良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『笑う警官』(2009)サスペンスもどきであって、サスペンスではない。

 『笑う警官』というタイトルと宮迫博之が出演しているという理由のみで本日、劇場に行ってまいりました。観終えた感想としては“冷笑する観客”としか言えないのかなあというところです。黒幕の後ろにまた黒幕がいて、さらにその背後にまたまた黒幕がいるというのはまるでロープレのラス・ボスみたいなノリで正直アホらしいし、「もういいや…」となり、久しぶりにエンドロールを見ないで帰ろうかなあという衝動に駆られました。  まあまあ、それは思いなおし、『デビルマン』以来の途中退場は避けましたが、あまり爽快にはなりませんでした。帰り道も頭の中では「最後のジャズ演奏夢想シーンに何の意味があるのだろう?」とか「そもそもあんなゆったりしたジャズがサスペンスにいるのかなあ?」などと何故の嵐に包まれました。  角川春樹監督も焼きが回ったようで、切れもコクも何もないふやけた映像が延々と続く。ストーリー展開や解決への伏線の引き方もえらく適当で、あとあと意味を持ってくるのかなあとこっちで思っていたものも何にも生かされてこないし、何のために意味深な発言やカットを入れているのかさっぱりと伝わってこない。
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 事件そのものを15時間で解決しなければならないとか言いながら、まるで緊迫感がなく、隠れ家は最初から敵に筒抜けで、とっくに包囲されているはずなのに、警官隊が誰も襲撃しに来ないし、普通に主要なキャラクターが隠れ家に行っても誰も包囲に気づかない。  味方なのか敵なのかもはっきりせず、「味方であって味方ではない!それはなにかと聞かれたら!ベン!ベン!」という感じでした。あまりにも続く予定調和と不条理にはっきりいって、途中で笑いそうになりました。  縺れに縺れているはずの事件への糸口が解決する側の主人公たちに、タイミングよく10分おきくらいに、何度も都合よく、必ず与えられていく展開はコナン君みたいでもあり、正常な神経を持つ大人は苦笑するしかない。また鬱陶しいのが何度も何度も、何度も何度も現在時間を白地のテロップで表示する不要のサービスでした。  そもそも15時間の物語で、時間経過なんか何度も示す必要がない。また時間をどうしても見せたいのならば、人物のしている腕時計を通してとか、TV番組を見ている画面で時間を入れるとか、屋外を車で走っているときの車内の時計とか、周りの建物に付けられているものとか、お店の置き時計とかやろうと思えば、いくらでもさりげなく時間を示す映像を入れられたはずなのです。
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 夕方に始まった事件が夜に思わぬ展開となり、明け方近くまで密室の攻防があり、早朝九時には宮迫を護衛しながら、会議場まで送り届ける。どうせフィクションと割り切っているのであれば、せっかく冒頭に射殺命令を出したのだから、クリント・イーストウッドの『ガントレット』のように派手にドンパチをするとかしていれば、まだアクションとしての救いがあったかもしれません。  またサスペンスとして撮り切るのであれば、議場に入る前に、どこから狙われている分からない中、すでに白バイ警官のヘルメットを取って、アイコンタクトを取る大森南朋と宮迫の映像はあってはならない。しかもそれは一分間近く続くに至ってはどうしようもない。視線でターゲットがどこに位置しているか分かってしまうようなボケた動きを現職警官が見逃すわけがない。  誤射されて、大森が傷つくときになぜか鹿賀丈史の高らかな大笑いが大音響で鳴り響いたときには、「ここはキッチン・スタジアムか?」と見紛うばかりでした。唯一良かったのは鹿賀が真っ黒な画面でなぜか上下が逆さまに写っているのにずっと会話を続けていて、いぶかしく思っているとカメラがティルトしていって、それが実像ではなく、鏡面に反射して写っていただけで、実体は普通にしゃべっているというカットくらいでした。
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 しかしまあ、全体を通して見ていくと、あんなにセンスの悪い映像はTVドラマ以外で久しぶりに見ました。さらに醜悪なのが登場人物たちを嘗め回すように動いていくカメラです。雨のドライブ中の車内を捉えたシーンで、何度も車外からの180度パンを繰り返す。全く必要がないし、秘密に事態を解決しようとするのであれば、特に密室での会話となる車内のシーンを車外から写すセンスはありえない。  そうかと思えば、無駄にゆったりと流れてくる会話シーンでのカメラにもイライラさせられましたし、冒頭書いたようにゆったり過ぎるジャズとタイムリミット物としてのストーリーとの相性が悪すぎるのだ。もちろんジャズがノワール系映画で重要な意味を持つのは知っておりますし、そのカッコ良さも理解しております。
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 しかしながらこの映画でのジャズは映画の進行を妨げるブレーキ役となってしまっていたのはなんとも残念でした。最後の敵も味方も、生きている者も死んでいる者も一緒にバンドを組み、演奏したり、聞き入ったりするに至っては茶番劇としか言いようがない。どういうセンスであのラストを撮ったのだろうか。  俳優陣は松雪泰子(同僚警官)、忍成修吾(新米警官)、蛍雪次朗(犬から中間ボスに出世)、大友康平(殺し屋)、大和田伸也(キャスター)と脇役には恵まれていますし、松山ケンイチ中川家礼二なども出てきますし、俳優のツボは押さえていたはずでした。  ただし肝心の主要な人物であるはずの宮迫の心理や葛藤はほとんど触れられずに、大森が代弁して仲間にしゃべるのみというのはあまりにもお粗末で、せっかく俳優陣ががんばってもそれが質的向上の役に立っていないのは惜しまれました。
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 しかしストーリー展開の破綻を駒である俳優たちのみが立て直せるほど映画は甘くない。あちこちに破綻があっても、スピード感や映像の説得力があれば、乗り切っていけるのです。実際、ヒッチコック作品はあちこちに大穴小穴があっても、最後には映画として見せてくれるので、スカッとした爽快感が保障されています。  色使いなどは結構渋めで好きな色調だったのですが、全体としてみると及第点には遠く及ばないというのが実感でした。『イングロリアス・バスターズ』との二者選択で観に行ったのが『笑う警官』だったのに、「こりゃあ、DVDレンタルでよかったなあ…」となりました。
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 WOWOWご加入の方は待っていたら、半年後くらいにはオンエアされるでしょうから、観に行く必要はないですよ。ツタヤの棚に5本くらい置いてあって、二週間くらい経ったら、準新作とかで並んでいると思います。  角川春樹はもう後進に道を譲って、監督業はやめて貰った方がいいかもしれません。試写会とか映画評論家の観るようなタダ見の奴らの言うことは無視してください。1800円払って、この程度ではキツイです。観ていて、何度もお尻がムズムズしました。つまり集中させてくれるほど、のめりこめないということです。 総合評価 40点
笑う警官 (ハルキ文庫)
角川春樹事務所
佐々木 譲

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