良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『シンドバッド 黄金の航海』(1973)前作公開から、15年後に作られたシリーズ第二作目。

 特撮映画史上、一二を争う出来栄えを誇った『シンドバッド 7回目の航海(ビデオは冒険)』が製作されたのが1958年、そしてこの続編というかシリーズ映画が製作されたのが1973年です。時間の空白は15年ということになります。当然、主役であるシンドバッドをはじめ、主要な俳優は全て入れ替えになってしまいました。  役者の変更などは髭モジャで、頭にターバンを巻いているため、誰が誰かはっきり分からないであろう、ほとんどの観客にとってはどうでも良いことなのかもしれません。個人的にも前作品と今作品には違和感はありません。しかしそれはそれで、特撮技術の進化という観点からすると、複雑な思いもあります。  どういうことかと申しますと、違和感がないということは進化がないということに繋がるからです。『スターウォーズ』(エピソード4)と『ジェダイの帰還(昔は復讐)』では予算の絡みもあるので一概には言えませんが、特撮技術をみると、そこには格段の進化を見ることが出来ます。ところが、この作品ではこのような進化を見ることはない。  恐ろしいことに、ストップ・モーション・アニメーションの技術は前作『シンドバッド 7回目の航海(ビデオは冒険)』が1958年に公開された時点で、既に頂点を極めてしまっていたのではないか、という仮説が思い浮かぶ。  実際、『シンドバッド 七回目の航海』と『シンドバッド 黄金の航海』を続けて見たとしても、全く違和感はありません。たしかに、どちらもワクワクしながら見れる数少ない特撮映画の傑作なのですが、クレジットで15年という製作年度の開きを見ると愕然としてしまう。  本当に大好きな映画ではありますが、この進化の無さは一体なんなのだろう。ハリーハウゼン・ワールドを満喫できる作品で、ファンとしてはとても嬉しい作品なのです。しかしどこか一抹の不安というか、哀しさを感じる作品でもあります。  子供の頃には、中東の雰囲気を上手く醸しだしていたと思っていた舞台設定も、今見るとかなり強引な作り方をしている部分が非常に多い。とりわけ宗教観がどうも怪しく、イスラム教、インド思想、ギリシャ神話、キリスト教をごちゃ混ぜにした物語構成と風俗の連発には思わず笑いそうになる自分がいます。夢中になって、観ていた作品だったのになあ。  ケンタウルスは多分ギリシャだし、カーリ神はおそらくインドだろう。シンドバッドをはじめ、船員さんたちが巻いてるのはターバンだったが、エジプトに行った時、あの巻き方をしていた人はいなかった気がします。  たしか二通り巻き方があって、どちらかはヒンズーだったような覚えがあります。中東で見たのは「アブドーラ・ザ・ブッチャー巻き」がほとんどでした。もしかすると宗派の違いで巻き方が違うのかもしれませんので、ただの勘違いなのかもしれません。  しっかりと覚えていなかったので、定かではありませんが、おそらく色々と怪しい部分があり、それに対して無意識のうちに胡散臭さを感じてしまっているのかもしれません。そして、それが現実にはあり得ない、作品独自の荒唐無稽な魅力を生み出しているのも事実です。映画的に成立していればそれで良いという価値観で見るとまったく大丈夫なのですが、気になりだすときりがなくなります。  ストップ・モーション・アニメーションという特撮技術は、見た目のおどろおどろしさと何処となくユーモラスな動きのアンバランスがたまらない魅力になっています。暖かみがあり、体温を感じる特撮に巡り会えるのもファンには嬉しい。CG全盛の風潮が強い現在の技術では逆に出せなくなった作り手の熱意を味わいたい。  魔術により、暗闇の中で、木製の船首像が軋みながら船首から動き出し、船員を薙ぎ倒していく海上の戦いは気味が悪い。謎のレムリア島に到着した時に待ち受ける巨大神像も印象深い。そしてこの作品で最も強く印象に残る活躍を見せるのが、六本の腕を持ち、その全ての腕で長剣を構え、シンドバッドたちに襲い掛かるカーリ神像でした。  カーリ神の六本の腕を同時に動かし、しかも役者の演技と同調させなくてはならないという難易度の高い合成をやってのけたのはレイ・ハリーハウゼンです。彼が関わると、その作品の特撮は緊張感と暖かみを同時に感じさせる独特の味を持つ。  のちに『スター・ウォーズ シスの復讐』でも、複数の腕から剣を振りかざす強敵(グリーバス将軍)と主演級俳優(このときはオビワン役のユアン・マクレガー)が戦うという場面が用意されています。  また原住民が、ケンタウルスの棲家へ主人公達を放り込み、食われる様子を上から眺めるという場面ものちに『スターウォーズ ジェダイの帰還』のルーク・スカイウォーカー対ランコアに形を変えて、繰り返されました。ケンタウルスはクライマックスシーンで双頭の首を持ち、獣の身体を持つヒドラとも戦います。  こうしてみていくとルーカス監督は若い時に、このシンドバッド・シリーズを参考にしていたのかもしれません。おそらくは何度もハリーハウゼンの職人仕事を見てきたに違いないルーカス監督は大ヒット作品『スターウォーズ』を作り上げる。これが公開されたのと同じ年に公開された『シンドバッド 虎の目大冒険』が観客に対して、何のインパクトも残せずに惨敗したのは象徴的であり、皮肉でもある。  同じ特撮映画ではありますが、一方の舞台は大銀河で、もう一方はアラブの海では作品のスケールだけをとっても、太刀打ちできるような状態ではない。技術の新しさでも完敗し、作品の質そのものでも完敗しました。『シンドバッド 虎の目大冒険』の惨敗は業界におけるストップ・モーション・アニメーション自体の信頼性を大きく損ないました。  エピソード4にはファルコン号の中で、チューバッカとR2-D2がモンスター・チェスを楽しむシーンがある。このときに小さな駒であるモンスターの動きを表現したのがストップ・モーション・アニメーションだったのには昔からの特撮ファンとしては寂しい思いをしました。ほんの添え物程度の使われ方しかされなくなってしまった技術の終焉をみました。  しかし、それは数年後のお話です。この作品『シンドバッド 黄金の航海』はまだ「スターウォーズ前」という技術革新及びキャラクター・ビジネスをはじめとする映画の質以外の商売の波がまだ押し寄せていなかった時期の作品であり、特撮映画の古き良き時代をともに歩んだストップ・モーション・アニメーションが特撮技術のトップに位置した最後の時期を飾った名作でした。 総合評価 73点 シンドバッド黄金の航海
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