『ターミネーター2』(1991)なんといっても“HASTA LA VISTA,BABY!”でしょう!
この映画を公開初日に劇場で観たあとに、友人とまず最初に話題になったのが、印象的だったシュワルツェネッガーの台詞の“HASTA LA VISTA,BABY!”でした。
とりあえず英語でないのはすぐに分かりましたが、何語でどんな意味なのかがなかなか掴めずに、最終的に分かったのは紀伊国屋書店の英文書籍コーナーで見つけたペーパーバックの小説でした。ちなみに意味は「また会おうぜ!ベイビー!」的な感じです。日本語で言えば「おととい来やがれ!」のような雰囲気でしょうか。
当時はインターネットなどはまったく普及していませんでしたので、外国語が得意な友人に聞くか、留学生の人たちにどういう意味か聞くかしかありませんでした。そうはいっても外国人留学生たちに聞くのも難しい。こっちもうろ覚えの台詞を音感のみで発音してみて、「こんな感じの言葉って、知ってる?」とやってみなければいけないのです。
映画だけでなく、洋楽の曲名もそうで、FENやBBCで聴いたナンバーやアーティスト名を聞いた感じだけで相手に伝えて、それらの正解に到達するのは大変でした。
外人DJが発音するRICK SPRINGFIELDが「りっくすふりんふぃお」に聞こえてしまうぼくには結構発音というのは難しかった覚えがあります。先日、亡くなったセーラ・ロウエルさんがダイアトーンのベスト10でコールするリックもろくすっぽ聞き取れませんでした。
曲名で分かりにくかったものには他にREMの邦題『テクサーケナ』があり、ラジオで聴いた感じは「テクサキャナー」でした。のちに分かった正式タイトルは英語題で『Texarkana』でした。これを聞いたとおりに発音してみても、当時の留学生の知り合いだったフランス系カナダ人の女の子には伝わらなかったので、カセットに録音したのを聴かせてみましたが、彼女も正確な答えが分からない状態でした。
実際、よく聞いてみるとぼくらがサザンの桑田が何を歌っているのか訳が分からないように、彼女たちもローリング・ストーンズなどのナンバーには何を言っているのか分からないものもあるそうです。
この映画のサントラにはガンズ&ローゼズが起用され、主題歌も『YOU COULD BE MINE』が採用されました。彼らの代表曲というと『WELCOME TO THE JUNGLE』がもっとも有名なんでしょうが、ぼくにとってはこのナンバーが最高で、レコードからの切り替わり時期だった80年代後半でまだ目新しかったCDをすぐに購入し、何十回もかけ続けて、歌詞を覚えるまで聴いていました。
彼らの歌詞もかなり聞き取りにくく、往生しました。それでもノリが良いこのナンバーは一番のお気に入りになっていました。ニルヴァーナなどが出てくるまでは彼らやスティングをよく聴いていました。
はじめから大きく脱線しましたが、今回は『ターミネーター2』です。第一作目の『ターミネーター』が公開された1985年当時には主演を務めたアーノルド・シュワルツェネッガーは『コナン・ザ・グレート』『スター・オブ・ザ・デストロイヤー』などですでに有名になっていました。
同じく製作側であるジェームズ・キャメロン監督にとっては出世作になった『ターミネーター』が前述のように1985年で、その年は大好きな阪神タイガースが優勝した素晴らしい一年でした。
当時のぼくは高校生で、この映画は部活の女友達と一緒に観に行きました。月日が経って、それから6年後の1991年、大学生になっていたぼくはゼミ仲間の悪友とともに公開初日に続編となる『ターミネーター2』を観るために映画館に向かいました。
さすがに話題作でしたので、館内はパンパンに人が入っていたのを覚えています。内容は分かり易いタイム・スリップ物の派手なSFでしたので、観客も概ね満足して帰って行った印象があります。
シュワルツェネッガーが親指を突き出すカッコイイポーズで溶鉱炉に消えていき、人工知能が高熱で破壊されて停止するという悲しくもシビレるラスト・シーンは秀逸で、ぼくらもずっと映画の話をしていました。
帰りにテーマ曲だったガンズ&ローゼズの『ユー・クッド・ビー・マイン』を買ったくらいなので楽しんだのは間違いない。このシングルのカップリング曲『シヴィル・ウォー』はビリー・ワイルダー監督の傑作戦争映画である『第一七捕虜収容所』で効果的に使われていた『ジョニーの凱旋』を取り入れていました。
とてもカッコよく印象的に仕上がっていましたが、それを知らなかったバンドを組んでいた友人にそのことを教えると「オリジナルやと思とった…」と少々ガッカリしていたのを覚えています。
内容的に見ていくと、進化しつつあるCG技術がとても新鮮に感じました。特に印象的だったのが白と黒のタイル地の床から新型ターミネーターが隆起していって、人型に成型されていくシーンでした。
形状を自由自在に変形できる液体金属によって構成されているT1000型ターミネーターを演じたロバート・パトリックの出世作でもあります。前作の大ヒットを受けて製作されたので、当然ながら制作費も巨大になり、その賜物として、格段に進歩したCG技術による表現手段を手に入れたことは映画のランクを映像面では数段上に押し上げてくれました。
映像のインパクトは衝撃的で、本編シーンの肝であるストーリーが少々犠牲になったきらいはありますが、それを凌駕する映像表現の豊かさが観る者に与えた効果は絶大で、『ジュラシック・パーク』とともにCGによる特撮の素晴らしさを伝えてくれた傑作でした。
後年にロバート・パトリックが人気ドラマ・シリーズ『X-ファイル』の主役だったデヴィッド・ドゥカブニーの後釜として抜擢されたときにはエイリアンやUMAと対決しているとついつい「オイ!あんたはもっと強いだろ!」とツッコミを入れたくなったものです。
まあ、それはさておき、この映画はスピード感と展開がよく、世界観も解りやすかった。前回は敵方だったはずのアーノルド・シュワルツェネッガー(前回のターミネーターは破壊されたので、それでも同じ顔ということは量産型シュワルツェネッガーが大量に存在しているということなのでしょう。)が人間側の味方に回る(『キングコング対ゴジラ』以降のゴジラみたい!)などしていて、ずっと楽しく観ていました。
弱点としては母親と一人息子の絆の描き方が極端に感じたことと主要人物以外の描写に深みがないことでした。ただ140分弱ある上映時間が90分程度にしか感じませんでしたので、上手くストーリーを運んでいたのではないかと思います。
シュワルツェネッガーとエドワードの友情を育む描写はフランケンシュタインの怪物と少女との悲劇をダブらせましたが、悲劇を繰り返さずにハッピーエンドに持って行くなどは80年代らしいエンターテインメント性を重視した演出なのではないか。
スカッと楽しみたいから劇場に観に行っていた人がほとんどでしょうから、悲劇的なエンディングは必要とされなかったのでしょう。ただしこの映画のエンディングを『猿の惑星』のように悲劇的に持っていっていれば、80年代を代表する一本になっていたのは確実だったでしょう。親指を突き出すエンディングも素晴らしかったのですが、このあとに結局避けられずに滅んでいくシーンを付け加えていれば、さらに深みがあったのではないか。
さまざまなシーンが最初に述べた「あすたらう゛ぃすた べいびー!」とともに今でも記憶に残っています。この映画の後に続編が二本作られましたが、本作で印象的だったジョン・コナーの少年期を演じたエドワード・ファーロングが俳優としてのキャリアを持続できずに表舞台から消えてしまいました。
また絶対的な物語世界の柱だったヒロイン役のリンダ・ハミルトンが離婚問題等で降板してしまったのは本当に残念で、一ファンとしては成人したジョン・コナーをエドワードの演技で、そしてビッグ・マザーのリンダ・ハミルトンが画面の奥に鎮座している続編を観たかったというのが本音になります。
その他ではぶっきらぼうなシュワルツェネッガーの『I’ll be BACK!』も印象深い。現代版フランケンシュタインとして見事に機能した彼の演技は彼の東欧訛りの英語を逆手に取った秀逸で鮮烈なものでした。
大昔の映画ファンがユニバーサルの『フランケンシュタイン』でのボリス・カーロフをスターダムに押し上げたように、80年代のぼくら世代はシュワルツェネッガーをスターにし、彼の内面の暖かみを嗅ぎ取り、“シュワちゃん”というニックネームをつけ、同じような肉体派スターだったシルヴェスター・スタローンとは違ったイメージを彼に持ちました。
総合評価 90点