良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ハプニング』(2008)環境問題が加味された、パニック・ホラー。いろんな意味でシャマランらしい。

 M・ナイト・シャマラン監督作品と言えば、配給会社の意に反して大ヒットした『シックス・センス』以降、『サイン』『レディ・イン・ザ・ウォーター』などが続いているが、正直言ってパッとしないものばかりである。寂しいような、冷たいような映像感覚には独特の個性があるし、雰囲気作りが悪いわけではない。  彼の作品で問題になるのは映像ではなく、物語の不完全燃焼である。どの作品も語りが甘く、全体像が散漫で掴み難くなってしまっている。物語性を重視していないわけではないであろうが、結果として、いつも彼の作品は分かりづらいものが多い。重要に見えるヒントが結局大して物語上の意味を持たないマクガフィンと呼べないこともないが、こう続いていくと、もはやマクガフィンといって誤魔化せるレベルではない。
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 では今回はどうだったのでしょうか。答えは予想通りの物語性の不完全燃焼症候群という彼が罹ってしまった不治の病の再現でした。グロテスクな映像にこだわるのは『シックス・センス』以来ですが、ここでも色々な自殺のヴァリエーションを必要もないのにわざわざ見せる。  集団での飛び降り自殺シーンは『ノストラダムスの大予言』以来、久々に観ました。オープニング当初の取っ掛かりのシークエンスなどは上手く作ってありましたし、突然自殺しだす群集というのもショッキングな作りではありました。その原因となるのも人類に対する植物の反撃(普通のおっさんや主役の教師談!)なのか、それとも生物兵器を使ったバイオ・テロなのかがはっきりせず、途中までは楽しめました。
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  しかしさきほど言った、植物犯行説を唱えるのが普通の教師やおっさんだったり、想定外の出来事に右往左往する軍隊を見ていると急に作品にのめり込めなくなっていきます。パニック物ならば、軍隊や警察にシッカリ者を揃えるべきです。最終的に主役になるのが一民間人というのはオッケーですが、原因究明も解決もすべて民間人というのは現実離れしすぎでした。
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 マーク・ウォールバーグが主役、ズーイー・デシャネルがヒロイン、M・ナイト・シャマランもしっかり出演しており、笑える部分もあるのですが、機能していたとは思えませんでした。ジェームズ・ニュートン・ハワードがつけた音楽は結構良く、ピアノと弦楽器が絡む気味の悪いオープニング・テーマは印象的でした。  印象的な映像を作れるのに、ストーリーがあまりにもご都合主義で詰めが甘すぎる。すべてを語る必要のないのが映画ではありますが、説明的な台詞が多いにもかかわらず、ストーリーの全貌が見えてこない(つまり、何が言いたいのかよく分からない。)のは致命傷でした。  環境問題への警告という切り口は時事的で、それに乗っかったまでは良いですし、そこを深く追求していけば、もっと違ったものになったのでしょうが、結果としては「つかみ」として拝借しただけに過ぎませんでした。植物の怒りが人類を滅ぼすという概念は悪くはないのです。  風に吹かれているだけの大きな木々の映像が不気味に映る作品はなかなかありませんし、雰囲気作りは出来ていたので、もったいない。  ちょっと酷いなあ、と思ったのは他の人々は風に吹かれただけで感染してしまう植物の神経毒なのに、主人公一味はビュンビュン吹かれているにもかかわらず、当たり前ですが、絶対に死なない。厄介になる田舎のおばちゃんは自殺する前に、主人公に襲い掛かろうとしてくるのですが、これでは『ナイト・オブ・ザ・リヴィング・デッド』になってしまいます。「なんか違うなあ…。」という点を挙げていけばキリがありません。  映画館に観に行くほどの作品ではないのでしょう。行ってしまいましたが…。  総合評価 52点