良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『黒いジャガー』(1971)黒人の、黒人による、黒人のために作られた映画。カッコイイ!

 「オブ・ザ・ブラック!バイ・ザ・ブラック!フォー・ザ・ブラック!」とマルコムXの声が聞こえてきそうなブラザー探偵映画こそが『黒いジャガー』です。本名は『シャフト』ですね。しかし映画にしろ、ポップ・ミュージックにしろ邦題って、なんであんなへんてこな題名ばかり付いているんだろう?販売会議で決める時に、誰ひとりとして、「それじゃまずいよ」と言えなかったんだろうかという題名も少なくない。  まあ『ミッション・インポッシブル』を『スパイ大作戦』、ビートルズの『ア・ハード・デイズ・ナイト』を『ビートルズがやってくる!ヤア!ヤア!ヤア!』と勝手に名付けてしまう日本の映画会社やレコード会社の宣伝部にしたら、「しゃふと?なんだそりゃ?」「ジャガーがいい!出てるのも黒人スターばっかりなら、黒いジャガーでいいじゃねえか!」などという会話をしていたに違いない。  個人的には邦題作成には反対です。外国人と話す機会も増えてきている現状において、邦題は相互理解を妨げる一因になってしまう。もちろん『突然炎のごとく』、『勝手にしやがれ』、『遊星からの物体Ⅹ』、『太陽はひとりぼっち』などのようにピタリとはまるものもありますが、誤解を招くようなタイトルも多い。  『スター・ウォーズ』しかりで、もともと『Return of the Jedi』の「Return」は戻るという意味なので、「復讐」ではおかしいし、意味不明な邦題でした。「帰還」の方が意味が通るとずっと思い続けていました。実際に昔録ったビデオのタイトルには『ジェダイの帰還』と書いていました。  そしてDVDがレンタル店に並んでいるのを見ると、いつのまにか表記が「帰還」に変わっているのにはびっくりしました。限定生産でトリロジー・ボックスを買った時、再度ラストシーンが改竄されていたショックで、「帰還」の文字を見逃していたのかもしれません。  だいぶ脱線しましたが、邦題というのは下手なものをつけてしまうと、一生その作品に変なイメージを植え付けてしまうので、映画会社には襟を正して、タイトルを命名して欲しい。名前って結構大事だと思います。  さてそれでは『黒いジャガー』はどのような作品だったのだろうか。邦題としてはまあまあ「名は体を表す」にはなっているので、ましな方でしょう。しかしサミュエル・L・ジャクソン主演でリメイクされたときには、ただ『シャフト』と名付けられていました。 いかにもチープで、インディペンデント系にありがちなB級テイストが充満しているこの作品を見ると、これの何処が良いんだろうと思う方も多数おられるかもしれません。しかし黒人の地位向上を求めていく流れの中で、重要な意味を持つ作品でもあるのです。  『夜の大捜査線』や『手錠のままの脱獄(このブログでも記事にしております)』で、黒人俳優の地位向上に大きく貢献したのはシドニー・ポワチエでしたが、彼は常に差別との戦いの最前線にも立っているような悲壮さが画面からも伝わってきます。  それに対して、この映画がポワチエのものと大きく違うのは娯楽映画に徹している点です。ポワチエの映画を観に行った人は心底楽しめないのではないでしょうか。「楽しめる」というもっとも大切な一点で、この映画の大きな意義がある。  白人達がB級ギャング映画やアクション映画を楽しむノリで、黒人たちが観ることのできる「ブラザー映画?」の誕生のきっかけとなったのがこの映画と『スウィート・スウィート・バック』だったのではないだろうか。  構図がスカスカだとか、テクニックを感じないとか意見はあるかもしれません。それでもこの二本の映画には白人たちの映画にはない抑えつけられてきたものたちが溜め込んでいたパワーの発散を感じます。  シャフトらが人質奪還作戦を遂行するホテルの真っ赤にペイントされた廊下を見たときに、真っ先に思い出したのが鈴木清順監督の日活時代の何本かの映画でした。B級といわれようが、自分達が納得できるものを送り出したいという気魄は日米を問わないのでしょう。  音楽は黒人独特のカッコよいリズムとコーラスで歌われるオープニング・テーマがとても印象に残ります。裏道を歩まざるを得なかった黒人たちが、映画界で大手を振って表通りに繰り出していく記念すべき一本です。監督を務めたゴードン・パークス、主役のリチャード・ラウンドツリーなど主要スタッフは全て黒人で、白人は恐ろしいほど存在感がない。  ストーリー自体はグダグダですが、熱意は素晴らしい。まあ見てください。雰囲気を楽しめれば、それで十分だと思います。娯楽作品なんですからゴチャゴチャ言わないという鑑賞態度で接しましょう。その後、二本の続編も製作されるほどの人気シリーズとなりました。 総合評価 61点 黒いジャガー
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