良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『デジャヴ』(2006)サスペンスだとばかり思っていたら、なんとSFだったとは!

 デンゼル・ワシントンが主演し、トニー・スコットが監督を務めたこの作品。ちょうどこの日はお花見をしていて、雨が降り出したためにお開きにするも、時間に余裕があったので「とりあえず映画でも観に行こうか」ということになり、予備知識も何もなしに観たのがこの映画でした。  デンゼル・ワシントン主演だというのが解り、どうやらサスペンス・アクションのようだと理解し始めた矢先、思ってもいなかったSF映画に変わっていきました。単純な映画だと思っていたら、寝首を掻かれる作品です。油断なさらぬ方が良いですね。  アメリカ中のどこへでも現実の映像を撮りに行ける奇妙なタイム・ウィンドウ(タイムマシン的カメラ)という設定は絶妙でした。ただし、このカメラは情報量があまりにも膨大なために、解析に四日間と六時間も掛ってしまい、特定の場所を映しだせるのが現実世界時間の四日前、という便利だか不便だか良く解らない装置です。  またこのタイム・ウィンドウは巻き戻しが出来ないので、別にビデオを回さねばならないのと特定の場所へ事態を予測して、スタッフが行ってカメラを設置しなければならないという奇妙なアナログ性を合わせ持っている。簡単なタイムマシン物ではないのです。人間臭さとアナログ臭さがとても心地良く、一捻りも二捻りも利いた見事な設定でした。  難点としては一見しただけでは、まず理解不可能なことでしょう。特に僕はお花見の後に観に行ったので、沖縄古酒とビールと酎ハイに酔った頭にはかなりハードな作品でした。ずっと集中して画面を見て、そして物語設定を考え続けていなければ、すぐに振り落とされそうになりました。友人四人で観に行ったのですが、二人は爆睡していました。  映像はとても美しい。ザラザラした映像とクリアな映像が同居している。人物を映す時よりも静物を映す時の美しさがより映えているのはなぜだろう。風景や小道具を映し出しているときのカメラがもっとも緊張しているように見えるのもブラッカイマーが関わっている作品を観る時に常に思うことなのです。  ブラッカイマー節でもある激しくカットを割っていく手法とアクションと爆発シーンをリズム良く入れてくるハリウッド的なエンターテインメント性を融合させて、退屈させないように構成しています。売れるプロデューサーらしく、売れるツボを押さえた作品ではありますが、この作品での脚本と映像の実験的な性格には拍手を送りたい。  わざわざこういった危険性を冒さずとも、ブラッカイマーの名前だけである程度のアヴェレージを取れる作品を世に送り出すのも可能であっただろうに、難解とも言えるこの作品で勝負した彼の男気は素晴らしい。  『パイレーツ・オブ・カリビアン』の第三作目を作る代わりに、好きな企画を押し通したのかもしれません。スピルバーグが撮りたくもない『ジュラシック・パーク』を作る代わりに『シンドラーのリスト』を作り上げたように。  演技ではデンゼル・ワシントンはさすがの存在感を示していますが、この作品で素晴らしかったのはヒロインのポーラ・パットンと悪役の俳優(名前を知りません)でした。反対にヴァル・キルマーには時代の流れの酷さを感じました。  デンゼルと張り合うヒロインを務めるには彼女では弱いかもしれませんが、『ブラック・ダリア』的に「死体」として最初に登場してきて、生きている「殺される運命にある女」としてほぼ全編に登場する彼女に設けられた設定の妙も効を奏し、観客にとっても感情移入がしやすいキャラクターとして生命を与えられ、フィルムの中で十分に大きな存在感を放ちました。  何気なく映される埠頭の映像やフェリーに乗り込んでくるオープニング映像が実は重要な伏線として、後半に機能してくる辺りの見せ方の心憎さがまた捻りが利いてて良い。サスペンス的要素も機能しています。アクション映画としてもカーチェイスや爆発シーンの大きさはハリウッド基準を満たしています。  クライマックスで小さなタイムマシンに体育座りで乗り込み、過去へ遡っていくデンゼルは最後のフェリーの爆発に巻き込まれて死亡してしまいます。普通ならば、ポーラとデンゼルが抱き合って終わるのが一般的なハリウッドエンディングではあります。  しかしこれはSFでもあるので、同時間に二人の同一人物は存在できないというタイムマシン物のお約束があるためにデンゼルA(タイムマシンでポーラを助けに行く)は死亡し、もともと存在している、何も知らないデンゼルBが事件の被害者であるポーラと普通に刑事として会話し、エンディングを迎える。一緒の車に乗り込むデンゼルBとポーラですが、彼らのお互いに対する思いの温度差には天と地ほどの開きがある。  これはハッピーエンドとは呼ばない。むしろアメリカン・ニュー・シネマ的なほろ苦い終わり方なのではないか。「めでたしめでたし」に慣れた若い層の観客にとっては、こういった終わり方に慣れていない。彼らにはある種の拒否反応があるかもしれません。  しかし捻りを利かせたこの作品の終わり方としてはこれで良いのではないかと思います。ニュー・シネマ的な遺伝子を久しぶりに味わった三十代以上の観客はかなり嬉しかったのではなかろうか。  最近のリメイクばかりのハリウッドとは一線を画したブラッカイマーの無謀な試みは60年代後半から70年代上旬にかけてのニュー・シネマ世代やオリジナリティー溢れる50年代までのハリウッド映画を好きだった人々の失望を少しは和らげてくれたのではないだろうか。 総合評価 80点 デジャヴ
デジャヴ [DVD]