良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972)強力タッグ・チーム初登場!のはずが…

 冒頭で音楽とビームの閃光とともに現れるスタッフ・ロールを見たときには「もしかして素晴らしい作品なのかもしれない」という期待を抱かせたのがシリーズ第11作品目となる『地球攻撃命令 ゴジラガイガン』でした。子供の頃に一度見たきりで大部分を忘れていたので、実質上初めて見るのと同じような状況でした。  ヒッピー風の高島稔が売れない漫画家の石川博をとうもろこしで脅迫するシーンや子供ランド会長役の藤田漸の生家で遺影を見つけるシーンなど所々は覚えていたのですが、なにせ三十年以上も前なのではっきりした印象はなく、子供心にもあまり印象に残っていない作品でした。菱見百合子(アンヌ隊員)がママゴンかつ空手の達人という設定には驚きました。  あれがアンヌだったのかというのが正直な感想で、子供の頃に見ていたときには全く気がつきませんでした。せっかくのアンヌをあんな雑な芝居に出すなんて酷い。ウルトラセヴン・ファンとしては引っ掛かります。  ただ70年代に製作された作品であるのは配役を見るだけで明らかだ。かつてゴジラ映画では平田昭彦、土屋嘉男、佐原健二、田島義文、堺左千夫、沢村いき雄、志村喬、藤田進、宝田明など東宝錚々たる俳優が大挙出演し、作品を盛り上げていたものだが、本多猪四郎監督もこの作品には関わっていない。  お馴染みの俳優たちをゴジラで見ることの出来ない寂しさと低予算作品であることが頻繁に顔を出す画面の弱さを見るにつけ、ゴジラの終焉が近づいていることが誰の目にも動かしようのない事実になりつつあった。  地球防衛軍及び敵方のM70ハンター星軍の人員数がかなり減員されているのが悲しい。地球防衛軍側は長官室のみ、ハンター星軍側もゴジラタワーの中に少人数が立て篭もるのみで、地球人と異星人の大戦争というのではなく、革マル派や中革派のアジトを襲撃しに行くような小規模作戦なのがスケールの小ささにさらに追い討ちをかける。  敵側の作戦司令部にすぐに入れてしまうようなセキュリティの甘さには呆れはてる。ここの幹部(西沢利明 )がまた最悪で、トニー谷もどきの英語と日本語をチャンポンして話す妙な髭おやじには脱力するしかない。宇宙人基地の破壊工作は主人公たち、つまり素人が一手に引き受けて行われ、彼らはTNT火薬だけを使用して、あえなく滅亡させてしまいました。  低予算の悲しさは全篇を覆っている。それまでの作品からの使い回し映像は当然のようにここでも使用されている。さらに冒頭の漫画の吹き出しを使ってのゴジラアンギラスの会話シーンが出てくるに至ってはどう言ってよいのか分からないほどでした。  せっかく革命的なフォルムを持つ新怪獣ガイガンが登場するこの映画なのに、諸々の理由により沈みゆくゴジラ映画の一本にしかなりませんでした。それでも夜の街を襲撃するキングギドラの徹底した破壊と渦巻く炎がギドラのメタリック・ゴールドのボディに乱反射するシーンはとても美しい。加えて黒煙もボディに映りこんでいるので黒光りする黄金色のギドラを味わえる。  記憶が定かではないが夜の街をギドラが襲うのは初めてだったのではないだろうか。常にギドラは昼間に出現していたような気がします。『三大怪獣 地上最大の作戦』『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』などでも現れるのは太陽光の下でした。  それがはじめて暗闇の世界に姿を現したのです。平成シリーズの『ゴジラキングギドラ』でも夜の街には出現していません。夜の街が活気ある中洲や東京を襲っているのに何故か襲うのが真昼間なのは何故だろう。  地球防衛軍も戦車やメーサー砲が活躍しているのに、防衛隊員が生身の姿をまったく現さないので、どこと無く物足りなさがありました。怪獣と戦い地球を守る基本は自助努力なので、この作品で「防衛の基本はゴジラだ!」と言い切ってしまう防衛軍長官にはがっかりさせられます。  暗闇を引き裂くメーサー光線や飛び交うミサイル映像は迫力あるシーンのひとつでした。せっかく上手く防衛軍の武力が貢献しているのに、予算削減のために兵団を見ることのできないのは残念でした。  出前で呼ばれるキングギドラガイガンの登場シーンは手抜き以外の何物でもない。何処かの山々、海、湖、地中から出現されると手間の掛かるミニチュア・セットを制作しなければなりませんが、宇宙空間であれば、特に何も作る必要がないという経済主導の歪みはこの時期のゴジラ映画でかなりネックになっている。  今回ゴジラとタッグを組み、ブッチャー&シーク組のような極悪コンビであるキングギドラガイガン組と当たる重責を担ったのはまさかのアンギラスでした。何故ラドンモスラではなくアンギラスかというのも経済上の理由と操作上の理由であろう。  ギドラとガイガンは空を飛び、ここにもし操演怪獣のラドンを加えて空中戦にしてしまうと技術上の問題と人件費の問題が発生してしまう。また陸地にいるのがゴジラだけになってしまい、ゴジラが空中戦の間にじっと空を見上げているだけでは見栄えが悪く、締まらない映像になってしまう。  そこで登場したのがスーツアクターが演じるアンギラスだったのであろう。こうすることで陸地から来るチームと空から来るチームが各々の花道を通ってリング(怪獣ランド付近)にやってくることとなった。知名度もあり、ゴジラを邪魔しないキャラクターとしては最適の選択だったのかもしれません。  構図で興味深いのが防衛軍の進行方向でした。アンギラス一匹を迎え撃つ時にはアンギラスを下手に配置し、防衛軍は上手から登場する。これがキングギドラガイガンを迎え撃つ時には配置が換わり、ギドラチームが上手に、防衛軍が下手に配置された。  一般的に上手(画面の左側、つまり観客から観て、右手側)に位置する者は重要であるか、もしくは強大である。この場合、防衛軍から見て、アンギラスは御し易い相手、ギドラは強敵であることを映像で語っていることになる。またゴジラと対面するキングギドラの足元からゴジラを捉えたアングルは両者の実力の差を映像で示してくれている。  福田監督もしっかりやっているのかなあとしみじみ思っていたのも束の間で、その後はイマジナリー・ラインが完全に無視された、ゴチャゴチャした戦闘シーンになってしまいました。ギドラが吐く光線、防衛軍の攻撃、対するゴジラの向きがみな同じ方向を向いてしまっているのである。一体誰を攻撃しているのだろうか。同じ場所にいるのであろうか。特撮自体は中野昭慶が少ない予算の中でよく迫力ある破壊シーンを作り上げたと思います。  無配慮も甚だしい。編集者はもちろん気付いていたはずであるし、スクリプターしかり、試写しかりである。良いものを送り出そうというよりも、「とりあえず子供用だから気づかれることもないだろうから適当に怪獣を出しておけばいいさ」という製作態度がありありと見える。  なにはともあれ夢の最強タッグ戦が始まるが、恐ろしく印象が薄い戦いであった。見所はガイガンの腹にある回転ノコギリがゴジラアンギラスを流血させるシーン、そしてアンギラスのイガイガ・ヒップ・アタックくらいだろうか。途中で仲間割れになりそうになりながら、旗色が悪くなると結局仲良く逃げ帰る様子も今までどおりです。  冒頭の吹き出しだけで萎えていたコアなファンは最後のゴジラの歌で止めを刺される。 ♪~でっかいか~らだに~ かわいい目玉!~♪ うわあー 悪夢だ! 総合評価 53点 地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン
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