良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃』(1969)転がる石のように落ちていく第10作目。

 『怪獣マーチ』が流れてきた瞬間から目の前が真っ暗になるこの作品、いやさ製品。何でこんなのを世に送り出してしまったのだろうか。ゴジラ、ミニラ、ガバラ、クモンガ、エビラ、大鷲、カマキラス、ゴロザウルス、マンダ、アンギラスと頭数だけはたくさん出てくるのですが、肝心の映画自体は作品の体をなしていません。  どうしたんだ、本田監督!こんなのしか撮れない人ではないのにこのレベルの低さは致命的ではないでしょうか。エド・レベルにどんどん近づいていくのを見るのはかなり辛い。異常なまでに低予算で撮られたのがすぐに分かる。ずさんで何を語っているのかさっぱり分からない。本田監督の名前だけを借りて、東宝に入ったばかりの新人社員が作ったのかと見間違うほどの悲惨な出来でした。  キングギドララドンモスラが出演して、ゴジラも久々に悪の限りを尽くし、ムーンライト号やキラアク星人などドラマ部分でも見せ場を多く作り出した前作『怪獣総進撃』がオールスター・ゲームだとすれば、この『オール怪獣~』は一軍には遠く及ばない二軍の東西対抗戦と呼んでも良いのかもしれません。  なにしろ前述の怪獣達の出演シーンのほとんどすべては『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』『ゴジラの息子』『怪獣総進撃』からの使い回し映像が出てくるだけなのです。一体なんなのだろうか。観に行った映画ファンを嘲笑するために製作されたのか、もしくは予告編なのかと思うほどの最悪な出来でした。  クモンガ、エビラ、カマキラスなど出てくる怪獣も地味すぎて、主役を張れるインパクトのあるヤツがまったく出てこない。国際プロレスの地方興行の第二試合から第五試合を見ているような感じです。「稲妻次郎対スネーク奄美」みたいな感じ。というかこの試合の方が見たい。  唯一この製品のために撮られたと思えるのはガバラとのくだりだけで、それもレベルは低く、見るに堪えないものでした。昔よく地方のデパートの屋上でやっていた怪獣ショーかと見間違うような劣悪な映像です。あっちの方がまだ目の前でやっている分だけ臨場感があります。  怪獣ショーを東宝が撮影したものをお金を払って観に行ったと思えば、それはそれで無理やり納得出来ないこともないが、そこまで観客も寛容ではない。ある意味とてもシュールな世界観が展開されるこの製品は怪獣映画をぶち壊したとも言える。『ウルトラファイト』の先駆けと言っても良いかもしれません。  小さい頃『ウルトラファイト』は楽しみに見ていましたので、子供の目で見ていけば、結構楽しめたのでしょう。のちにビデオ版の『ウルトラセブン』の特典映像に入っていた『ウルトラファイト』を見た時にはずっこけてしまいました。当時は楽しめたから良しとしよう。  しかしまあ、出てくる怪獣達がアンギラス以外は揃いも揃ってC級タレントばかりときては笑うしかない。モスラは前回の『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』でのエアバス役での失敗を反省してか、今回の出演はさすがに見送ったようです。バランは出てたっけかなあ。  なにしろミニラと子供が同じ身長になってしまい、お互いの悩みを打ち明けたりするのです。その様子はブサイクなガキといじめられっ子のガキが傷を舐めあうような気持ち悪さでした。怪獣が日本語しゃべっちゃダメでしょう。たしかのちにゴジラアンギラスがまるで漫画の吹き出しのような枠を使って会話をするシーンがありましたが、東宝の製作スタッフは何を考えていたのでしょうか。  幼稚園に行っていた時分に見たきりで、何十年ぶりに見ましたが、何度も寝てしまいそうになりました。たった70分程度の尺だったにもかかわらず、時間というものがこんなに長く感じられたのは久しぶりでした。まるで4時間の超大作を見せられているのかと間違えるほど、とにかくいつまでも終わらない製品でした。  なんせついさっき見た映像なのに、ほとんど記憶に残っていないほどなのです。観客の気を失わせるほどの威力を持っている凄い製品であることは間違いない。熱心なモンスター映画及びゴジラ・マニアでも堪えられないのですから、公開当時に付き添いで一緒に映画館に行った親たちにとっては昼寝タイムにしかならなかったのではないでしょうか。  誰にも心を開かずに、空想や夢の世界でしか自我を解放できない子供は現在ならば、適応障害とか言われてしまうのかもしれません。怪獣島のミニラとのチャネリングを通して、成長していく子供の姿からは観客として何を受け取ればよいのだろう。  間抜けなギャング騒動と子供のチャネリングを延々と見せられる観客は忍耐力を身に付けるか、寝てしまうか、それともお手洗いに立つかを選択させられる。だがしかし、ゴジラ・ファンを自認するならば、決して逃げてはならない一本であることも事実です。  ファン一人ひとりがゴジラ愛を試される作品です。最後に待っている「バーチャル空想オチ」には「参りました」と言わざるを得ない。それでもなかったことにしてはいけません。東宝自体は『ゴジラ』(1984)を公開するときに1954年の『ゴジラ』の後の作品全てをなかったことにしてしまいましたが、製作者としてそれは卑怯すぎる態度だと言わざるを得ない。  ほとんど何も見所がないこの製品において、興味深かったのは天本英世とガキがすき焼きをほおばるシーンでした。彼らが卵をつけずに、いきなり鍋から取ったお肉を口に入れるのを見たときには驚きました。関西人の感覚では、すき焼きを食べる時はほとんどの家庭で出されるタレはナマタマゴなのです。  湯豆腐にはポン酢に大根おろし、すき焼きにはナマタマゴと相場が決まっているので、鍋から直接食べる感覚は理解できない。卵アレルギーの子供には見えなかったので、関東ではすき焼きはそのまま食べるのでしょうか。謎です。  見終わった後、思わず欠伸と背伸びをしました。これって公開されたのは1969年12月20日だったそうです。つまり正月映画ってことになります。正月公開に無理やり間に合わせようとしたから、これほどにおかしな作品になってしまったのでしょうか。 総合評価 14点 ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃
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