良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『大統領の陰謀』(1976)スリリングな一本。結末は誰でも知っているが、語り方でこれほど変わる!

 ゴールデン・ウィークのこの3日間で、ウォーター・ゲート事件及びニクソン大統領絡みの映画を三本立て続けに見ました。一本は数年前に公開された『フロスト×ニクソン』、もう一本はオリバー・ストーン監督の『ニクソン』、そして最後が『大統領の陰謀』でした。  『大統領の陰謀』は製作年が1976年と、だいぶんと昔の映画ではありますが、今でも十分にスリリングかつ重厚な作品であり、140分以上の上映時間があっという間に過ぎていく。オリバー・ストーンの映画は大統領側の視点で映画を進めましたが、『大統領の陰謀』は新聞記者の視点で物語を進めていく。  こういう時事問題を扱った映画は公開当時はセンセーショナルに取り上げられるものの、当事国だけ盛り上がっていたり、せいぜい数年くらいの寿命しかないものが多い中、この映画は例外的に高いクオリティを保ち続けている作品であり、今見ても、輝きを放ち、少しも色褪せてはいない。
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 その要因となっているのは小刻みに場面を転換していくテンポの良い編集、多くの登場人物たちの人間関係を巧みにさばいた脚本、ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンの素晴らしい演技とアイデア、そして『ゴッド・ファーザー』も手掛けた、ゴードン・ウィリスの撮影の賜物であろう。  良い映画には良い脚本と良い演技と良い演出が必要ですが、この映画にはそれらがすべて備わっています。ドキュメンタリー的な映画でもありますので、普通の劇映画とは違い、主人公二人はなかなか巨悪に辿り着けません。  真相に近付こうとして、秘密を知る者に辿り着いても、すぐにその微かな糸は切れてしまう。それを延々と繰り返し、ようやく世間の目の届くところに出してきても、今度は立件できるかどうかという問題も発生し、司法の厚い壁が立ちふさがる。
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 ひたすらに証拠を探り、否定されても、また新たな証拠を見つけ出す。根気のいる作業であり、執念の取材で巨悪、つまり現職の大統領を何年もかけて、じわじわと追い込んでいく。  シーンで興味深いのは再選委員会名簿を虱潰しに当たって、真相を究明していく下りでした。最初の何人かはホフマンとレッドフォードが二人で取材に赴くというシーンが描かれるのですが、そこから先は真っ暗なハイウェイが映し出され、車が目的地に向かっている映像に、アルファベット順に名前を言い続けていく二人の声がナレーションとしてボイス・オーバーしていく。  わざわざニューヨークから取材に来ているのに、ほとんどが門前払いで追い返す、非協力的な共和党員の待つ全米の取材現場に通い続けている彼らの執念が上手く伝わってきます。これ以外にも取材に当たっての様々な困難が描かれています。
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 骨太の作品であり、権力の妄執の凄まじさが伝わってきます。何が凄いといって、劇中にニクソン大統領自身が妨害を指示するシーンはまったく出てきませんし、事件に大いに関係してくる主要な登場人物としてあれこれとシーンを作って、ニクソンのキャラクターを描いた方が簡単に観客に伝わるにもかかわらず、あくまでもニクソンを追い詰める記者たちサイドの視点からのみ物語を進めてくる。  しかもこの方がより権力の暴走と恐ろしさが見えてくる。日本でこういう映画は作れるのだろうか。あれだけ世間を騒がせた、ロッキード事件リクルート事件もまだきっちりと映画化されていない。これでいいのか?  ちなみに原題は『All the Presdent's Men』であり、直訳すれば全ての大統領の部下とでもなるのでしょうが、これはマザー・グースハンプティ・ダンプティの歌に出てくる“All the king's men”から取っているのでしょうから、「覆水盆に返らず。」とか「後の祭り」というニュアンスも含まれるのではないかと思います。
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 難点としてはこの事件の背景はもちろん、そもそもニクソンがどんな大統領であったかとか、その頃の外交問題とか、アメリカ自体が共和党政治に嫌気がさしていた1976年の大統領選の年に公開されたのも興味深いのだが、そういった背景をまったく知らないと見ていても、よく分からない可能性が高い。  政治不信が高まっていたときの作品であったからこそ、あそこまで踏み込んだ内容の映画として製作できたのではないかなどを吟味する必要があるのではないだろうか。上手く行っている時の共和党政権下では内省的というか、反省する類の映画はまず製作されないので、その辺も考えながら見ると楽しいのかもしれない。 総合評価 78点
大統領の陰謀 [DVD]
ワーナー・ホーム・ビデオ
2000-04-21

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地味ですが…派手さは ...
予備知識と英語力が必 ...
140分があっという ...
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