『喜劇役者たち 九八とゲイブル』(1978)ブレイク前のタモリのアナーキーな芸風の片鱗を見よう!
ビートたけし、明石家さんまとともに昭和から平成にかけてのお笑いの象徴とも言える、タモリこと森田一義が今の彼の代名詞であるサングラスを掛ける前に、青や黒のアイパッチをして、風変わりな芸人として、テレビ番組の一出演者だった頃の彼がせんだみつおや和田アキ子らと一緒に登場していたのを実際にリアルタイムで見たのは30代中盤以降の方までだろうか。
ごくたまに懐かしのVTRで、当時のタモリの様子を放送していることもあるが、それらはかなり断片的であり、彼の芸風はなかなか判別しにくい。フジテレビ系列の笑っていいとも!以降は時折本人が思い出したかのように、またはゲストの要望に応えて、かつての代名詞であるイグアナ芸や中国語芸をほんのちょっとする程度で、昔のような粘着質のアクのえぐみは無くなってしまったように見える。
この映画の見所はズバリ、彼の昔の芸の数々を沢山見られることである。タモリが昔よくやっていた芸で、もっとも印象深いのは何だろうか。僕にとってはそれはイグアナではなく、四カ国麻雀なのです。おそらくはかなりいい加減な広東語、北京語(?)、韓国語、そしてドイツ語を駆使して、たった独りですべての役を雀卓や炬燵を周りながらこなしてゆくという芸で、何度見ても、大笑いしたものでした。
しかし、それらはすべて80年代初頭に始まったフジテレビ系列の「笑って いいとも!」以前であり、何十年も見ていないことに気付きました。どうしてもこの映画が見たくなった僕はアマゾンで探しましたが、DVDは未発売となっていました。
その後、たしか大昔のレンタル屋さんで並んでいたのを思い出したので、もしかするとヤフオクで出品しているかも知れないと思いつき、さっそく探ってみると、数人のオーナーがレンタル落ちを流していました。見ていると三千円台後半が相場のようでした。
まだ3日間締め切りまでの時間があったので、その日は入札せずに模様眺めをしていました。次の日には三本出ていたオークションに三つとも入札がありました。競り合いを覚悟しましたが、最後の一日までは手を出しませんでした。すると最後の日になんと千円という特価で出品している人が現れたのです。すぐに入札して、タイムアップを待ちました。
幸いにして、僕が欲しかったタイミングで、この作品に入札した人たちはみんなそれまでの相場価格での出品に食いついたようで、誰にも邪魔されずに千円でゲット出来ました。ちょっとだけ嬉しい気持ちで、到着を待っていました。
内容を見ていくと、この映画にはタモリだけではなく、愛川欽也がダブル主役として登場してくるのですが、はっきり言って、タモリの才能の前に圧倒されています。まだブレイクする寸前だったタモリだけでは興行に難しいと判断したのでしょうが、タモリだけで十分でした。
愛川はただ圧倒されているのであれば、まったく問題はないのですが、タモリの魅力を損ない、存在自体がかなり煩わしく、進行の妨げとなっているように思いました。
先の四カ国麻雀にもチョロチョロ現れるし、鬱陶しい。もともと、「なるほど・ザ・ワールド」などで彼が見せていた偉そうな態度が大嫌いだったので、彼が出ている番組はすべて見ないようにしていたのですが、仕方なく数十年振りに彼の姿を見る羽目になりました。
したがって彼のパートにはどうしても感情移入は出来ませんでした。しかしそうはいっても、タモリの芸が見られる映像は数少ないので、きっちりとすべて見ました。さすがに三十年近く前の作品なので、鈴木ヒロミツのように、今はもう鬼籍に入った方もいました。
主な出演者としては三木のり平、財津一郎、秋野太作らが脇を固めていて、その他ではあき竹城などもヌードを披露していました。タモリの見所は先に触れた四カ国麻雀と君が代の替え歌でしょうか。皇室をおちょくった内容となっていることも、昨今の弱腰なメディアがこの作品のソフト化や放映を躊躇する要因になっているのでしょう。
君が代シークエンスをカットして編集すれば、おそらくは無事にソフト化できるのでしょうが、それではこの当時のタモリが持っていた危うい輝きのほとんどすべてが消えて無くなってしまう。となると半永久的にこの映画が陽の目を見ることはないのかもしれません。
お蔵入りとなっている最大の理由は『君が代』をパロディ化した歌詞が原因と思える。まだまだブラック・ジョークを笑える社会環境になっていないのは不幸だと言える。この場末のストリップ劇場で、異端の芸人だったタモリによって歌われるシーンこそ、この映画の最大の見所である。
しかも、このシーンはフェミニズムをも嘲笑う仕組みになっているのもあります見逃せない。またオチとして、精神科病院の追っ手から逃げ続けるタモリたちが最終的に病院へ向かうトラックの荷台に乗ってしまい、元々いた病院に舞い戻って行くところで映画は終わる。
クレージーでアナーキーなコメディ映画の終幕としては良い出来だったのかも知れない。ただし何度も言うように、この映画のガンは愛川欽也であり、製作者たちの配役や演出での判断ミスが響き、タモリの魅力は半分も出てはいないのが重ね重ね残念でした。
映画そのものははっきり言って、時代遅れで、感覚や演出も野暮ったくて、タモリの魅力を前面に押し出しているとは言い難いが、それでもここには駆け出しだったタモリの荒々しい魅力の片鱗に触れる機会を与えてくれます。それじゃあ、みなさん!この作品をヤフオクでゲットして、見てくれるかな?
総合評価 55点