良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ロシア映画祭 IN OSAKA』に行ってきました。名作揃いでとても濃い一日でした。

 何気なくスウェーデンの巨匠、イングマール・ベルイマン監督の『サラバンド』を来年一月から公開してくれる、映画通好みの大阪九条にあるシネ・ヌーヴォの上映作品案内を見ていましたら、なんと一月には28本のベルイマン監督作品を一挙上映してくれるという夢のような企画があるようなのです。

 商業映画とは言っても、ベルイマン監督作品は難解極まりないものが多く、ハリウッド映画に慣れた観客が喜びそうな作品群ではありません。それを一挙上映というのは無謀ではありますが、出来るだけ足を運びたいと思っています。

 特に『ある結婚の風景』『第七の封印』『不良少女モニカ』『野いちご』などをぜひ観たい。『ある結婚の風景』の続編が今回の『サラバンド』なので、これは外せません。

 さらに驚く記述を見つけました。なんと今月及び来月3日までロシア映画祭をやっているではありませんか。上映作品もかなり幅広く、エイゼンシュテイン監督、コンチャロフスキー監督、プドフキン監督、そしてタルコフスキー監督というロシアが誇る監督の作品群だけでなく、黒澤明監督がロシアで撮った『デルス・ウザーラ』までを纏めて見られる、かなりお買い得な企画を目にしたときには思わずガッツ・ポーズをとりました。

 実際に上映されるのは『戦艦ポチョムキン』『イワン雷帝』『鏡』『母』『リア王』『ストーカー』『デルス・ウザーラ』などで、ロシア映画ファンならば、是非劇場の大画面で観たいと思う作品ばかりをセレクトしてくれました。

 劇場自体はかなり狭く、70~80人収容で満員になるほどでした。このような一般映画ファン向きとは決して言えない地味な企画ではありますが、来ている人は大学生くらいから高齢者の方まで幅広い客層でした。しかも驚いたことに映画オタクっぽい人はあまりおらず、女性客が4割程度もいたのは意外でした。もちろん、とっても濃い~感じの映画オタクっぽい人もいました。

 エイゼンシュテイン監督作品や黒澤明監督作品はどちらかと言えば、「男祭り」的作品が多いし、タルコフスキー監督作品にしても奇妙な作品ばかりなので、自分としてはこの日に来ていた客層に戸惑いもありました。

 10月28日の番組は『イワン雷帝 第一部』『イワン雷帝 第二部』『戦艦ポチョムキン』『デルス・ウザーラ』『死という名の騎士』そして『母』の六本連続上映でした。用事があったので全部を観ることは出来ませんでしたが、『イワン雷帝 第一部』から『デルス・ウザーラ』までは観ることが出来ました。

 すべて過去に何度も見た作品群ではありますが、劇場の大画面で観るのは初めてだったので、ウキウキしながら観ていました。

 『戦艦ポチョムキン』を観ながら思ったのは20年代後半から40年代にかけて世界中でこの作品を隠れるように観なければならなかった民主主義を国是にする連合国側の映画ファンや枢軸側の映画ファンはどのような気持ちで観ていたのであろうかということでした。

 弾圧や統制が厳しかったであろうあの時代においてはこのようなプロパガンダ映画のみならず外国映画を観るだけでも検挙される恐れがあったわけですから、世界中の映画人はかなり制限を受けながら映画製作に励んでいたのでしょう。嫌な時代ですね。

 黒澤明監督らは東宝社内で戦争中に『風とともに去りぬ』を観たそうですが、特殊な環境にいない一般ファンは検閲や言論統制を受けた後の味気ない国策物ばかりを見せられていたので、良い映画に飢えていたことでしょう。

 しかし当時の世相の中で、『戦艦ポチョムキン』を純粋に一本の映画として観ることは可能だったのだろうか。意図的なモンタージュによる感情のコントロールが可能であることを完璧に示したこの作品を、時代の雰囲気を捉えたこの作品を理性で理解した人はどれくらいいたのであろうか。今観ても力強さのある作品ですので、当時はなおさらだったはずです。

 隠れて集会場で見ていたのでしょうか。スリル満点ですが、憲兵に見つかると命に関わる一大事になってしまう時代だったわけですから、表現の自由が保障されているということの幸せを噛み締めるべきであろう。命がけで観る映画って一体なんなのだろう。

 『デルス・ウザーラ』に関してはモス・フィルムが権利を持っているようで、いまでもレンタルDVDには並びません。一昔前までは東宝がDVDを販売していましたので、僕個人は東宝正規版の『デルス・ウザーラ』を購入しましたが、東宝のストックがなくなるとそれで終わりのようです。実際に東宝に電話で尋ねたときにも権利の期限を話してくれました。

 そのためか黒澤明監督ファンの中でも、若い世代の人たちはデルスを観ていない人が多いようで、観客には若い層が多く混じっていました。日本映画の巨匠の作品を気軽に見れないというのは不幸な事態ですので、東宝には『夢』問題とともに早めに関係者達とケリをつけて欲しいものです。

 しかし流石に朝10時過ぎから夜6時半まで四本連続で映画を観るのは疲れました。しかも全て名作ばかりですので目を放す隙がありません。とりわけ情報量の多いのが特徴のエイゼンシュテイン監督と黒澤明監督作品ですから、かなりの集中を強いられました。

 観客の中にも長時間の集中と拘束に堪えられずにグッタリとして帰る方、上映中に力尽きて寝てしまう方、気分が悪くなってお手洗いでゲエゲエやっている方もいて、結構ハードな上映でした。映画を観るにも体力が必要なのだということにはじめて気付きました。

 前にデカイ人が来ると、彼の頭を外さないと画面がまったく見えなくなるので、集中を持続するのが難しくなります。しゃべる人や始まっても携帯を見ている人がいたのは驚きました。映画祭に来るのは筋金入りの映画バカだと思っていましたが、一般常識もない普通のバカも混じっていたようです。若い人よりも中年やおばさんに多かったように思いました。

 なにはともあれ数少ない名画座のひとつなので、存続のためにも多くの映画ファンが通うことを希望します。大画面はやっぱりいいですねー。

シネヌーヴォに行きましょう!映画を観よう!体力をつけよう!