良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『イエスマン』(2009)ネガティブな自分をポジティブに変える、極端なコメディ!

 徹夜になってしまった決算明け、四月一日の午前10時過ぎ、なんだか妙にテンションが高くなっていたぼくはそのままのノリで、映画館に入っていきました。やっていた映画はジム・キャリー主演の『イエスマン』。CMでもしょっちゅうやっていたので、何も考えないで観るにはちょうどイイかあ、という程度の軽い気持ちで観ることにしました。目標は途中で寝ないこと。その目標は達成されました。つまり楽しく100分弱を過ごしたということです。  徹夜明けでも映画はまだ観ることが出来るのだ、という体力に感謝しつつ、二年前、お花見明けのグデングデンの酩酊状態となり、友人たちと観た『デジャヴ』にはかなり手こずったことを踏まえて選択したのがコメディでした。その判断は正解でした。というか、コメディというジャンルにはめ込むことなしでも十分に楽しい映画だったのです。
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 ジム・キャリー出演作品を振り返ると、つねにあのハイ・テンションで大げさな演技を思い出す。ここでもその片鱗を見せるが、いつもに比べると、そんなに鼻につくようなレベルではない。初めてジム・キャリーを観たのがこれならば、「元気なおっちゃんやなあ!」というくらいでしょう。また彼をよく知る人がこれを観たならば、「今回の彼は落ち着いているなあ。」と思うかもしれません。  この作品を観終わった後にはポジティブな気持ちになる人が多いでしょう。極端な脚本ではありますが、言わんとすることは理解できます。景気の悪い世の中では、どうしても「つらい!」「いやだ!」「だれだれが悪い!」などとどうしてもネガティブな言動や想念が幅を利かせてきますが、そういったマイナスの思いを打ち破る言葉、それもワン・ワードが「YES」でした。
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 「YES」という言葉はとても良い言葉です。しかしなかなか積極的に使えない状況にいる方がほとんどなのではないでしょうか。下手に「YES」を使うと、利用され、馬鹿を見ることがあまりにも多いために、家庭でも仕事場でも使えなくなってしまっているのはとても残念に思います。  いつの頃から「YES」という言葉を素直に言えなくなってしまったのかは思い出せませんが、この映画のように常に「YES」を使っていれば、かなりの金額を浪費するでしょう。この映画での最大の疑問点が「YES」にかかる費用対効果なのです。何を言われても「YES」を連発するとこの世の中では生きてはいけません。かなりの収入がある人でなければ、このルールは遵守できない。
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 実際に劇中での彼も、良いことと悪いことでは3対7くらいになっています。3対7が多いか少ないかは観る人次第ですが、この比率ならば良いほうではないでしょうか。普通は良いことが1、あとの9は悪いとも普通とも取れないことばかりなのが人生でしょう。  大事なのは積極的に人生を変えようとする姿勢そのものでしょう。結果が悪かろうが、良かろうが、あまり関係はないのではないかと思います。やって後悔するほうが、やらずに後悔するよりはましでしょうし、ポジティブ・シンキングというのは結果ありきではなく、行動そのものに重要性を置くのではないでしょうか。
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 いろんなことにチャレンジするうちに、いくつかの成功を得ることが出来たのならば、それは十分に報われた人生といえる。批判するのは簡単でしょうが、見ているだけでは人生は充実しない。周囲に働きかけてこそ、はじめて人生は動き出していく。  劇中でのジムは韓国語を学び、ギターを習い、飛行機を操縦し、バンジー・ジャンプをし、ハリウッド・ボウルに侵入し、ビートルズ・ナンバー『キャント・バイ・ミー・ラブ』を熱唱する。ビートルズ・ファンが観れば、思わずニヤニヤしてしまうシーンが二つあり、ひとつは前述したハリウッド・ボウルのステージでの『キャント・バイ・ミー・ラブ』、そしてもう一つはギター片手に歌で自殺願望の中年男性を助けた後に、彼に向かって叫ばれた一言、それが「Ⅰ Got Blisters On My Fingers!」でした。このシーンはまるでミュージカルのような楽しいシーンでもあります。  この台詞はビートルズの有名なアルバム『ザ・ビートルズ』(俗に言われるホワイト・アルバムのことです。)に収録されていて、人気の高いハード・ロック・ナンバー『ヘルター・スケルター』でのリンゴ・スターの叫び声なのです。こういうちょっとしたシーンに作りこみの丁寧さを感じ、嬉しくなりました。   演技そのものはいつもどおりのジム・キャリーです。今回の収穫は欧州的というか、根っからのアメリカ人とは明らかに違うリズムを持つ、ヒロイン役のズーイー・デシャネルでしょう。彼女はミュージシャンなのでしょうか、違和感を放ちますが、作品にはピタッと合っている不思議な女優でした。
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 彼女が歌うシーンもありまして、ディーヴォを思い出すようなニューウェーヴ的なナンバーが強く印象に残る。バンド自体は『スターウォーズ』のカンティーナ・バンドを髣髴とさせる奇抜なスタイルで演奏する。  こうして見ていくと、結構音楽が重要な映画であったとわかりました。「YES」を繰り返すうちに、周りに人が寄ってくる。良い人のみではなく、悪い人も大勢寄って来るが、何もしない人生よりははるかに充実した人間関係を築いていく。映画が終わり、現実の世界に戻ってくると、「YES」とは言えない自分に気づく。  劇場を出ると、時計は12時半を指していました。どっと疲れが出てきましたが、テンションは結構高く、結局寝たのは夜9時をまわってからでした。 総合評価 75点