良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト』(2006)デップはヨゴレ役が一番!

 ジョニー・デップが出演している映画で、彼が活きている映画は彼が異形の役、ヨゴレ役、変質者的役柄をやっている映画です。『シザーハンズ』『ブロウ』『エド・ウッド』そしてこの『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでの彼は強い印象を残してくれます。  尖がっているというか、目がイッテしまっているというか、良い人役の似合わない、いまどきのシロップ付けのハリウッドらしくない個性は、むしろそういうハリウッドの現状と傾向にあるからこそ、余計、彼独特の強い持ち味としてきらりと際立ってくる。髭ボサボサ、体臭が強そうな泥臭い役をしている彼は心から俳優業を楽しんでいるように思えます。  この全世界で大ヒットした『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで、ジョニー・デップが演じるジャック・スパロウ船長は大嘘つきで、女好き、盗み癖があり、ずる賢く立ち回ろうとする女々しいアンチ・ヒーローではありますが、人間臭さを撒き散らす彼の個性はステレオタイプ化が加速する一方のハリウッドでは異質の魅力を放っている。  しかもこの映画がそのステレオタイプ化の権化ともいえるディズニーから発信されていることに興味が湧く。アニメを子供向けに製作しなくてはならないディズニー社の現状では、こういった大人も観る映画でクリエイターたちの毒気を発散させる必要があるのかもしれません。  個人的には『シザーハンズ』を見たのが最初のデップ出演作品でしたが、異形の者やアウトローを演じる彼はとても活き活きしているように見える。デップ自身がそういった役が好きなのではないでしょうか。  もし子供の頃にデップが『バットマン』を見ても、おそらく彼のご贔屓はジョーカーだったに違いない。分かりやすく日本のアニメでいえば、ルパンより銭形、アムロよりシャアにより魅力を感じるタイプだったような気がします。  作品を見て思い出したのは実はハリーハウゼンで有名な『シンドバッド 七回目の冒険』『深海と海の怪物』などの特撮映画、そして『スター・ウォーズ』シリーズでした。前者に関してはストップ・モーション・アニメーションだったのがCGに変わっただけです。  ばかでかい海の怪物、クラーケン(オオダコ)が出てきた時には爆笑しました。是非とも、彼にはどっかで橋を壊して欲しかったのですが、そのシーンはさすがにありませんでした。しかしまあ、類似し過ぎではないか。海のクリーチャーたちはそのまま『スター・ウォーズ』のタトゥイーンの酒場に出演したとしても、全く違和感がないでしょう。  人物設定もほとんどスターウォーズと同じに思えるのです。ジャック・スパロウハン・ソロ、エリザベス・スワン(キーラ・ナイトレイ)=レイア姫、ウィル・ターナーオーランド・ブルーム)=ルークとして見ていくとますます似ているように思えました。  演技面では前作では完全にデップの独り舞台だったのが、オーランド・ブルームキーラ・ナイトレイが充実してきています。とりわけオーランドの存在感が大きくなってきています。デップだけで、いつまでも脚本がスカスカの海賊シリーズを誤魔化し続けるのは無理なので、彼らの成長は大きい。しかしまあ、これだけお話に意味がない大作シリーズも珍しいですね。  お父さん(ステラン・スカルスガルド)が闇の世界に行っているのも同じであり、かつて敵であったパート1の船長がパート3で重要な役で出てくる(予定)のはランド・カルリジアン(ビリー・D・ウィリアムス)を思い出す。デイビー・ジョーンズもジャバ・ザ・ハットみたいです。  映像そのものは、いかにもジェリー・ブラッカイマー的(監督は別人ですが、どうみてもブラッカイマー節です)なきめ細かい神経質なまでにくっきりと映される静物のショットやリズムよく刻まれたカットの積み重ねにより、上手くモンタージュされています。  『CSI』シリーズを見慣れている人が見れば、その心地良さが分かっていただけると思います。また嫌いな人はその小刻みなリズムが作為的に映るかもしれません。まあ物の見方です。TVドラマシリーズがアメリカで大人気の『CSI』シリーズですが、何故かあまり日本では話題にもならないのが不思議です。  ニューヨーク版ではゲイリー・シニーズが主演、オリジナル版の最終エピソードはクエンティン・タランティーノが監督を務めるなど話題には事欠かない。マイアミ版もデヴィッド・カルーソの渋い演技が魅力的です。たっぷりお金をかけて、しっかりしたものを作っているので、ツタヤで探すか、WOWOWで見るかして確認していただけると幸いです。  それはそれとして、この「海賊2」はジョークを上手く取り入れている映画でもあります。「デップから、彼のコンパス(方位磁石)を取り上げろ」と命令するシーンのあとに、一生懸命コンパス(線を引くやつです)でせっせと地図を引いているデップを映し出すカメラには笑うしかありません。  ジャック・ダベンポートが演じる提督とオーランド・ブルーム、そしてスパロウ船長が10メートルはあろうかという水車の車が回転していく中や上で決闘するシーンは映画でしか表現できない楽しい映像でした。中を走り回る時はハツカネズミのようであり、上を走るときはサーカスのようです。  CGを上手く使っていて、CGの質自体もレベルがもちろん高いのですが、それ以上にこういった描写の楽しさに嬉しくなりました。総じてこの作品でのCG使用シーンは楽しいものばかりですので、CG嫌いが見ても、気分良く見れる作品ではないでしょうか。  アクションでも笑えるシーンは多くあります。大玉競争のような逃走シーン、背中に大串を背負ったまま敵から逃げ出すデップには笑うしかない。まぶたに目玉を書くというのを関西の芸人ならともかく、ハリウッドスターでやってしまった人をはじめてみました。脱力します。これは大きな予算の付いたB級作品なんだろうか。  なにはともあれこの作品の上映時間の2時間30分は長くはない。映像としても美しいシーン(海中に沈み行くドレス)や冒頭の梅に濡れる英国式のティーセットなどは印象に残ります。  中身的には他愛ないストーリーはでありますが、カップルや家族連れでも映画館で楽しく過ごせる作品ではないでしょうか。前作の出来から期待し過ぎて観た人には肩透かしを食わせたようなエンディングでしょう。観る前にこれがさらなる続編パート3が発表されることを知らずに観た人には怒りが収まらない続編2だったかもしれません。  もし僕もこれを劇場で観ていたとすれば、そしてパート3が出来ることを知らなければ、確実に怒っていたことでしょう。今回はDVDだったので十分に楽しみました。  しかし続編がオリジナルを超えることはほとんどないという映画の現実を知っていれば、そしてハリウッドはドジョウを何匹でも探し回るという習性を知っていれば、そもそもこういった批判をすること自体が映画を知らない証拠とも言えます。  製作会社の思惑が制作者の意見よりも重視されるという経済の当たり前の原則です。だれが『猿の惑星』『ロッキー』『ダイハード』『ランボー』『ターミネーター』の続編どころではないシリーズ化を望んだのでしょうか。  もちろん映画ファンではなく、メジャーの映画会社です。大ヒットした映画の続編となる映画は安定収入がある程度保障された映画である。観る側も作る側も安心して見ていられます。いわば想定内の範囲ですべてが収まるのです。  さらにいえば、こうした『パイレーツ~』のような映画はエスケイピスト映画でもあります。イラク戦争で病んでいる疲れ切ったアメリカ、将来に希望を見出せない日本で、このような肩の凝らない映画がヒットするのは偶然ではないような気もします。 総合評価 71点 パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト スペシャル・エディション
パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト スペシャル・エディション [DVD]