良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ブラック・ダリア』(2006)パート1 エルロイ原作の話題作について観る前に思っていたこと。

 フィルム・ノワール・ファンにとっては今年公開される洋画の中でもっとも期待の大きな作品がこの『ブラック・ダリア』ではないだろうか。ジェームズ・エルロイ原作による暗黒のLA四部作の第一作目の小説をもとに、ブライアン・デ・パルマ監督がどのような手腕を振るったのかにとても興味があります。

 エルロイが書いたLA暗黒の四部作の第三作目の『LAコンフィデンシャル』がアカデミー賞を取るほどの良質な作品に仕上がっていただけに、今回この作品を監督するブライアン・デ・パルマにとってはかなりのプレッシャーが掛かっていたのではないでしょうか。ちなみに四部作は『ブラック・ダリア』『ビッグ・ノーウェア』『LAコンフィデンシャル』『ホワイト・ジャズ』の順番となります。

 かなり残酷な描写が出てくるこの作品をどうやって上映禁止にならない程度に抜粋し、しかも原作のテイストを損なわずにフィルムに焼き付けるかはデ・パルマ監督次第と言っても良い。凶悪な犯罪、予期せぬ裏切り、過去の栄光と挫折、複雑な人間関係、虚々実々の駆け引き、袋小路に迷い込んでいく閉塞感などはまさにデ・パルマ監督が大好きであろうノワール独特の世界観である。

 また一方で、映画化するにおいてクリアしなければならない問題は前述のようにあまりにも多い。この作品で描かれる一連の殺人事件と捜査の描写はかなり暴力的な表現が多く、そのままではとても上映できる代物ではなく、この作品が映画化されるのを知った時は正直驚きました。ハードボイルドだけでは捉えきれないほどの猟奇的、そしてモラルを蹂躙するような記述が多いからです。

 売春、レズビアン、歓楽街、ポルノ映画製作の実情、ハリウッドの暗部を暴き立てるエピソードの挿入、スキャンダル、SM、小児愛、強姦、拷問、殺人、死体愛、死体切断、臓器コレクション、畸形、近親相姦、薬物中毒、八百長ボクシング、証拠隠滅、人種差別、買収、マフィア、欠陥建築、強請り、銀行強盗、三角関係、嫉妬、自殺、銃撃戦、不倫、権力闘争...。

 上記のような人生の暗部をひたすらに紡いでいくこの作品をブライアン・デ・パルマ監督はどうやって映画化すると言うのか。デ・パルマ監督が愛してやまないヒッチコック監督やセルゲイ・エイゼンシュテイン監督らが残した過去の財産からのオマージュだけではこの世界観を表現するのはまず不可能であろう。

 暗部、いやむしろ人生の恥部を曝け出すことを通して自らの存在証明を世界に示すノワールの世界、かなりの力技を持っていないと纏めることすら不可能であろうこの作品を引き受けた彼はそのリスクを当然知っていたはずである。以上が観る前に思っていたことでした。

続く。