良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』(1977)ついに解禁!エロ・グロ・ナンセンスの極致。見るべし!

 牧口雄二という名前を知っている映画ファンはそれほど多くないでしょう。彼は東映に所属していた職人監督のひとりで、低予算かつ下劣な見世物映画、当時としては普通だった、興行のメインではない二本立てや三本立ての添え物作品を任されていました。  我が国の映画界で、奇想天外な演出で有名だったのは石井輝男監督ですが、じつは牧口にも伝説化した問題作品がいくつかある。にもかかわらず、牧口雄二監督の名前はあまりにも知られていない。それはおそらくソフト化されていなかったからかもしれません。  そんな彼が手がけたカルト作品に『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』があります。どちらも数多い東映の悪趣味映画のなかでも、群を抜いたキワモノで、一般公開されたもののなかでも、悪趣味の極限まで到達している作品です。
画像
 牧口が監督した『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』と『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』の二作品のうち、『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』は海外版DVDが出ているので見た人は少なからずいるでしょう(ぼくもその1人)。  今回取り上げた『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』は我が国では1977年に公開された後、一度30分程度の短縮版がVHSで発売されただけで、その後はシナリオが出版されたものの、長年ずっとビデオ化もDVD化もされることがありませんでした。  40年近くも細々と、都会の名画座でたまに掛かる位で伝説と化していました。しかしながら、『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』の海賊版が売られるよりましと判断したのか、売り上げを稼ぐにはゴチャゴチャ言っている余裕がついに無くなってしまったためか、陽の目が当たらないままだった二作品にとうとうソフト化される日が来ました。
画像
 ぼくが住む関西では新世界のボロボロの小屋で十数年前に『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』『エロ将軍と二十一人の愛妾』などを上映していましたが、この『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』を見た記憶はありません。  しかしまあ、付けも付けたもので、作品名が『女地獄帖 引き裂かれた尼僧』というのはなんともオドロオドロしい。いかにもいかがわしそうな見世物小屋を覗き見るような好奇心を掻き立てられる悪趣味な印象を受ける。  去年の10月に何気なくアマゾンの新作案内を検索していると、この映画のタイトルが目に飛び込んで来ました。即予約を済ませましたが、今月の配達当日まで、本当に無事に見られるのかかなり不安でした。
画像
 去年の2月には発売予定日から数日間もたついてヤキモキさせた『日本暗殺秘録』もリリースされていたので大丈夫だろうとは思っていましたが、石井輝男の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』が急遽販売中止になったりしたこともありましたので、アマゾンの小包を開封したときはホッとしました。  この映画、実は18禁のポルノ扱いだったみたいです。たしかに最初から最後まで田島はるかや折口亜矢など女優さんたちのオッパイ(貧乳ばっかり…。)が映り、セックス・シーンもかなり多いのですが、今のファンはこれくらいで興奮するとは到底思えませんし、阿片とレズビアンに溺れる彼女たちの痴態やレイプ・シーンに興奮するようなヤツはかなり異常でしょう。
画像
 これからさき、強烈なスプラッター画像がありますので、お嫌いな方はご遠慮ください。  エロというにはあまりの悪趣味ぶりと馬鹿らしさに大笑いするのが正常なのでしょうが、どぎついスプラッター描写も多く、首斬りシーンの演出はかなり気持ち悪い。
画像
 ただ、いつまでも商品化されなかったのはスプラッター描写だけではなく、食人描写・猫殺しなどの動物虐待があるためのようにも思え、現在の放送コードではCS放送でもキツい。また年端も行かない少女が人肉を食べたり、殺人を何度も犯すショッキングなシーンが連続するからであろうか。  スプラッター描写も当時としてはかなりえげつなく、斬られた後も胴体が痙攣して、血を噴き流している。その様子に驚いた田島はるかが気を落ち着かせようと水桶から杓で水を飲み込んだら、真っ赤な血が入っていて、中を覗き込んだら、生首が放り込まれている映像は今の目で見てもかなりグロテスクです。
画像
 演者で印象に残るのは寺男志賀勝と寺に身を寄せる少女役の佐藤美鈴でした。志賀は白塗りの狂人の風体で犠牲者となった男たちの死体を切り刻み、生肉を喰らいながら調理をする寺男の役でかなり気持ち悪い。奇麗な顔立ちの少女の佐藤美鈴は終始無言で通し、一言もしゃべらない。目で演技する少女の存在感は圧倒的なので、もっと評価されて良い。  クライマックスで初潮を迎え、太股から血が滴り落ちるシーンはかなり悪趣味な演出で、喜びそうなのはロリコンの変態だけでしょう。彼女は最後に恩人である折口に鎌を突き立てて彼女を殺害した田島に後ろから大きな植木バサミで襲い掛かり、何度も突き刺し、殺害する。エロ・グロ・ナンセンスが70分弱の上映時間にてんこ盛りで詰め込まれているのは驚きです。  『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』に影響を与えたのは『スナッフ』と言われていますが、この映画が影響を受けたのはトビー・フーバーの『悪魔のいけにえ』のように思えます。
画像
 ただ先ほども書きました通り、この映画にはエロ・グロだけではなく、ナンセンスの部分がかなり多く、悪趣味なのだけど、思わず笑ってしまう場面が多数用意されているので、見終わった人はいま自分が見てきたのはいったいなんだったのだろうかと悩んでしまうかもしれない。  そんなアホなと思わず声に出してしまうシーンがたくさんあります。まずは冒頭、タイトルバックとともになぜか火山が噴火する。なんでだろう?その後の展開に火山はまったく出てこない。
画像
 尼僧たちが仲間割れし、折口亜矢らが新入りの田島はるかに折檻する背景はなぜかミラーボールやカラフルな照明が行き交う。時代劇を見ていたはずなのにと頭をよぎった観客を無理やり異常な世界に引き込んでいく。たぶん阿片でアタマがおかしくなっているからこれで良いのだという風に納得させるか、もう何も考えないかの二択です。  お寺に火が回り、業火に焼き尽くされようとした刹那、御本尊のミイラが不意に立ち上がる。なんでだろう?尼僧のひとりに母乳を飲まされた佐藤蛾次郎はなぜかそのまま絶命する。なんでだろう?  なぜの嵐です。  最大のなぜは引き裂かれた尼僧というタイトルなのに誰も引き裂かれないことかもしれない。ポスターを見ると大鎌で引き裂かれることをにおわせる感じなのですが、こんな大鎌は出てこない。
画像
 何度も見たいとは思いませんが、やり尽くすところまでやり切った感があるので、製作スタッフは楽しんで撮影したのだろうね。  ちなみに海外にも好きモノ映画ファンは数多くいるようで、この映画についても「みたい!」「DVDをリリースしてほしい!」とワイワイ言いながら、日本版のシナリオを読んだり、短縮版をバカ高い値段で取引しているようですので、彼らにとっても嬉しいリリースとなるでしょう。 総合評価 72点