良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ウォルマート』(2005)儲かるのは会社だけ。従業員の生活と地元経済は壊滅!

 日本もアメリカも大企業のお偉方の最大の関心事は自分の任期中の株主総会を上手くやり過ごすことです。そのために必要なのは売上・利益・顧客数などが前年度より純増していくことか、メーカーならば新技術の実用化が肝要になります。  この4点セットをクリアすれば、そして会社ぐるみの不正スキャンダルがなければ、彼の椅子は安泰です。昔と違い、強欲な株主たちは大幅な配当を要求するので、すぐに当座の利益を出す必要性に迫られる。  手っ取り早く、利益を出すために利用されるのがリストラであり、給料を含めた人件費の削減であり、福利厚生のカットであり、サービス残業と言われる強制労働です。  不景気な世の中では地域の就労層の基盤である三十代から五十代だけではなく、大学生たちまでが本来働きたかった会社に就職出来ず、希望とは程遠いような入れた会社で働かなければならない。  大学を卒業しても、就職が決まらない学生もいるようです。ニートや国民保険料や年金の滞納の問題は深刻だが、すべて若い人たちのせいとは思わない。  払えない環境を作っているのは自民以来の政策のためでしょう。少子化や高齢化をヒステリックに騒いでいるが、子供を育てにくい環境を放置し、年寄りばかりを優遇する制度を作り出したのは自民党ではないか。続く民主党も代わり映えしない。自分たちの選挙のことしか頭になく、国の大計を図る暇はないらしい。
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 我が国でも労働実態が社会問題化していますが、世界一の小売業者であるウォルマートでも奇妙な出来事が起こっている。会社は大儲けしているのに、社員やパートの従業員は赤貧の暮らしに喘いでいる。  ウォルマートの規模は全世界で年商40兆円を超え、店舗数は7200以上、従業員数は210万人に達する。彼らは南米や中国での徹底的なコストダウン、福利厚生を顧みない従業員搾取と組合運動の殲滅、地元商店街の破壊、事実とかけ離れた虚偽のイメージ戦略により、その存在を強固にしていく。  コストダウンには南米や中国の安い労働力が無慈悲に使われる。真夏に扇風機も当たらないような劣悪な労働環境で満足な給料も住居も与えられずに朝から晩まで低賃金で働かされ、サービス残業や文書改竄を強いられている。  このような現実には思わず目を背けたくなるかもしれない。または他人事だから、気にもとめないという者もいるだろうが、大量生産の格安商品がマーケットを荒らすと自国の産業が打撃を受け、倒産が増えて、結果的には消費者だったはずの者が失業者に変わってしまう。  発展途上国を食い物にする現状は百年近く前の悪名高い富岡製糸工場や女工哀史という言葉を思い出させる。疲れきった中国のウォルマート現地法人工場で働く労働者がカメラのインタビューで観客に問いかけてくる。  「なぜそんなに商品が安いと思いますか?われわれが低賃金で搾取されているからですよ!」と怒りの声を上げるが、アメリカ人に彼らの叫びは届くのだろうか。
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 儲かるのは創業者一族と一部の幹部のみで、他の者は奴隷に過ぎないという見事なまでの中央集権制の王朝なのです。なぜウォルマートだけが生き残り、誰からも悪事をばらされなかったのかというと、この会社は共和党に最大の政治献金をし続けているからです。  創業者一族の資産は40兆円を超えるが、一族の年間寄付金は60万円という少なさで、年間収入の1パーセントにも満たない。ちなみにビル・ゲイツは年間収入の半分以上を寄付金として使っている。  ごうつくばりの守銭奴で従業員と買い物客の生き血をすする化け物というのがこの会社の正体のようです。犯罪発生の多さや環境意識の低さもかなり報道で取り上げられているようで、駐車場のセキュリティが杜撰で、多くの買い物客を犯罪被害者にしている。  強盗・ひったくり・殺人・傷害・強姦被害が多発していて、原因を把握しているにもかかわらず、経費をケチり、何も手を打たない。監視カメラが見ているのは従業員の組合運動の動きのみであり、顧客の安全はまったく考慮されていない。  いつまでも横暴が続くわけはなく、ネット社会の到来により情報が共有化されることで、これまで隠し通してきた膿が一挙に噴き出し、従業員や市民運動による訴訟問題や環境破壊報道、ドキュメンタリー映画の公開や報道でのアンチ・ウォルマート・キャンペーンのため、ウォルマートは新規出店に苦戦し、数十店舗の出店が行政と市民運動により禁止されてしまいました。  地元社会と共存共栄できない小売り業者に繁栄はない。さすがに最低最悪なイメージが強くついてしまったウォルマートはハリケーンカトリーナによる甚大な被害を受けたニューオリンズへ最大の規模の救援物資を無料提供したそうですが、今さらの感は拭えない。
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 こうしてアメリカの実情を描いているこの作品に対して大きな怒りを覚えますが、翻ってわが国の大企業がやってきたことも地元商店街潰しなのです。顧客としての巨大ショッピング・モールはとても魅力的で、一度に買い物が済ませられるので、とても便利で合理的です。  共働きで時間に余裕がないわが国ではスーパーやショッピング・モールはなくてはならないのも確かです。どうやったら皆の生活が上手く行くのだろうか。  フルタイムのパートの平均年収は170万円で、これで家族を養わねばならない。贅沢をしなければなんとかなると思うのは大間違いで、彼らの住むアメリカには国民保険制度はなく、会社ごとにある異常に高い保険制度の料金を支払わされることになる。  生活するのも苦しい彼らには病気になるのも許されないのです。お金がないので、お昼休憩でもランチにありつけず、ボーッと椅子に座り、休憩時間を過ごす。  医療保障が最悪なこの会社では会社の指示で、社員やパートタイマーに国から生活保障を受けるようにレクチャーする。会社が本来担うべき社員の福利厚生を自治体や国家に肩代わりさせようという卑劣で悪質な体質を隠しているのがウォルマートだということが明らかになってくる。  なぜ値段が安いのかは従業員の生き血を吸っているからという答えが出てきます。こんな状態でもこの企業は解雇をちらつかせて、従業員を脅しながら、彼らに笑顔を強要する。
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 サービス残業と低所得、男女差別に人種差別とクズとしか言いようがない。全米で30件以上の従業員からの集団訴訟を起こされているのが実情なのを見ると、いかにマスコミの特集などはプロパガンダのようなもので、経営側の一方的な美辞麗句を並べているだけに過ぎないのかが分かる。  税制面ではかなりの優遇を受けていて、出店するときの電気や水道のインフラはすべて自治体が負担して彼らを迎え入れているのに、出店し周りのお店を破壊しつくした後には市民税を払わなくてもいい地域で再出店して、もとのお店は閉店してしまい、巨大な廃墟のみが放置される。  社外に向けては健全な体質をアピールするが、待遇改善を求める組合潰しは露骨で、従業員同士を仲違いさせるのに躍起になっている。地元経済の崩壊は深刻で、ウォルマートの出店で従来の職場を失った人々が生活のために仕方なくウォルマート最低賃金で勤める。  ウォルマート以外の小売業はすべて倒産してしまっているので、低所得はまたウォルマートで買い物をせざるをえない。ただでさえ少ないお金が再びウォルマートに戻っていくという悪魔の錬金術アメリカの郊外の地域で横行している。  仮に生活をきちんと保障した上ならば、自由競争の世の中では他者から責められる謂れはありません。しかしながら、従業員を食い物にし、自治体にまで負担を強いるようでは存在する意義はない。  安売りを支えるのは中国を始めとするアジア地域の安い労働力である。モラルの欠片もないあの国のがウォルマートの生産を支えている。大量にゴミが出ると、平気な顔をして不法投棄する始末で、この映画を見た後ではウォルマートにたいしては最低最悪の印象しか残らない。 総合評価 70点