しい命が吹き込まれたようでした。  コメディ的な要素があり、これが殺伐とした斬り合いとの対比を描き、作品中での緩急のバランスを取ろうとしています。ニヒルで陰鬱なだけではなく、江戸情緒のある小噺的な会話を挿入する事で、親しみやすい部分が加わり、一層魅力的なキャラクターになっています。  ですが、ファンにはあまりこのような笑いの要素は好まれていなかったようで、徐々に続編が作られていく毎に、ニヒルな剣豪としての狂四郎のイメージが作られていったのは残念でした。人間味を感じさせる描写があってこそ、斬り合いの持つ迫力とのギャップが劇的効果を生むのではないでしょうか。  この第一作目で、時折見せる雷蔵の弱さを示す表情や肩の力の抜けた芝居は後年のステレオ・タイプな続編では、出来上がってしまった固定的イメージを守るだけになり、面白みが失せてしまう。オリジナルの良さが十分に出ていたのがこの一作目である。  ただ、この作品における一番の問題点は、狂四郎が駆使する必殺剣法、円月殺法の凄みがあまり伝わってこない事です。この円月殺法を使うところだけはフォーマリスティックな映像描写が絶対に必要だったと思うのですが、一作目では出ていない。この辺の批判があったためか、徐々に続編が作られるたびに、芝居がかった剣法描写に変わっていく。  殺陣自体も「軽い」印象が否めない。伝統的な「1対大勢」、そして彼を円で囲うという一般的な殺陣を構成しているのも、目新しさのない平坦な印象を与える原因だろうか。斬殺する時に出る「ヒューン」という効果音も軽さを助長していました。クライマックスの城健三朗(若山富三郎)との一騎打ちと相手を殺さず生かしておき、お互いに好敵手に巡り会えた喜びを分かち合うシーンはカッコ良い。  映像全般としては退廃的な雰囲気を持ち、暗さと陰鬱さを感じさせる映像で、新しいタイプの主人公である狂四郎を活き活きと描いた点で評価したい。時折寂しそうに笑う雷蔵はそれだけでも魅力的な俳優でした。 総合評価 60点 眠狂四郎殺法帖
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