良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『絞殺魔』(1968)ずっと気になっていたタイトルを近所のツタヤで発見!内容には少々ガッカリ。

 『絞殺魔』はずっと気になっていたタイトルでしたが、なかなか見る機会のなかった作品でした。トニー・カーチスがサイコ殺人鬼を演じた、モノクロが強烈な印象を与えるジャケット写真を見てから、ずいぶんと年月が経ちました。  いつまで待ってもスカパー!の放送はなく、なかば諦めかけていましたが、昨日、近所のTSUTAYAに行ってみると、オススメコーナーに見覚えのあるジャケットが「でーーん!」と何本も鎮座していました。  すでに半分が借りられていましたが、残っている分をすぐに鷲掴みにして、『四匹の蠅』と合わせて、レジに持っていきました。こういうこともたまにあるので、月一回程度はTSUTAYAに立ち寄るようにしています。  最近、というか今年に入ってから、店長さんか発注する人が交代したのかは分かりませんが近所のTSUTAYAに入る旧作ホラーがかなりマニアックになってきています。
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 『ヘンリーある連続殺人鬼の記録』『怪奇!人間スネーク』『悪魔の狂暴パニック』『ラスト・ハウス・オン・ザ・デッドエンド・ストリート』『鮮血の美学』『虐殺の週末』などの海外ホラーの極北と言える作品群や藤田敏八神代辰巳が監督を務めた日活ロマンポルノが普通に店頭に並ぶようになっています。  けっして万人向けとは言えませんし、ポルノやえげつない内容のものばかりですので、借りるにはけっこう勇気が必要になります。旧作のDVD化も一段落し、いよいよマイナーなカルト映画も映画会社の倉庫で埃を被っていたのが陽の目をみるようになってきたことは嬉しく思います。  そういえば『エルトポ』『ホーリー・マウンテン』で有名なアレハンドロ・ホドロフスキー監督のボックス・セットも再度リリースされ、購入したぼくは大いに楽しませてもらいました。彼の作品群のDVDは長い間廃盤になっていたようで、ヤフオクやアマゾンでとんでもない高額で取引されていて、だいたい15000円くらいで出品されていました。  いつも思うのですが、DVD販売業者はヤフオクでチェックして、高額で落札されるようなものを商品化すれば、けっこう投資額を回収できるのではないでしょうか。あるいはビデオ化はされたけれど、DVD化はされていなかったものなども対象となるでしょう。個人的には坂東玉三郎主演で加藤剛も出ていた『夜叉ヶ池』を見たいです。
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 それはさておき、この作品は監督がリチャード・O・フライシャーでトニー・カーティスヘンリー・フォンダが出演しています。ぼくら世代にとっては忘れられない脇役俳優ジョージ・ケネディが出ているのも懐かしく楽しい。  内容は実際に起こった元軍人のアルバート・ヘンリー・デサルヴォによるボストン連続婦女暴行絞殺殺人事件を扱ったもので、前半は犯人に右往左往させられる警察のさまざまな取り組み(人海戦術のみ!)と超能力者まで呼んで捜査に協力させる間抜け振りに終始し、犯人カーチスが出てきて捕まるまでに1時間を費やす。  またさらに間が抜けているのが世間を騒がせた犯人の捕まり方で、忍び込んだ先で野郎と出くわし、逃げまくり、走って、走って、最後には車に轢かれて御用という呆気なさでした。  捕まってからは二重人格者による犯行を全面に押し出し、精神異常者として終身刑に持ち込んでいくまでを描いていくのですが、テンポが悪く、だらだらした感じに陥っていく。
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 前半は分割画面を多用し、関係者たちの視点や同時進行で起こる被害者たちの顛末を映像で描き出すが、バタバタ、ガチャガチャとして猥雑な雰囲気を醸し出していた感じで画面が各々切り換わっていくので、正直見づらい。ただ犯人側と被害者側の視点が同時に提供される珍しい演出でもあるので、その辺は楽しませてくれます。  また後半は打って変わったように、だだっ広くて真っ白な取調室に移っていく。そこでのカーチスの表情は鬼気迫るものがあるが、スピードのなさと変化のなさはいかんともしがたい。  逮捕後に精神異常者として虚無な真っ白な空間に閉じ込められる後半とバタバタした前半が対照的でした。トニー・カーチスが演じた犯人は本物の凶悪な変態で、標的にした女性たちの手足を外科結びで縛った後に強姦し、首を絞めて殺害したあとに性器を露出させるのが常だったそうで、しかもおぞましいことにそこへほうきやワインボトルを挿入したりするような変態的な残虐さを見せていたそうです。  結局彼は精神異常のため、司法取引により死刑を免れ、終身刑になりました。しかしながら先ほども書きましたように刑務所内で殺害され、真相は闇の中となりました。
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 映画としてはなぜ彼がこんな犯罪を犯したのかを二重人格だけで説明しようとしていましたが、それだけでは説得力に欠けます。また被害者の歯型など証拠があるのに(テッド・バンティは被害者に噛みつき、乳首を噛みちぎったりしていて、噛んだ後の歯型から足がついて逮捕されています。)最高刑に出来なかったのは悔やまれるところでしょう。  有人ロケットが天上を越え、遠く離れた月まで到達したアポロ計画成功にアメリカ国民が喜んでいるときに、下界で彼は性交目当ての快楽殺人を重ねていく。なんたる皮肉でしょう。  センセーショナルな報道をされ、十分な注意を呼びかけていたにもかかわらず、被害女性のほぼすべてが無用心にもドアの鍵を開けてしまい、犠牲者になっていく。取調べや生存者の証言で彼の侵入手口が分かる。それは配管工事などの工事関係者を偽り、安心させて難なく侵入してしまうというやり口でした。  またケネディ大統領の国葬のときにも彼は強姦殺人を平気で犯す。捕らえられたときも二重人格を理由に何も覚えていないで押し通し、取調べをかわしていく。彼がどこまで責任を自覚していたか分からないし、精神異常者ならば何をやっても許されるという矛盾にも納得がいきませんので、宙ぶらりんな決着のつけ方も不満があります。  見終わった後の爽快感はまるでなく、なんだかやるせない気分になってしまいます。分割画面というとのちにデ・パルマ監督が多用しますが、ここではその雛形のような演出を見ることになります。 総合評価 52点