良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『未来少年コナン』(1979)超自然児コナンの冒険譚!魅力的なキャラクターが躍動!

 現在の視聴者のようにアニメ作品の裏方である製作者たちや声優たちの名前を意識することなく、ぼくには子供の頃に純粋にひとつのテレビ・アニメとして毎週楽しく見ていた番組が三つありました。  タイトルは『ルパン三世』『アルプスの少女ハイジ』、そして『未来少年コナン』でした。奇しくもすべて宮崎駿が関わっていた作品群なのです。  心理学には刷り込みという言葉がありますが、まさにぼくらの世代の子どもたちは宮崎駿の作画や個性を潜在的に素晴らしいもの、楽しいものだと認識している人が多いのではないかと思っています。
画像
 そういった過去の記憶もあるので、今でも彼の新作映画を観るときにはパブロフの犬のように素早く反応し、まずは彼の新作を受け入れようとしてきました。彼の作品群を批判しようと躍起になっている人もいるようですが、彼らは素直に一本の作品を楽しめないのだろうか。  いくら宮崎の能力が優れていたとしても、常に傑作をモノにすることなどあり得ない。また60点~70点をコンスタントに取り続けているクリエーターは数少ないにもかかわらず、なぜ彼だけに過剰なハードルを設けるのだろうか。  今も健在で、たまに作品を世に送り出してくれるだけでも十分だと思います。余計なプレッシャーをかけ続けて、80点以上を目指すような大作を、五年に一本とかのペースで発表するような監督になってしまうよりも、隔年で65点くらいの作品を出し続けてくれたほうが嬉しい。
画像
 まあ、今ではこういう気持ちになっていますが、宮崎作品への信頼の原体験とも言えるのがさきほども触れたように『アルプスの少女ハイジ』『ルパン三世』『未来少年コナン』でした。  今回はテレビ・シリーズが素晴らしかった『未来少年コナン』への想いを書いていきます。そもそもコナンを最初にブラウン管テレビで見たのは小学校三年生位でした。  それはNHKの初回放送で、当時はまだβビデオ(まだVHSは普及していなかった。予約録画は出来ずに、番組の時間に合わせて録画ボタンを押す感じです。なので、数年経った頃にタイマー録画が出来るようになっただけで大騒ぎでした!)は馬鹿みたいに高価で、お金持ちのクラスメートの家にしかありませんでした。  今の子供たちのように気軽にDVDを何度も繰り返して見るなどということもかなわず、毎回ぼくらはテレビ放送に集中して、しっかりと見ていました。
画像
 基本的には自然児コナンとインダストリアから逃げてきたラナを軸にした友情と幼いが一途な恋愛が語られていきます。その関係性に加えて、最初は衝突しつつも、コナンの純粋な人間性に惹かれて、時に危険な旅の道連れになっていくジムシー(サッカー・元コロムビア代表のカルロス・バルデラマそっくり!彼が出ている試合があると、いつもジムシーを思い出しました。)、ダイス船長、モンスリーらの気の置けないメンバーたちが登場してくる。  コナンに出てくる主な対立は自然(残され島やハイ・ハーバー)対科学(インダストリア)、年寄り(年老いた科学者たち)対青壮年(レプカモンスリーなど大戦争時に子どもだった世代)、官僚(レプカモンスリー)対反乱分子(ダイス、コナンとラナ、ラオ博士)、体力(コナンやダイス)対知力(モンスリーレプカ)、明るさ(残され島やハイ・ハーバー)対暗さ(インダストリア)などを思い浮かべる。  対比で楽しめる作品だった印象が強い。つまり毎週飽きさせない展開で次回予告につなげていましたし、30分というテレビ・アニメの制約の中でも前半と後半で違う場面を持ってきたりしていました。弛緩と緊張の妙が素晴らしく思います。
画像
 絶対的な科学万能の世界がその科学力によってほとんどが滅び去り、唯一残っているのがインダストリアという科学と官僚制度をなんとかキープしようともがいている都市でした。それに対をなすのが開拓により豊かな町を築いたハイ・ハーバーであり、コナンが生まれ育った海に四方を囲まれた残され島となる。  ストーリー展開がテンポ良く、暗い場面と明るい場面だったり、海の底と大空だったりのシーン切り替えが素晴らしい。見る者を飽きさせない優れた才能を思う存分に発揮していたのがこの作品だったように思います。  毎週ワクワクしながら放送日を待っていた番組はそうは多くはありません。まだこの『未来少年コナン』を見ていない人には映画版ではなく、テレビ・シリーズの全26話を見てもらいたい。  宮崎駿の才能やメッセージ性の原点がここにあります。自然破壊への怒り、文明への戒め、植物への信頼、空と海への憧れなど彼の作品群に繰り返し現れるモチーフのほとんどが出てきます。  宮崎アニメ独特のアニメでしか表現できない楽しいシーンも毎回描かれているのもファンを楽しませる要因のひとつです。異常な高さの高層ビルからラナと一緒に飛び降りて、空中で彼女を抱きかかえながら着地し、ビリビリと震えるだけですんだり、飛行艇の上を歩き回ったり、足の二本の指で全体重を支えたり、超人的な身体能力を示す少年がコナンなのです。
画像
 映画というジャンル全体に言えることですが、この表現形式では高さなどの縦構図を表現するのが難しく、そこがクリエーターのセンスの見せ所でもあります。そういった意味で、大空や高いところをストーリーの舞台に多用する宮崎はそれだけ自分の見せ方を確立していると言えるのかもしれません。  撮り方でユニークなのは水面下からのショットも挙げることが出来ます。海や川の中から、海上に浮かぶ船や人物たちを眺めるような視点のショットが個性的です。アニメにしか作れないカットがたくさんあるのですが、それを現実的ではないとだけ思ってしまうと見方が狭くなってしまうので、表現方法のテクニックを色々と堪能したい。  ギャグ漫画的な動きは『ルパン三世』同様にここでも健在で、シリアスになりがちな作品テーマに息抜きを与えてくれます。空の要塞ギガントに仲間と共に乗り移り、要塞の中から破壊して撃墜するまでの一連のストーリーは痛快であり、しかもそれをカラッとした笑いを添えて、機械文明の終焉を描き出す。  全26話のうち、後半の『ふたたびインダストリアへ』から『インダストリアの最期』と最終話『大団円』までの怒涛の展開はサスペンスフルであり、良質なアクション映画を見ているようで、時間が経つのを忘れてしまいます。  劇場版で残念なのはダイジェスト的に駆け足で進んでしまうため、仕方ないことではありますが、かなり編集が粗く、アニメ・シリーズが本来持っているクオリティの半分くらいは失われていることでした。
画像
 しかもこの編集が最悪に近く、原作への愛情に欠けている。おそらくきちんと見ていない者がぶつ切りにしたのが明らかで、寒々しい印象を受けるのがこの劇場版でした。テレビ・シリーズを見た者がこの作品に接すると悲しくなります。  ビデオとかDVDとかフォーマットが変わり、何度も見れるようになってから、たまたまこの劇場版を見る機会がありましたが、このたった2時間が苦痛に感じてしまうのです。全26話があっという間に見られるのに、この劇場版の2時間はとても長く感じてしまう。  何よりも酷いのは映画版ではインダストリアの太陽塔が復活したところで“めでたしめでたし”となってしまいますが、本来アニメ・シリーズにおいて、このシーンは滅びゆく機械文明の最後のあがきを描いたものなので、製作者の意図したメッセージがまったく反対の意味に変わってしまうのです。ずっとコナンを見てきた熱心なファンにとっては改悪でしかない。ギガントが飛ばないのもどうなのだろう?  このときのなんだかやるせない気分は『スター・ウォーズ』のエピソード6の特別編で再び味わうことになりました。あの感覚を味わいたくない人はぜひアニメ・シリーズをレンタルで十分なので、大人借りして見て下さい。 総合評価 90点(テレビ・シリーズに) 総合評価 55点(劇場版に)
【送料無料】 世界名作劇場DVDコレクション 宮崎 駿 「未来少年コナン」 DVD全7巻セット
脳トレ生活
アレグサンダー・ケイの小説『残された人々』をベースに1978年にNHKで放送された、宮崎駿が初の演出

楽天市場 by 【送料無料】 世界名作劇場DVDコレクション 宮崎 駿 「未来少年コナン」 DVD全7巻セット の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル