良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『怪獣大戦争』(1965)ゴジラがイヤミになってしまった第六作目。水野久美の妖艶さに注目!

 前作品『三大怪獣 地球最大の決戦』で、自らの存在理由を地球怪獣代表に見出したゴジララドンはこの作品でさらにその色彩を強めていきました。怪獣が人間に媚を売って人気を維持しようとする姿勢は「情けない」の一言に尽きる。作品の対象年齢が急激に低下していき、子供向けに成り下がりつつあった頃の作品です。  ドラマ自体はⅩ星人の統制官役の土屋嘉男と偵察のために送り込まれた波川女史役の水野久美の好演もあり、十分に視聴に耐える出来栄えに仕上がっています。彼らのユニフォームはいかにもB級的なデザインで強く印象に残っています。Ⅹ星人の女性は全員が水野久美のクローンというのも仕掛けとして上手く機能しています。  SF的な面白さはしっかりと作品に盛り込まれていて、ゴジラ映画初のSF怪獣映画の地平も開きました。未開の地からの挑戦者たち(アンギラスモスラキングコングラドン)がそれまでの挑戦者でしたが、前作から登場したキングギドラをきっかけに宇宙という話を膨らませていく要素が新たに製作者に与えられました。  キングギドラの初登場時はまるでガラタマのごとく、ほんのチョイ役で出演したに過ぎませんでした。はじめてギドラを操る宇宙人が出てきたのです。結果として宇宙人と地球人とのエピソードを盛り込み、SFドラマとしては合格点を与えられる水準には達していました。しかし反面、怪獣たちは中心軸よりやや離れた位置に置かれ、添え物であった感がある。  その状況を打破するためにゴジラが選んだ方向性は子供向けへのシフトであり、その象徴となってしまったのが「シェーーーー!」でした。「ゴジラがTVを観るんかい!」と突っ込みを入れるか、萎えるか、それとも全てを受け入れるかの三択をファンは突きつけられました。  それは『太陽の季節』、『狂った果実』、『錆びたナイフ』などで圧倒的な存在を示した石原裕次郎が晩年になって『太陽に吠えろ!』のボス役でのんびりとお茶を濁していたのと似ているかもしれません。「こんなの裕ちゃんじゃない!」と思うか「裕ちゃんが出ているだけでも良い」の境目です。  難しい選択を迫られました。ある者は見捨ててしまったでしょうし、またある者はそれでもついていったのでしょう。あんなのはゴジラじゃないというのは簡単ではありますが、スランプの時に見捨ててしまうのはファンではない。惨めになりつつあったゴジラでしたが、まだ見捨てるには早すぎるほどドラマは充実していました。  容姿自体は丸みを帯びてきて、精悍さや獰猛さが失われ、子供のアイドルらしく漫画チックになっていったのは残念です。  ドラマは良い。特に前述の通り土屋嘉男と水野久美は素晴らしい。反面、ゴジラの顔のデザインは特にまずい。使い回しのような映像があるもののキングギドラは相変わらずカッコ良い。  そしてこの作品で最も素晴らしかったのは伊福部昭による音楽です。怪獣大戦争のマーチは第一作目オープニング・テーマに次ぎ、幕開けを飾る曲の中では大好きなオープニング・テーマのひとつになっています。第一作目ではテンポを下げて使用されています。ちなみにK-1の佐竹選手が入場してきた時のテーマはこの曲のアレンジ違いのひとつです。 いろいろ良い点はあるこの映画ですが、「シェーーーー!」の残した強烈なイメージは凄まじく、猪木信者のような熱烈なファンは悪夢の始まりのような思いで観ていたのではないでしょうか。もしこの作品でゴジラが列車をつかみ取りしていたならば、まさに算盤に見えたはずなのでトニー谷が着ぐるみを被っているのと変わりがなかったでしょう。  「強さを競う」親日格闘路線だったゴジラはついに前作の三対一変則タッグマッチを経て、この作品でも二対一変則タッグマッチという「観て面白い」全日路線に転換して行った結果、かつての熱狂は去り、親子連れが気楽に楽しめる娯楽に退化していきました。  前作で存在理由をキングギドラに奪われ、今作品ではピエロに成り下がってしまう。かつての強さを知る観客には耐え難い転落ぶりでした。あきらかに東宝の製作者たちはゴジラの真価を分かっていませんでした。  無言でどんな役でもこなしていくゴジラの真の気持ちをまったく理解していない。ゴジラは単なる着ぐるみではなく、三船と並んで世界に通用する東宝最大のスターなのです。安易な使い方をして欲しくはない。  ゴジラのスランプを救っていたのは水野久美に尽きます。この作品のMVPは彼女で決定です。妖艶でミステリアスなⅩ星人を演じた水野久美東宝の企画した多くの特撮映画のなかで強い輝きを放ちました。実際に彼女が出演しているといないでは作品の深みが違うのは東宝映画ファンならば誰もが納得してくださるでしょう。  キングギドラの存在はさらに悪役となるべく肉付けが行われ、宇宙人の手先という設定も加わりました。悪趣味極まりない黄金色のフォルム、三つの首、悪魔のような翼は出てくるだけで大迫力を存在感を持っています。後年のメカゴジラガイガンのデザインも秀逸ですがキングギドラほどの迫力はありませんでした。 総合評価 73点 怪獣大戦争
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