良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『イワン雷帝 第一部』(1944)歴史映画しか撮らせてもらえなかった、かつての巨匠の晩年。

 映画史上、とりわけ制作における重要な理論であるモンタージュ理論とその効果的な実践で、社会主義陣営のみならず、全世界の映画界、なかでも制作者全体に多大なる影響を与え、革命を巻き起こしたのはセルゲイ・エイゼンシュテイン監督でした。  彼の代表的作品である『戦艦ポチョムキン』ではモンタージュはもちろん、シンメトリー的配置の美しさ、遠近法の利用、図形イメージの連動と象徴性などにより観客の感情を意図的にコントロールして、自らの望むとおりに政治的に誘導していくプロパガンダとしての巧妙さも手伝い、全世界的に物議を醸した作品に仕上がりました。  それは1925年であり、彼が世界で最も重要な映画人となった時代でした。しかし時代は常に動いているのです。この後には『ジャズ・シンガー』に代表されるように、トーキー革命の波がサイレント映画と映画界全体を呑み込み、サイレント映画では重要であったモンタージュ的な手法、演劇的な大げさな演技しか出来ず、声に魅力の無い俳優たちをも一気に飲み込んでいきました。  映画界のみならず、政治的なトレンドも20年代と40年代では全く違ったものになりつつありました。米ソを代表とする連合国対日独伊枢軸国の対立構造から、アメリカに代表される自由主義連合対プロレタリア独裁制のロシアに代表される共産主義連合に移っていきました。  まだ戦争は終わってはいませんでしたが、余力のあった米ソにとっては「来たるべき日」に備えた準備が水面下ではしっかりと進められていました。この頃の映画を観ても解るように、アメリカ映画では日本やドイツよりもソ連を恐れていたような台詞を多く見かけます。  こういった状況の中ではかつての世界的革命家であるエイゼンシュテイン監督は浦島太郎的な時代遅れの映画人になりつつありました。完成した作品を見ても、『戦艦ポチョムキン』並みに成功した作品は皆無であり、『十月』は酷評されました。  またスターリン体制下での弾圧も行われていったために、のちに撮った作品の多くは歴史物になってしまい、彼が撮りたかったであろう現代劇はただの一本も撮れませんでした。  さらに追い討ちをかけたのが『メキシコ万歳』『ベージン草原』などの度重なる制作途上での作品の撮影中止と制作そのものの中止でした。『メキシコ万歳』は70年代後半になってようやく陽の目を見ることになりました。この『イワン雷帝』にしても第二部が公開されたのはスターリンの死後でした。当然ながらエイゼンシュテイン監督も既に鬼籍に入っていました。  では一体巨匠の最後となってしまったこの『イワン雷帝 第一部』及び第二部はどのような内容だったのでしょうか。今日は一部についてのみの記述となります。  光と影、とりわけ影が作品に与える劇的効果の力強さは圧倒的であり、その美しさもまた健在でした。莫大な予算と人件費を惜しげもなく使いまくる凝りに凝ったセット、俳優達が着ていた豪華絢爛な衣装の美しさにも目を奪われる。  こうした煌びやかな衣装やセットをソビエト時代の現代劇では見れないので、ロシア映画界が持っていた実力と映画への意気込みを見るには最適なサンプルかもしれません。しかし国民全体が対独戦線の状況に緊張感を持って身構えている時に、金貨で行水を受けるような冒頭の戴冠式やふかふかのベッドは嫌味でしかない。  『アレクサンドル・ネフスキー』のような民族的かつ肉体的な美しさを表現した映画ではなく、権力側の裏切りや腐敗などをテーマに語っていくこの作品は誰に向けて制作されたのかが非常に微妙な作品でもあります。  芸術家が監督した時代劇、それも時間と予算を湯水のように使ったそれである。過去を描いたはずのこの作品が体制固めに躍起になっていたスターリンを刺激し、エイゼンシュテイン自身が弾圧されていくのはなんとも皮肉な話である。  この第一部での見所は前述したように影と遠近法を最大限に利用した人物の配置、シンメトリーを強く意識した構図、迫力ある城郭攻防戦などのロケ・セットと爆破、そして豪華な衣装 などが挙げられる。  演技面ではサイレント時代の名残りのような大げさな演技を見ることになる。目で演技する俳優たちの感情表現の巧みさには恐れ入るが、歌舞伎を見るような見得の切り方には違和感がありました。サイレントならばとても解りやすい良い演技であるとは思うのですが、これはトーキー映画なのです。  説明的な台詞がなくとも大いに楽しめるエピック映画ではあるのですが、わざとらしいクロース・アップの多用は反って興を削ぐ。派手なシーンだけではなく、このような謀略を暗示させるシーンがあることにより、作品の質と奥行きが大きく、そして深いものになっているのは承知しています。でもわざとらしい。  一部と二部をまとめて見ても十分に楽しめる作品であることも間違いない。本来は第三部まで制作する予定だったそうですが、エイゼンシュテイン監督の死亡のためについに制作されることはありませんでした。なんやかんや言いましたが、まあ結局、僕はエイゼンシュテイン監督作品が大好きなんですよ。『戦艦ポチョムキン』も合わせて、劇場で三本まとめて一日で観てしまうくらいですから。また観たい。今度は『ベージン草原』も観たい。 総合評価 72点 イワン雷帝/セルゲイ・エイゼンシュテイン-人と作品-
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