良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ゴジラの息子』(1967)ゴジラよ、ゴジラよ、ゴジラさん。どうしてあなたの息子はミニラなの?

 とうとう来るところまで来てしまった感のあるゴジラ映画の第八作目がこの『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』です。思えば遠くへ来たもんだ。水爆実験で復活したゴジラが帝都を暴れ回り、ヒールの大スターとしてデビューしてから12年。  その間、アンギラスをKOし、キングコングとの邂逅からエンタメ路線に開眼し、モスラとの異種格闘戦を経て、永遠のライバルといえるキングギドラとの宿命の出会いのあと、自らの存在意義を人間のための正義に見い出し、挙句の果てに子供の味方にまで落ちぶれてしまった。  デビュー当時の悪役ぶりも何処へやらで、悪の権化の肩書きもキングギドラに奪われてしまいました。続編が製作されるたびにその個性が薄められていったゴジラが決定的にアイデンティティを喪失したのが『三大怪獣 地球最大の決戦』でした。  平和と善を体現するモスラ、悪の権化キングギドラに挟まれたゴジラは右往左往した挙句、ラドンと共に取り残された。そして彼らが選択した道は人間世界を維持する地球怪獣軍の結成、そして「シェーーー!」をしてでも人間世界へとけ込む努力でした。  子供からは支持を得たが大人からは見放されてしまった。製作側も甘い演出でも通用するはずだとタカをくくったため、作品のクオリティは下がる一方でした。監督も本多猪四郎から福田純に代わり、音楽も伊福部昭から佐藤勝に代わってしまった。円谷英二も名前貸しでクレジットされているだけになりました。  佐藤勝は才能ある音楽家ですが、『ゴジラの逆襲』で聴かせてくれたような切れのある音ではなく、投げやりで妙に明るい音楽をつけている。子供向け映画であるので、東宝に明るいものを頼まれたのでしょう。オープニング音楽はそれでも期待させるだけのクオリティは持っていましたし、オープニングシークエンスは悪くはありませんでした。しかしそれも長くは続かない。  そしてついに誕生した、ファンに望まれない大スターの息子がこの映画の主役ミニラです。オープニング映像を見たときはかなり期待できそうな雰囲気が漂っていました。それが全て引っくり返るのが彼の誕生と同時に現れたミニラのあの姿を見てしまった後です。  あの顔、あの鳴き声、あの放射能火炎、あの音楽をはじめて見たときは呆然としました。あそこまでブサイクなデザインにする必要が何処にあったのだろうか。伝統ある怪獣王ゴジラの息子がお笑い芸人のようなミニラだなんて信じたくはない。  しかし光る部分もあるはずだと必死に探し続けました。グモンガが土中から出現してくる様子、薄気味悪く動き回る様子はリアルで見応えがある。カマキラス部隊がゴジラと交戦する時にとる十字砲火布陣を思い出させる戦術的な動きなど集中して見ていくと幾つか東宝特撮映画の片鱗を窺わせてくれます。  ただ哀しいのは彼ら昆虫軍団と対峙した時にゴジラの吐く放射能火炎がまるで夏の定番殺虫剤「キンチョール」に見えて仕方がないことです。何が哀しくてキングコングキングギドラに向けて放たれた必殺放射能火炎を「虫相手」に使わなければならないのか。  スタン・ハンセンが若手相手にウェスタン・ラリアットを披露するようなもので技の格を下げてしまうことになる。カマキリやクモだけでよかった。もしゴキブリや蚊まで登場していたとすれば、ゴジラのプライドにとってもさらに救いようのない作品になってしまったかもしれません。  南の島の書き割りの前で戦わなければならなかったゴジラの寂しさはどのようなものだったのだろう。ゴジラは一着ぐるみではなく、世界に誇る日本映画界最大のスターなのだ。敬意を払って欲しい。  また前田美波里の伸びやかな肢体と健康的な美しさをフィルムに残せたことは不幸中の幸いとしかいえません。せっかく彼女を出演させられたのだから、もっと出来の良い脚本をつけて欲しかった。  ミニラの顔って、どうしても宮沢元首相を思い出させます。海部元首相はダメおやじそっくりだったし。 総合評価 22点 怪獣島の決戦 ゴジラの息子
怪獣島の決戦 ゴジラの息子 [DVD]