良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ハッピー・フライト』(2008)期待していなかっただけに、レベルの高さにびっくり!

 先日、近所のツタヤで新作映画を借りていて、河瀬直美監督の『七夜待』と『ワールド・オブ・ライズ』はすぐに決まって、残り一本を借りると3本になり、3本借りると一泊分サービスになるので、ついで借りしたのがこの『ハッピー・フライト』のDVDでした。  矢口史靖監督作品で、これまでにぼくが見たのは『ウォーターボーイズ』『スウィング・ガールズ』のみで、よく出来た作品を撮る監督だなあという程度の認識しかありませんでしたので、今回もとくに期待していたという類ではありませんでした。
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 また、内容自体がホノルル行きのジャンボ機にバード・ストライクによる故障が起こり、台風の目を突いて、離着した羽田空港まで戻っていくというお話なので、とても地味で映画になりにくいストーリーでした。それを上質なサスペンスフルなコメディ映画に仕上げられているのを見て、かなりびっくりしました。  収まりすぎにも見えますが、いい意味で期待を大きく裏切ってくれました。見て爽快というほどまではいきませんでしたが、ANAのタイアップを得るために必要なギリギリ最大限の描写制限のなかで、上手く纏め上げています。飛行機を離陸させるために、これだけ多くの空港スタッフが笑える文句やブラックな愚痴を言いながら、なんとか定時に間に合わそうとしている、その強迫観念が一番印象に残りました。  なかでも離陸しようとしている飛行機に向かって、「かえってくるなよ~!」とか笑いながら言ってるシーン、自分の機内アナウンスに酔ってしまったパイロットに無線で「電波を独り占めしないように!」と釘を刺すシーン、整備士に「定時で飛べないようなら、細かいところは放っておけ!」と言い放つシーンなどはブラックで笑えました。
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 これだけをみると、「なんだ?安全よりスケジュールか?」などと嫌味を言うひともいるでしょうが、いざ飛行機に乗ったら、そういうことを言うひとに限って「早くしろ!」とかわがままをいいまくったり、「どうしてくれるんだよお!」とか平気で恫喝するやつなのはないでしょうか。穿った見方をすれば、少々のことでは墜ちないからゴチャゴチャ言うなということでしょうか。  日本などはまあ、しっかりとやっているほうではないでしょうか。外国に行けば、「これ、ほんまにちゃんと飛ぶんやろか?」と不安になる飛行機がたくさん飛んでいます。全日空日航も座席は綺麗ですし、サービスは良いほうです。アメリカやその他外国に行ったら、どうみてもわれわれ黄色人種を下に見ている応対をされることなどしょっちゅうでしたし、なんかいおうにもケンカできるほどの英語力はないので、どうしても我慢の子になってしまう。
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 それから思うと、日本語が通じる喜びがあるのだから、ちょっとぐらいのことで騒ぐんじゃねえと言いたい馬鹿客があまりにも多い。接客業は「言いなりになります」業ではありません。建前ではいまだに「お客様は神様です」のような昭和の価値を押し付けようとしますが、サービスを受ける側の自分たちの態度は退化し続けているのが現実でしょう。どこへ行っても平気でゴミを散らかす。  公共の場所である交通機関に無造作に捨てられる吸殻やマクドナルドの紙バック(あれは臭くて大嫌い!)、憩いの場であるはずの公園や海岸に平気で捨てられるゴミ、マナーの悪い釣り好きのアホどもの残した釣り針や仕掛けのせいで傷つく鳥たち…。本当にきりがない。
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 映画に戻ります。ストーリーの軸としては操縦士のエピソード、CAのエピソード、地上勤務のエピソード、管制室やコントロール室、そして整備士のエピソードを上手く挟み込みながら、それぞれの人生模様を軽快に描いていて、好感が持てる作品でした。うまく多くの人々をさばいています。きれいに人々を描き分ける手腕はさすが、矢口監督だなあと再認識させてくれます。職業的になっているきらいもありますが、彼の手腕は確かです。新鮮さを期待する向きにはどうかと思いますが、安定感はそれよりも重要でしょう。  キャストでは田辺誠一寺島しのぶ田畑智子岸部一徳吹石一恵、そして最近の邦画によく出てくる綾瀬はるかが持ち味を出しています。とりわけ田辺誠一が演じた副操縦士はとぼけていて、良い味を出しています。また、この映画での綾瀬はるかはそんなに目立つほうではなかったような気もしますが、『マジック・アワー』『僕の彼女はサイボーグ』での彼女よりも、より「素」の魅力が出ていたように思えました。
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 映画自体にはちょっと硬いかなと思う場面もありましたが、何でも茶化せばよいというわけではないので、これくらいのノリで描いているほうが、リアリティがあるように思えました。CA業務もここで描かれるのはクレーマーへの対応だったり、爺さんが吐いたゲロを処理したり、修学旅行の馬鹿ガキへの対応だったりと、ツライ眼に合うシーンばかりで華やかさとはあまり縁がありません。  空港見学に来ているガキどもがまた最悪で、「工具一つでも無くなると、探し出すまで帰れない」と空港職員が説明しているにもかかわらず、工具を盗み出し、しかも帰りの観光バスのシートを工具で破壊して喜んでいる馬鹿ガキの描写もあります。体罰は駄目とか言う人もいますが、言って分からない馬鹿には必要なのではないでしょうか。  脱線しまくっていますが、映画としては航空機が墜ちるかもしれないという緊張状態とは対照的な綾瀬はるか田畑智子を中心にした、のほほんとしたのんびり感が絶妙で、彼女らのコメディエンヌとしての適正を感じさせてくれました。緊張溢れるコックピットでも田辺誠一時任三郎の何気ない会話にクスッとくる要素が多々あり、とかくジメジメしがちな邦画の中では珍しい楽しみがありました。
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 これこそが矢口監督の力量なのでしょう。軽快な作品を描く監督って、人気は出ても、なかなかうるさ型のファンや関係者から評価を得にくいのでしょうが、彼はもっと評価されるべきでしょう。シリアスな作品を作るのも才能ですが、劇場に観に行った観客を幸せにして帰らせてくれる才能は貴重です。 総合評価 80点
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