良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956)SFノワール!影の使い方が美しい!

 『盗まれた街』を原作に持つ、『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』はドン・シーゲル監督初期の異色の作品であり、1950年代のSF映画の代表作品の一つでもある。このオリジナル版がSFファンの心をがっちりと掴んだためか、何度もリメイクをされ、70年代のカウフマンによる『SF/ボディ・スナッチャー』もなかなかの一本でした。  さて、オリジナル版を監督したドン・シーゲルといえば、最も有名なのはクリント・イーストウッド演じる、ハリー・キャラハンが魅力的な『ダーティ・ハリー』シリーズだというのは誰でも認めるでしょう。ぼくも第一作目から始まり、第四作目までは見ていました。五作目も観ましたが、あまり良い印象はなかったのを覚えています。  あの型破りなキャラハン刑事の魅力は忘れがたく、今では知事を経て、監督業に勤しむ彼を見ても、いまだにダーティ・ハリーの姿を重ね合わせてしまう。本人からすれば、かなり迷惑なのでしょうけど、それほどあの役はハマリ役であっただけではなく、出世する上でも重要な作品だったといえます。  話をこの作品に戻します。映画の質的な部分ではフィルム・ノワールの香りとSFセンスのエグみが程よく調和した良いストーリー展開だと思いました。映画は大好きですが、なかでもSFや特撮ファンでもあるので、モノクロ独特の明暗が醸し出す、怪しげな雰囲気を持つ、この作品は大好きな一本です。大昔にレンタルか深夜放送だったかははっきりしませんが、その時に見て以来、20年以上は経つと思います。
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 ここ何年か前に、TSUTAYAで探してみましたが、どの店に行っても、最近のリメイク物しかなく、70年代のカウフマン監督によるリメイクとなった『SF/ボディ・スナッチャーズ』すら置いていない有り様でした。大昔にはVHSのレンタルがありましたが、DVDにフォーマットが変わってからはマニアックな品揃えのお店でも見かけなくなっていました。  もしやと思い、ヤフオクやアマゾンで調べてみると、案の定、レンタル落ちの着色版でも8千円くらいしていて、DVDも一万円を超えていました。DVDは生産ロットがVHSに比べると少なく済み、かなりマニアックな作品でも容易に製品化出来るため、どんどんカルト作品がリリースされていくのは嬉しい状況ではあります。  ただし、生産ロットが少ないということは世に出る商品数も少ないという意味でもあります。発売してすぐに買えた人は良いのですが、うっかりすると、すぐに廃盤になってしまう。そこにマニア狙いの輩が弱みに付け込んで、新品未開封を売り文句に高額な売価を付けて、オークションに出品していく。  万単位のものも頻繁に出てきますが、さすがにそこまではお金を出そうとは思えず、気長にスカパー!やBSでの放送を待ち続けていました。しかし、残念ながら、ずっと待っていても、ドン・シーゲル監督の作品が放送されるとしても『ダーティ・ハリー』くらいで、この作品はいっこうに放送される気配もなく、三年の月日が経過していました。  つい先日、何気なく、"恐怖の街"をヤフオクとアマゾンで検索していると、数件出品されており、DVDは依然として高額でしたが、ビデオは安いモノは二千円弱で出ていました。まあ、おそらくは着色版のレンタル落ちのボロボロなビデオの出品だろうと思いましたが、テレビの色調調整を使用してモノクロもどきにして、当時の雰囲気を味わえれば良いかと納得させて、この商品を落札しました。
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 何日かして、現物が郵送されて来て、中身を開いて驚きました。なんと見たかったモノクロ版で、しかもあまり見られた様子もない美品だったのです。幸運に喜んで、すぐに家で最近出番がとんと減ってきたビデオ・デッキにセッティングすると、何十年振りかに、我が家にて、この作品が見ることが出来ました。  去年あたりからは各家庭とも地デジ化の影響もあり、HDデッキを購入して、DVDやブルーレイに記録メディアを移行させたためか、ビデオが不要になり、廃棄したり、物置行きになるものが多いためか、ソフトも無用となり、貴重な作品が結構安めで出品されているようです。  常にチェックして、塩ビのレコードのように掘り出し物を探そうと思っています。この前もチェン・カイコー監督の『大閲兵』が格安で出ていましたし、ヴァレンティノ出演作『黙示録の四騎士』『血と砂』も安かった。記録メディアの切り替わり時期はコレクターにとっては見たかった映画を探し当てる、一大チャンスでもあるのかもしれません。
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 映画に戻りますが、これは単なるSFではなく、フィルム・ノワールとしても成立しています。闇の恐ろしさと光の薄気味悪さは他のSF映画にはない。語り口もスピーディーでテンポも素晴らしい。  もっとも、重要に思える細部を端折りすぎで、ストーリーは浅すぎるきらいもありますが、いわゆる粗さよりも、作品のテンポの良さとクオリティの高さが上回っているので、それほど気にはなりませんでした。  人間関係が希薄な大都市でやったほうが気付かれにくいでしょうし、こんな小さな街で、なぜ唐突に侵略計画を進めて行くのかは疑問ではあるし、あちらこちらに突っ込みどころは満載ですが、それを気にかけるよりは睡眠時に取 って代わられるというSF要素のなんともいえないエグミを堪能したい。  睡眠はすべての人類が生命を維持する上で絶対に必要で、避けられない“欲”です。排泄欲、食欲と並び、生命維持に欠かせない睡眠時に忍び寄ってくるこのいやらしさは他では味わえない。どんなマッチョでも、どんな絶世のヒロインでも寝ないで行動は出来ない。そういう面ではこのエイリアンは無敵かもしれない。  超ビッグなえんどう豆の鞘のような巣で睡眠のたびに育っていく様子は不気味そのもので、気づかぬうちに乗っ取られていくのはハッキングによるコンピューターへの攻撃のようでした。この形状をチャチと見るのは勝手ですが、見た目よりもこの鞘の意味を考えた方が良い。
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 今回僕が観たのはモノクロ版でしたので、薄気味悪さはあまりありませんでしたが、カラー着色版で見たら、かなりグロテスクだったのではないでしょうか。泡の中で徐々に形を作っていく様子、ドロドロとした鞘のなかで、成長していく様子などは気持ち悪く、モノクロでよかったのかもしれませんでした。  最も有名な市街地をエイリアン化した住民たちから逃げ惑うシーン、とうとう力尽きて、彼女がエイリアンになってしまうシーン、そしてハイウェイで窮状を訴えるも、かえって狂人扱いされるシーンがリズム良く編集されていて、見事に映画になっています。必要最小限に説明が加えられていくが、聞かないでも俳優たちの表情や光と影の交差を見るだけで、ほとんどの観客は意味を理解したことでしょう。  回想という設定なので、基本的にすべてのシーンは主人公の視点で語られ、主人公の“いる”場所での描写がほとんどでしたが、いくつか主人公がいないシーンでのエイリアン同士の会話があったりしたのは残念ではありました。しかしまあ、そういったことも気にならないほど良く出来ているので、このSFノワールを楽しみましょう。  他人がみんな自分に敵対していくように見えるという、精神的な病理を描いたメタファーでもあるのだろうか。異星人とは共産党員だったり、世代間ギャップだったりするのでしょうか。学校や職場でよくあるような虐めもこれと同じなのだろうか。ある時を境に、周りの全員が自分に敵対し、無視したりして嫌がらせをする。
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 ほんの数日で、いつの間にか、自分が信じていた人たちがまるで違う人格に変化してしまうというのは恐怖であろう。何があったのだろうか。自分が何か傷つけることを言ったのだろうか。誰かが要らぬ悪口を言い、それを真に受けてしまったのだろうか。  そういう状況はその人が近ければ近いほど、受けた人はパニック状態になると言える。知っている人がちょっとずつ変わるのではなく、ほんの数日で変わるのです。姿形も同じで、思い出も記憶も共有しているのに、感情がまるでないというシーンが数多く繰り返される。  比較的、自分から遠い人たちから変化が始まり、段々近しい人が変わって行き、ついには家族や恋人が別人になってしまう。徐々に忍び寄ってくる、得体の知れない、共産主義への恐れのメタファーなのでしょう。エイリアンたちがコミュニティーを形成し、人数の沸点を迎えると、真昼の大広場に集まって、近隣の街への侵攻を始めるシーンに至っては、多数派となったことを自覚し、まさにゼネストを宣言する過激なコミュニストのようだ。
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 彼らは鞘の中で、覚醒していない人間、つまり形が定まっていない人間を再教育しているのだ。再教育された人間は感情をなくし、ロジカルに生命活動を行うのであろうが、そこには自由意思はなく、エイリアンの指示通りに動くのみとなってしまう。思考や感情の自由を奪われたまま、生命活動が続いていたとして、それで生きていると言えるのだろうか。  『ワイルド・バンチ』『ガルシアの首』で有名なサム・ペキンパーが製作にかかわり、しかも出演までしているそうなのですが、彼がどこに登場しているのかは残念ながら見つけられませんでした。 総合評価 85点
ボディ・スナッチャー/恐怖の街 [DVD]
カルチュア・パブリッシャーズ
2001-10-17

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