良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』(2010)話題にはなりませんでしたが、良質なコメディでした!

 『裁判長!ここは懲役4年でどうすか?』とはなんとも人を食ったタイトルです。公開されたのは2010年ですので、去年の作品ということになりますが、まったく話題になりませんでした。  しかし、このコメディは思っていた以上にクオリティが高いというか拾い物をしたような感覚になる良作でした。裁判関連の映画といえば題材としてタイムリーなのはおそらく裁判員制裁判を扱うのであろうと予想していたので、裁判傍聴マニアの映画だったので、少々面食らいました。  裁判傍聴を趣味にしているという人が増えているのは数年前から知っていましたが、まさかそれを映画のネタにするとは思いませんでした。カメオ的な役柄で大川興業阿蘇山大噴火が出演していたのは彼がこの秘かな趣味の第一人者だからなのでしょう。  人間のリアルな悲喜こもごもがぶつかるのが司法の場なので、つまらないテレビドラマを見ているよりも、よほど面白いという意見が多いのが裁判傍聴マニアの言い分です。ただし、これはかなり悪質な覗き見趣味でもあるので、当事者から見れば、許せない輩にしか見えないでしょう。
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 裁判ではかなりの虚飾を剥ぎ取った、感情を露わにしたリアルな人間ドラマが、しかも極私的なそれが裁判長、検事、被告、原告、裁判員、そして傍聴席の人々の目の前で展開される。  人間には他人には隠しておきたい性癖や恥ずかしい部分が必ずあるものです。それを当事者以外の赤の他人が見ている前で曝されてしまうのが裁判です。  この作品ではさまざまな人々の犯罪エピソードと動機が語られていきます。当事者にとっては深刻な問題なのに、端からそれを見るとかなり間抜けで面白く見える。  喜劇は悲劇のなかにあるのでしょう。深刻な顔を突き合わせて、馬鹿な事件の顛末を語り合う。無力な傍観者にしかなりえないはずだった傍聴者が検事である片瀬那奈から浴びせられた一言によって目覚めていく。  裁判に真剣に向き合い、裁判に影響を与えようとあれこれ算段するさまは本来はしてはいけない行為であるはずなのだが、クスクスと小市民らしいいじましさを見ているようで感情移入できる。
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 弁護人と被告の家族、マスコミや傍観者がスクラムを組み、冤罪の可能性が高い被告を救おうとして、大きなうねりを作り上げていくものの、土壇場で被告がまさかの告白を始めてしまい、みなのモチベーションと善意が一気に萎 みこんでしまう。 みながヘコむそのさまには乾いた笑いとなんともいえない哀愁がある。  豊島圭介監督作品で、主役は設楽統、ヒロインである女性検事に片瀬那奈、脇には平田満河崎実モト冬樹らを起用し、設楽の相方である日村勇紀も出ているが、必要性は感じませんでした。  今回の映画は傍聴人にスポットを当てた作品でした。『それでもぼくはやってない』のようなシリアスな作品ではなく、クスクス笑えるコメディですので、肩ひじはらずに気楽な気持ちで見ればいい。  もうすぐしたら、裁判員制度をテーマにした作品が色々と出てくるのでしょう。その中ではシリアスな犯罪と向き合う深刻な作品が脚光を浴びるのでしょう。アカデミー賞を取るのは『十二人の怒れる男』のような重厚な作品なのでしょうが、ぼくは『十二人の優しい日本人』のようなペーソス溢れる作品が見たい。  悲劇の中に喜劇は存在するのです。まあ、この作品を語るには大げさですが。 総合評価 65点