良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『オー!ゴッド』(1977)現代の神様の御姿はカジュアルなお爺ちゃん?キリストも悪党も神の子!

 この『オー!ゴッド』もまた最初に見たのは東京12チャンネルで、ユニクロから出てきたようにカジュアルな服装(野球帽を被っている!)の神様がなんとも素晴らしい。  御爺ちゃんの神様、ジョージ・バーンズの声をアテていたのは磯野波平(永井一郎)でした。聞き覚えのある磯野氏の声だったためか、イマイチ作品にのめり込めずに苦労しました。  それから30年あまりが過ぎた一昨日、行きつけのTSUTAYAの旧作推薦コーナーで目にしたのはなんと野球帽を被った神様がジャケットのこの作品のDVDではないですか!
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 見事に誰にも借りられていない状況に涙を禁じ得ないぼくでしたが、この作品の素晴らしさと懐かしさから即借りし、ついでに『戦争プロフェッショナル』を手に取り、TSUTAYAを後にしました。  内容はしがないスーパーのマネージャー(ジョン・デンヴァー!)に突然、神様(ジョージ・バーンズ)が語りかけてきて、彼を神のメッセンジャー・ボーイとして使うことを勝手に決めて、訝るデンヴァーをジョークを交えながら説得する。  大昔にテレビで見たときにはまったく気づきませんでしたが、ジョン・デンヴァーがこの映画でメッセンジャーを演じていたのは驚きでした。名曲『カントリー・ロード』で有名な彼でしたが、小学生のぼくが彼の顔と歌が一致するはずもなく、ただの気の良い地味な俳優だと思っていました。
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 今回、あらためてこの映画を見たときにはじめて彼をジョン・デンヴァーだと認識した上で見ると、彼の演技からは親しみやすい人柄が滲み出ていることに嬉しくなります。  惜しくも飛行機事故で亡くなった彼ですが、この映画から伝わってくる温かい人間性ならば、きっと天国でジョージに『カントリー・ロード』を弾き語りしているのかもしれません。また彼の奥さんを演じているのも『未知との遭遇』の狂った亭主の奥さん役じゃないだろうか。  行く先々で笑える騒動を起こすが、最後はテレビ伝道師(いかにもアメリカンな感じです!)との裁判になり、劣勢になるも、神様が裁判所の法廷に降臨し、奇跡を大衆に見せる。
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 神様と平民(デンヴァー)の会話がとぼけていて、なかでも当時大ヒットした『エクソシスト』を交えたジョーク「悪魔が少女(リーガンのことでしょう。)に憑依する映画が受け、人々は恐怖の声を上げた。悪魔は信じるが、神はダメかね?」などはクスクス笑えます。  ただ、この映画で神様が御見せになる奇跡というのはあまりにも安っぽいトリック撮影(わざとでしょう。)でしかないので、思わず吹き出してしまいます。  声だけが法廷に響き渡る(映らないところでしゃべっているだけ。)、勝手にドアが開く(カメラから見えないところでドアを引っ張るだけ。)、トランプが出てきたり、消えたり(カメラを止めて、トランプをどける。カメラを再び回して、消えたようにする。メリエス並み!)する。
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 神の奇跡を信じる素直な人々ではあるが、さすがに見えるものしか信じない国民性のために、裁判は双方和解となる。負けはしないものの結果的には失業してしまうという少々ビター・テイストなコメディに仕上がっています。  人間の質問に対し、時に温かく、時に聖書の物語を解りやすく現代人に語り、時に皮肉たっぷりに答えるバーンズの神様が秀逸です。なんでもかんでも神様に頼るのは間違いであり、神様はただ見ているだけなので、人間は自分たちの意志で最善を尽くすのが信仰のあるべき道筋であるという言葉は示唆に富んでいる。  日本でも現世利益ばかりを求め、普段からお祈りもしないくせに、初詣やら墓参りやら、そして御祓いやらをイベント感覚でやる者が多いので、このへんは万国共通でしょうし、お布施をすれば天国に近づけるかのようなことを厚かましく素直な信者へ要求するペテン師たちへの皮肉もたっぷりと語っています。
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 キラキラしたスターは誰も出てきませんし、基本的には普通のサラリーマンの日常生活や家庭の破綻をシニカルなコメディとして淡々と描くのみで、映像や撮影手法に目を見張るということも皆無です。  派手さは全くありませんが、出てくるのはスターではない一般庶民なので、抵抗なくキャラクターとストーリーを受け入れられるのではないでしょうか。  神様をヒーローのように偶像化し、金銭目的に利用しようとする輩に対しては批判をするが、器が大きい神様はそのような者でも自分の息子なのだと語る。神様にとってはイエス・キリストマホメッドブッダも、そして大悪党でも皆ひっくるめて神の子だという下りはどの宗教を信じていても受け入れられるのではないでしょうか。
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 カジュアルなお爺ちゃん(あるときは野球帽、あるときはホテルのボーイさん、そしてまたあるときはタクシー・ドライバー。)という神様の姿形の設定自体が痛烈な現代宗教家や偶像崇拝への批判なのでしょうし、本来は神様は身近にあるべき存在なのだというメッセージとも受け取れます。  ただ笑うか、そこに信心の本質を探るかは映画を見た人次第でしょう。あまりにも刺激の強い映画を見た後で、これを見るとホッとした気持ちになります。
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 この映画はずっとDVD化されずにいましたが、ここ数年のツタヤの発掘良品シリーズの一環としてラインナップされています。しかしながら、残念なことに一般販売はされていないようで、Amazonの通販サイトでも依然として中古VHSのリンクしか扱われていない。  現在、ツタヤ店頭にあるレンタルDVDの借り上げ件数が多いようであれば、もしかすると権利元も発売を検討するかもしれません。ただあまり多くないようでしたらというか、地味な作品なので再びお蔵入りする可能性が強く、在庫があるうちに早めに借りて、自宅で楽しむ方が良いでしょう。 総合評価 70点
オー!ゴッド [VHS]
ワーナー・ホーム・ビデオ
1989-09-06

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