良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『コンプリート・ビートルズ』(1982)ビートルズの歴史を知るなら、これが一番!

 ビートルズの歴史を纏めた映像作品といえば、現在ではアンソロジー・シリーズの膨大な歴史ビデオ全八巻(DVD全4枚組もある。ボーナスDVDがついている)がもっとも手に入りやすかったのかもしれません。これでさえ今では手に入りにくい。

 肖像権やらメンバーのいざこざ等の関係上、ファンが楽しめなくなってしまった映画『レット・イット・ビー』だけではなく、素晴らしいクオリティを持っているものや思い出深いものでも、DVD化されていない作品は数多い。

 たとえば日本人ファンならば一度は見ておきたい武道館ライヴ、そしてサイケデリックな映像美に賛否両論あった『マジカル・ミステリー・ツアー』などでさえ、今ではなかなか見ることが難しい。そして今回のドキュメンタリー作品である『コンプリート・ビートルズ』も現在では発売されていないようです。

 Amazonで検索しても出てきませんでしたので、ヤフオクで気長に探すしかなさそうです。たまにツタヤなどのレンタル店に置いてあることもあるかもしれませんが、画質の方は覚悟した方がいいでしょう。

 たまたま物置を整理していたら出てきたのがこの作品のビデオでした。内容的には2時間という短さの中に、要所要所を上手く収めた上質のドキュメンタリーでして、ビートルズの歴史物ビデオのなかではもっともお気に入りの作品です。

 内容は各メンバーの生い立ちと音楽性のルーツを辿りながら、キャヴァーン時代、ハンブルグ時代、イギリス・デビュー、アメリカ・デビュー、レコーディング・スタジオ時代、そして解散までを客観的に、しかも温かく彼らの姿を捉え続けます。

 特筆すべきは彼らの内輪である人々、ブライアン・エプスタイン(マネージャー)、ジョージ・マーティン(プロデューサー)、アラン・ウィリアムス(最初のマネージャー)、ホルスト・フィッシャー(ハンブルグでの用心棒)、トニー・シェリダン(『マイ・ボニー』のヴォーカルにして、彼のこのシングル盤を買いに来た少年がいたからこそ、エプスタインがビートルズに接することになったことがサクセス・ストーリーの大本である。)、ビリー・プレストン(『ゲット・バック』にキーボードで客演、ゲット・バック・セッションにも参加。)らの貴重な証言が山のように出てくることである。

 映像も彼らのライブ映像はもちろん、レコーディングの模様や合間に見せるくつろいだ様子などファン必見の内容です。キャバーンでの演奏(『サム・アザー・ガイ』)、スタジオでの演奏(『シーラヴズ・ユー』『アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア』『ミスター・カイトのために』『ヘイ・ジュード(『ヴァロッテ』『トゥー・レイト・フォー・グッバイ』のジュリアン・レノンはどうしたんだろう?)』『愛こそはすべて』『レット・イット・ビー』など)、ライヴ映像(『抱きしめたい』『ツイスト&シャウト』『恋をするなら』『イエスタデイ』)は彼らの素の魅力を伝える。

 そして五本の主演映画『ア・ハード・デイズ・ナイト』『ヘルプ!』『マジカル・ミステリー・ツアー』『イエロー・サブマリン(アニメのため、最後のみちょっとだけ出てきます)』『レット・イット・ビー』からの映像がふんだんに引用されている。

 さらにミュージック・プロモーション・ビデオの先駆けといえる『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』『ペニー・レイン』『ハロー・グッバイ(もともとTV映画を作ろうとしていたものらしい)』の映像美は素晴らしい。とりわけ『ストロベリー~』はアート・ビデオとしての価値もあります。

 さらに彼らが時折見せた思慮深い側面や深刻なバンド崩壊の過程など見るべきところは多々あります。快活なビートルズではない、不機嫌な彼らを見るのも人間性を知る上で貴重でしょう。ポールとリンゴが『ザ・ビートルズ』で揉めていたこと、ポールとジョージが『レット・イット・ビー』でギクシャクしていた様子、おなじく『レット・イット・ビー』でジョンとポールには埋めようがない溝が厳然として存在していたことは映像を見るだけで分かります。

 まあゴチャゴチャ言わずに見れば、彼らの凄さが分かります。分からないという人は個人的には信用できません。彼らが音楽性だけではなく、ファッション、文化、イギリスの対米貿易、芸術界、グラフィック・デザイン、サイケデリック・ムーヴメント、レコーディング技術の発展、生き方にどれだけ影響力が強かったかはのちのミュージシャンたちを見れば分かるでしょう。

 ほとんどすべてのロック・ミュージックの可能性を体現した唯一無二のバンドがビートルズだったのです。もっとも成功したバンドであるにもかかわらず、安住することなく常に実験し続けていった革命者でもありました。

 なお、この作品は1983年の12月の年末にNHKにて『ビートルズのすべて』というタイトルで、ナレーターに江守徹を迎えて放送されたものと内容は同じです。ただビデオではすべて英語音声で、字幕がついています。

 何回見たか分からないほど、繰り返し何度も見ました。当時のTV放送をβ・ビデオに録画したものが擦り切れてしまい、見れなくなってしまったので、しかたなくビデオを買ったくらいでした。購入後、当時はややこしいコピーガードとか無かったのでダビングして、擦り切れに備えました。そのためかこのビデオのマザーテープ、つまり製品は三回ほどしか再生しておりません。

 本来であれば、このブログでは劇場公開作品を記事にしていますが、ドキュメンタリー作品には歴史的に重要なものも多いので、あえて記事にしました。<ブート・レッグ『ゲット・バック』の『ロング・アンド・ワインディング・ロード』を聴きながら>

総合評価 100点