『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(2008)黒澤リメイク第二弾。うーむ…
ここ数年、堰を切ったようにリメイク企画が進行しているのが黒澤明監督作品です。テレビドラマ化されたものには『生きる』『天国と地獄』、そして映画化されたものには『椿三十郎』とこの『隠し砦の三悪人』があります。またアニメまで幅を広めると『七人の侍』も加えねばなりません。
なぜ今黒澤作品なのかは疑問ではありますが、ハリウッドだけではなく、とうとう日本の映画会社もかつての財産を食いつぶしていく時代に入ってしまったのかもしれません。そのうち『七人の侍』『影武者』もCGを全編に導入された大作映画として、猛烈な宣伝とともに公開されるのでしょう。
今回、この映画を任されたのは樋口真嗣。『日本沈没』『ローレライ』を撮った、派手な特撮で知られる監督です。彼の監督作品といえば、常にストーリーの破綻とフィルム上に浮き上がって行き場をなくした特撮シーンが記憶によみがえります。観る前から、すでに不安で胸がドキドキしますが、覚悟を決めてDVDを再生してみるつもりでした。
そのまえに、黒澤明監督作品のファンである自分としてはチェックする点がいくつかありました。まずは冒険活劇としても秀逸なオリジナル脚本をどこまで遵守するのか、もしくは現代風にアレンジを加えるのか。変えるならば、どのように変化させるのか。実際の配役が決まるまではずっとそこが心配でした。
もともとこの映画のオリジナルでの重要な役どころである雪姫は上原美佐という絶世の美貌を誇り、なおかつ手垢の付いていない素人を黒澤監督が仕込んで、ヒロインとして仕立て上げました。この役を誰が演じるのか。気高く、清楚で、気性が荒く、芯が通っている女性。かなり難しい配役です。
そして、もう一点はオリジナルは雪姫が登場するものの、その大部分はかなり血生臭く、男臭い作品であるので、それをそのまま21世紀のシネコンに持ってきて、女性客が圧倒的多数を占める客層の中で受けるのかどうか、ということでした。千秋実&藤原釜足コンビのような配役では観客動員には結びつかないのは明らかでしょう。
結果、配役が発表されたときには正直仕方ないかなあ、という思いがありました。上記の狂言回しコンビは松本潤&宮川大輔に代わり、雪姫は長澤まさみ、六郎太が阿部寛になっていました。観客に来てもらってなんぼ、という世界ですので、あまり否定するつもりはありません。
しかし戦国時代の世の中で、農民と姫様の恋愛を描くのはあまりにも無理がありますし、現代風な解釈が多すぎて、観ていて違和感がかなりありました。
せめて松潤と宮川コンビの設定がばくち打ちか忍者とかになっていれば、また変わっていたかなあ、という思いです。なぜなら、『隠し砦の三悪人』の設定や構図をジョージ・ルーカス監督が『スターウォーズ』で使ったように、この映画『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』は『スターウォーズ』の設定やシーンを逆輸入したようなつくりになっているからです。
そのヒントは鷹山役(田所兵衛ではない時点で不満が爆発しそうでした!)の椎名桔平の衣装が教えてくれます。どうみても、彼の軍装はダース・ベイダーそのものです。もし、山名軍の軍装が白を基調にしたものだったならば、完全にストーム・トゥルーパーとなり、スター・ウォーズ・マニアならば、さらにニヤニヤと劇場で笑えたかもしれません。
ぼくらは千秋実&藤原釜足コンビがC3POとR2D2のドロイド・コンビのモデルになったことを知っています。そのため無条件に松潤と宮川にもその設定を当てはめようとしてしまいます。しかし、今回のこのコンビはハン・ソロ&チュー・バッカのコンビなのではないでしょうか。こう考えると、雪姫すなわちレイア姫とソロのロマンスはしっくりとはまりますし、そうおかしいものに映らなくなってきます。
演技自体で見ていくと、長澤まさみ・宮川大輔らはよくやっていると思います。松潤も悪くはないのですが、しがない農民を演じるには顔が綺麗過ぎていて、リアリティがない。また敵側の武将役で登場する椎名桔平は本人のせいというのではなく、脚本のせいでしょうが、なんだかアメコミに出てくるキャラクターのようで、現実味が皆無でした。阿部寛はいつもあんな感じですし、精悍な三船敏郎のような演技は期待すべくもありません。
第二点はカメラワークが秀逸だったオリジナルでの名シーンをどう再現するのか。ここは重要で、たとえば織田裕二主演の『椿三十郎』でのラストシーンの大失敗が作品の印象を悪くしたように、関所に逃げる武者たちを馬で追いかけながら斬り伏せていくワンシーン・ワンカットの繋がりあるシーン、そして火祭りのシーンなどをどう扱うかが気になりました。
三台の望遠カメラを並べ、一台ずつ左から右に振っていき、カメラで撮れる範囲を広げていって、ワン・シーン・ワンカットで関所までを撮り切ったオリジナルの緊迫感をどう表現したかは、この映画を愛する者がこのリメイクに要求する最も重要なシーンのひとつでした。結果は見るも無残にカットが割られていき、しかも重要な関所での六郎太と好敵手であった田所兵衛の一騎打ちシーンをカットするという暴挙に出ました。
反対に火祭りのシーンはカラーの良さが出ていたように思えましたが、ダース・ベイダー・スタイルをみた後はすべてがスター・ウォーズ・シーンの焼き直しに見えてしまい、お祭りシーンもイウォークと焚き火の周りで遊んでいるオリジナル版『スターウォーズ ジェダイの復讐』の大団円の場面の焼き直しとしか思えない。
総体的にみると、画面全体にはつねに茶色っぽいフィルターを掛けているのか、土埃にまみれているような映像が続き、これ自体は悪くは見えませんでした。
最後に山名の新要塞が爆発炎上するシーンも、デス・スターの爆発が頭に浮かび、狭い通路をルークとレイアが逃げたように、松潤とまさみちゃんが足場の悪い建築現場のような階段や通路を行ったり来たりしていました。後半になればなるほど、黒澤版『隠し砦の三悪人』から乖離し、スター・ウォーズ・シリーズ(エピソード4と6)で観た描写が次々に出てきます。
知らない人はスターウォーズ・マニアの人ならば笑えるだろうと思えるのかもしれませんが、この映画ではそれをパロディとしてやっていないので、全く笑えませんでした。パロディではなく、パクリにしか見えないのは致命傷ともいえます。『椿三十郎』のリメイクはオリジナル脚本そのままをやって、しかも最後だけ改悪した結果、後味の悪いものになりました。隠し~の場合は変えすぎて、原型をとどめなくなる手前まで追い込んでしまいました。
見た目という点でもっとも作品を左右しかねない俳優たちの演技や演出、そして現在の多くの観客にとって、もっとも重要なストーリーの作り方という面で、この映画は大成功とは言いがたい。さらに付け加えると無駄な音響や音楽が挿入されていないか、などなど越えて欲しいハードルが数多くありました。
実際、場違いな「裏切り御免!」のあと、音楽も最後に主題歌が飛び出し、目の前が真っ暗になってきます。「裏切り御免!」は藤田進が演じた、田所兵衛の台詞の中だけではなく、映画全体の台詞でももっとも重要な台詞であったにもかかわらず、このような軽い形で使われてしまったのが非常に残念でした。
黒澤作品への愛情をあまり感じない作りになっています。東宝はいったい何を考えているのであろうか。過去の遺産を食い潰す時代に入っているのは明らかで、そう遠くない将来、ネタに枯渇してくるでしょうし、観客動員も下がってくるでしょう。
この勢いと完成度で、安易にどんどんリメイクされていくのであれば、黒澤映画を守るためにもそろそろ厳しく観ていかねばなりません。再評価されいるのであれば嬉しいのですが、どうやらただ単なる金儲けの手段に使われるだけなのであれば、きちんと見ていこうと思っております。
総合評価 55点
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