『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)不思議の国のアリスの3D版だと思っていたら…。
最近というか、今月は映画館に行こうとすると、なぜかいつも激しく雨が降ってくる。ここ数年は気候の巡りもおかしく、今年に関しても、なんだか春を飛び越えて、梅雨のシーズンに入ったみたいです。
今日は有給が取れたので、必要以上に評価されている『アバター』以来、二本目の3D映画となる『アリス・イン・ワンダーランド』を見に行くことになりました。向かう途中で、すでに雨は本降りになってきたので、おそらく今日はガラガラなのかなあ。
のんびり観たい気分なので、それはそれでありがたい。変なヤツやバカな学生の団体が来ないことを祈りつつ、座席指定をするため、券の売り場に並ぼうと劇場に入っていくと、残念ながら、イヤな予感は的中し、中学生や高校生らしきガキどもが大量発生していました。
騒がないことを祈ります。すべてがそうかは分かりませんが、ワーナー・マイカル直営館の特徴は席の作り方が他の設備よりも傾斜が急で、前の観客のアタマが邪魔にならないことが第一に挙げられる。たまに緩い傾斜の小屋がありますが、前に馬鹿でかいヤツが来ると何も見えないときがあり、イライラさせられるが、お金を払ってイヤな思いをしたくない。
空気清浄システムも最近はウリのひとつのようです。臭い中で観るのは確かに苦痛で、もう閉館となりましたが、近所にあった大映系の映画館は一番後ろの席に座ると、トイレのラベンダー系の芳香剤がキツく臭ってくるという最悪の環境に陥りました。
まあ、いつも映画が始まる前はそんなこんなのつまらないことをぼおーっとしながら考えています。さあ、アリスのことを考えてみよう。僕らが思い出すアリスはディズニーアニメ映画の名作である『不思議の国のアリス』であり、懐かしさでしょう。
なぜこれが第一番目の名作からのディズニー3Dに選ばれたのだろうか。たしかに『白雪姫』で林檎をアップで迫らせても無意味でしょうし、『ダンボ』が飛んできても困るからでしょうし、『ピノキオ』で鼻が伸びてきたら、観客の失笑にさらされるであろう。消去法で残ったのが『不思議の国のアリス』なのでしょう。
座席について、目をつむり、始まるのを待っていましたが、ざわざわはどんどん大きくなってきたので目を開けると、なんと二百人収容のスクリーンの七割強が埋まっているではありませんか。しかも僕の両隣も埋まっているので驚きました。平日の雨、学生たちは休みではないだろうに、何故にお昼からこんな状態なのだろうか。
まあいいや。さあ、始まりました。3Dも二回目となると、前回の新鮮な驚きはすでに無くなっています。驚かなくなっている自分にむしろ驚かされます。順応なのか、刺激にすぐに鈍感になってしまうせいなのかは分かりません。
提供する劇場にとってみれば、すぐに慣れてしまう観客に新鮮な驚きを常に与えるのは不可能であろう。隣の人は3Dを初めて観たようで、何度もピクッと反応していたので、さぞ楽しめたのではないでしょうか。これからは何でもかんでも3D化するのではなく、効果の必要性という、至極当然の感覚を持って、製作に当たらなければ、すぐに飽きられるでしょう。
それを防ぐにはあのメガネを掛けずに立体で鑑賞できる環境の構築しかないでしょう。『アバター』に比べると、こちらの利点は多くの人が話の筋を知っていて、チェシャ猫やトランプの兵隊などのキャラクターに親しみを持っていることです。ぼくもチェシャ猫やトランプの兵隊が好きなので、作品世界を楽しめました。ただトランプの兵隊の幅が太すぎて、本来のスライスのような薄さが無いのが難点でした。
それとは対照的にチェシャ猫は3D効果による新たな表現の幅を与えられて、水を得た魚のようにしなやかにスクリーンを行き交っていました。赤の女王を演じたヘレナ・ボナム=カーターと白の女王を演じたアン・ハサウェイのインパクトもありました。特殊効果バリバリの赤はもちろん目立っていましたが、アン・ハサウェイ演じる白の女王の微笑みほうがむしろ残酷に映りました。
最後のジャバウォッキー(ドラゴン)との戦いはなんか神話的でした。というかアリスが鎧を纏い、伝説の剣を手にして、ドラゴンと戦うというのは『不思議の国のアリス』を幼少に見て、ビデオ化されたときもすぐに見た者としてはなんだか心に引っかかりを感じました。
ティム・バートンが監督を務めているので、不思議の国は彼独特のグロテスクな世界観が発揮されてはいましたが、どうも肝心のCGの出来がイマイチに見えました。これならば、別に3D効果を使ってやるまでもないなあという感じです。『アバター』を観に行ったときの劇場での予告編では『アリス・イン・ワンダーランド』が掛けられ、結構『アバター』よりも良い感じに仕上がっているようにも思えましたが、いざ全編を通して見ていくと、大したことないとまでは言いませんが、普通だなあという程度でした。
何よりもまずかったのはあれだけ有名で強烈なキャラクターがひしめいている筈の不思議の世界なのに、ほとんどのキャラが目立った活躍を与えられていないし、画面の中で埋没してしまっていることでした。主役であるアリス役のミア・ワシコウスカは駄目な女優とは思いませんでしたが、普通な感じでしたし、狂言回しとしての活躍を期待されていたであろうジョニー・デップが演じるマッドハッターが活き活きしていないのです。
『チャーリーとチョコレート工場』のときのウォンカ(?)とあまり違いが無く、新鮮味に欠けましたし、登場の意義自体を見出せませんでした。無理やりにジョニー・デップに役を回すために、原作ではほとんど光が当たらないキャラクターであるマッドハンターを利用した程度にしか思えませんでした。
アン・ハサウェイとヘレナ・ボナム=カーター、そしてチェシャ猫、三歩下がってミア・ワシコウスカ、彼らを後から追いかけるジョニー・デップというのが印象に残る順番でしょうか。アンのほうが誰よりも浮世離れしていて、目が笑っていない彼女の微笑みに隠されていそうな苛烈な腹黒さに気づいてしまいました。彼女って、結構怖い女なのでしょうか。ちなみに日本語版では彼女の声は深田恭子がアフレコをしています。『下妻物語』を思い出しましたが、なんかピッタリな感じです。
他の出演者としてはハリー・ポッター・シリーズでスネイプ先生役のアラン・リックマンが青い芋虫の声優を務めていました。音楽ではアヴリル・ラヴィーンがエンディングで、タイトルずばりの『アリス』で参加しています。彼女って、日本嫌いだと聞いていますが、どうなんでしょうね。ついでにアリス・クーパーなんかも起用して、歌わせたりすればマニアックな笑いは取れたかもしれませんが、ディズニーには合わなそうです。でもティム・バートンの世界にはマッチしそうです。
総合評価 65点