良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『特攻大作戦』(1967)歴代戦争映画の中でも大好きな作品のひとつ。

 そもそも戦争映画と一口に言っても実際にはさまざまで、もっとも一般的なのは「アメリカ万歳!」的な内容を持つ、米国軍事産業や内政に失敗続きの一部ホワイトハウスの政治家が国民の目を現実の敵(つまり自分)ではなく、外国に向けささせるために作られたものです。  それはたとえば『ランボー3 怒りのアフガン』のような単純で脳を使った形跡の無い、いかにも戦意高揚のタカ派嗜好のものを第一に思い出すことでしょう。  また厳密に言えば戦争映画とはいえないが、カウンターとしての旧共産圏で製作されたエイゼンシュテイン監督作品の『戦艦ポチョムキン』、全体主義的時代のドイツのリーフェンシュタール監督が撮った『民族の祭典』などに代表される政治色の濃いプロパガンダのようなものもある。  またあるいは『パリは燃えているか』などのフランス解放のためのゲリラ戦やベトナム戦争を扱った『プラトーン』などの反戦映画など様々な種類の戦争映画があり、そのジャンルごとに名作がある。  最近はブッシュ体制のためか、反戦映画は喜ばれず、テロへの敵意、言い換えれば自分たちの価値観とは違う価値観を持つ者をただ気味悪がり、観客の怒りをあおる作品が多いような気がします。これらで叫ばれる「自由」「正義」とはアメリカの「利権」「都合」と同義語である。  ハリウッドもまた、権力と闘って、目を付けられるのは迷惑なので、体制側にベッタリ貼り付くことで安定を得ようとし、そしてスポンサーである大企業からさらなる予算と利権を目論むので、こういった妥協はむしろ好都合である。  画一的な判で押したような価値観をあからさまにストーリーに押し込んでくる。今も昔もそれは変わらない。ただロバート・アルドリッチ監督にしろ、『第十七捕虜収容所』を撮ったビリー・ワイルダー監督やその他の脚本家たちにしろ、彼らはそれでも反骨気質を持ち続けていて、敵であるナチスだけを冷血に描くようなステレオタイプな描き方はしていない。  どちらも血が通う人間である。そしてこの映画で描かれるアメリカ人とドイツ人のどちらが残忍かどうかを問われれば、間違いなくアメリカ人であろう。女も非戦闘員も容赦なく撃ち殺していくリー・マーヴィン率いるチャールズ・ブロンソンジョン・カサヴェテス(あのカサヴェテス監督です!とても印象に残ります!)、テリー・サバラス(一番変質者的で見事に役にハマっています!)ら犯罪者集団をヒーロー視することは出来ない。しかし見終わったあとに残るのはアメリカ人兵士への不快感ではない。それはお話そのものの痛快さである。  また凶悪な囚人を特殊特攻部隊に仕立てあげるというアイデアも素晴らしい。その昔、中国の秦の時代には劉邦項羽の軍勢を迎え撃つために、秦の章邯将軍が罪人を集めて最強部隊を作り上げて、見事に応戦したそうですが、この映画の筋書きを見たときにスケールの違いこそあれ、同じようなことを考え付く人もいるのだなあと妙に感心してしまいました。  当然凶悪犯だけで構成されているわけですから、やることは非道で、残忍極まりない。しかし、女や非戦闘員を大量爆殺するシークエンスでのブロンソンの怯みに対して、リー・マーヴィンが演じる少佐の台詞「これは戦争なんだ!」を聞いたときには大悪と小悪の違いをまざまざと見せ付けられ、チャップリンが言っていたように「一人殺せば犯罪だが、一万人(?記憶が定かではありません。)殺せば英雄だ!」を思い出しました。  不快感は軍隊という組織そのものに向けられる。作品そのものは痛快な娯楽大作であり、二時間半の長い尺をまったく長いと感じさせない見事な演出、編集、脚本であった。とりわけ脚本のナナリー・ジョンソンとルーカス・ヘラーという二人組の勝利であろう。  二時間半の内、じつに特攻部隊の訓練の様子を描くのに100分以上を割いているのである。しかもこの部分がまた実に良く出来ていて、時間の経過を全く感じさせないのである。メインとして登場するブロンソンはじめとするダメ軍人12人が重犯罪を犯し、その免罪のために命懸けの突入を決行するという設定は泣かせます。  行進もまともに出来なかったポンコツ集団が徐々に闘う集団に変わっていく様は『がんばれ!ベアーズ』みたいでコミカルでしたが、最後は皆殺しの天使に変貌してしまう様子は見ていて恐ろしい。  自国内での訓練部分のクライマックスである合同演習と宴会を迎えるや否や、突然場面が切り替わり、一気にDデイ前のノルマンディーに落下傘部隊が降下していくという話の持って行き方には脱帽するしかない。  閉ざされたというか、狭い地域の中だけで進んでいた、なかば牧歌的な話が急に動的な切羽詰った状況に投げ込まれていく様は痛快である。静から動へという展開の見事さは黒澤明監督の『天国と地獄』を思い出させてくれました。  ドイツ軍の占領地で行われる作戦自体も大胆不敵かつ電光石火に遂行されていく中で、あちらこちらに軽くサスペンス的なサプライズに満ちた要素が盛り込まれており、激しく割っていくカットとともに、息つく暇も無いほどにテンポ良く映像を繋げていく。  痛快さのなかに、戦争の非人間性と非生産性を同時に浮かび上がらせるのは脚本の力であろう。編集の素晴らしさ、演出の素晴らしさ、演技の素晴らしさが一体となった幸せな作品でした。将軍を演じたアーネスト・ボーグナインと補佐役のジョージ・ケネディが妙にとぼけていて、良い味を出していました。 総合評価 86点 特攻大作戦
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