良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『電送人間』(1960)走査線を走らせることで生まれる不思議な現実感。

 沢村いき雄がいきなり良い味を出して演じるのがまずは嬉しい東宝怪奇人間シリーズの第二作目となるのが『電送人間』です。彼が演じていたのは遊園地に必ずあるお化け屋敷の親方でしたが、この劇団にもし堺左千夫、佐田豊、大村千吉らが入っていればさらに大笑いしたかもしれません。  主なスタッフは田中友幸(製作)、円谷英二(特撮)、俳優陣に平田昭彦、土屋嘉男、田島義文などいつものメンバーが顔を揃えて、ヒロインも前作『美女と液体人間』同様白川由美が務めているが、今回はいくつか違う点がある。  なんといっても今回の主役を務めるのが名優・鶴田浩二であり、監督に福田純を起用し、音楽にも池野成を使っているのだ。鶴田がはまるか浮くかで作品の出来が決定してしまう危険性もあったと思うのだが、抑制の効いたさすがの演技を見せている。  反面ヒロイン役を務めた白川の女性的魅力が薄れているのが気にかかる。やつれたような疲れたような表情が垣間見えるのは何故だろうか。  そして今回も刑事役で登場する平田昭彦はさすが東宝特撮ファミリーらしい顔の広さを見せている。前作『美女と液体人間』では科学者佐原健二と友だち、そして今回の新聞記者鶴田浩二とも友だちという設定は直接的にはドラマと関係ありませんが、ニコニコして見ていました。残念なのは佐原健二が端役でも出ていないことです。彼がいるだけで作品が締まるので出ていて欲しかった。  むしろこの作品で目立っていたのは犯人である銃剣魔と電送人間を演じた中丸忠雄の怪演であろう。彼がこの作品で示した異様な存在感は強く印象に残る。池野の音楽は伊福部昭のものとは当然違うのだが、彼がこの作品につけたメイン音楽もなかなか良かった。ただこれを何度も必要以上に使いすぎるのがどうかなとも思います。  光学処理、スクリーン・プロセス、ミニチュア・セット、マット合成と特撮映画のツボを全て押さえ、本編もしっかりとしているので見応えがある。あくまでも本編を盛り上げるために存在するのが特撮であるという基本スタンスを感じます。  電送人間が通常の人間と違うことを表現する青白い光のフィルターの掛け方、そしてTVの走査線が入ったようななんともいえない「電気な」感じが堪らない。こういった表現がいまでも同じように用いられていることからすると、革命的な表現だったのだろう。  超能力のひとつであるテレポーテーションを科学的に取り入れるという発想が斬新です。当然無理があるのは分かりますが、空想科学としては素晴らしいアイデアだったと言える。  そして福田純監督。彼は後に昭和版ゴジラ・シリーズを壊滅に追いやる製作者の一人であり、シリアス路線ファンである僕らからするとスタッフ・ロールで見たくない名前の一番手なのですが、この作品では結構まともな作品を送り出しているのが意外でした。  もちろんこの作品中でもコンテがバラバラで「いい加減にしろ!」と言いたくなるシーンもあります。それは電送人間を鉄道の駅に追い詰めていくスピード感溢れるシーンと牧場で秘密を探る鶴田浩二と白川を交互に描くクロス・カッティングを使った一連のシークエンスです。  同時間で進行している筈の二つの出来事なのに、しかも設定は真夜中の12時なのに、片方は真夜中、もう片方はどう見ても早朝にしか見えないのです。特撮を伴うような難しいカットでもないのだ。  鶴田浩二を拘束しなければいけないシーン(鶴田側のシーンはきちんと真夜中になっている)でもないのに何故きちんと最低限の仕事をしなかったのか理解に苦しみました。こういったことが重なっていくうちに徐々に丁寧さという感覚が麻痺していったのではないでしょうか。  せっかくの電送人間の見せ場のひとつである瞬間移動シーンを何故細心の注意を払って構成できなかったのか。監督としてなんとも思わなかったのだろうか。スクリプターは何をしていたのか。試写の時に誰もなんとも言わなかったのか。子供向けだから別にいいだろうとでも思っていたのか。  キャバレーでのダンス・シーンはまたまた盛り込まれています。しかも今回は全身を金色の塗料で塗りたくったマンボ・ダンサーでした。しかし彼女の掛け声「う~~~!」がまるでなっていないのでずっこけます。  しかもこのキャバレーがなぜか「軍服」キャバレーなのです。従業員全員が軍服に身を包み、ビールやおつまみを運んでいる様は情けない限りですが、これは軍隊への風刺なのだろうか。出入り口で銃剣を持って構える従業員の姿は笑えます。  銃剣魔がこの店のオーナーを殺害した後に逃亡を図るシーンで、警官が追いかけていく時に従業員に「どっちへ逃げた?」というところがある。このときに銃剣を背負った従業員が「あっちへ!」と剣を持って方向をさすのがかなり間抜けで笑えました。ソニー製オープン・リール・テープ・レコーダーが小道具として出てくるのも楽しい。 総合評価 68点 電送人間
電送人間 [DVD]