良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ザ・ビートルズ1976 ダコタ・ハウスにて』(2000)現在は視聴困難でヤフオクで21000円?

 最初にこれを見たのはたしか10年位前のWOWOWでの放送だったと記憶しています。そのときはたまたま放送していたのを見ただけでしたので録画しているはずもなく、普通にそのプログラムを見ていました。  フィル・スペクターやメイ・パンに振り回されていた『ウォールズ・アンド・ブリジス』や『ロックンロール』前後、すっかり嫌気が差していたショー・ビジネスを離れて、家族とニューヨークで隠居生活に入っていたジョン・レノンを1976年のアメリカ横断ツアー“ウィングス・オーヴァー・アメリカ”中のポール・マッカートニーマジソン・スクエア・ガーデンでのライヴのチケットを手土産にダコタ・ハウスを訪問した。
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 まことしやかに語られたこの都市伝説(事実?)にさらに想像を膨らませて、彼らなら交わしていたであろう会話シーンを脚色して映画化するというかなり無茶な企画となったのがこの作品です。  主演はジョン・レノン役がジャレド・ハリス、ポール・マッカートニー役がアイデン・クインという俳優さんで、二人ともかなり言い回しや仕草を研究しているのでかなりレベルが高い。アイデンの衣装はベスト盤『ジョン・レノン・コレクション』のジャケットなどに使用された服装なので、ファンならば唸ってしまうかもしれない。
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 当然フィクションではありますが、監督を務めたのが最後のビートルズ映画『レット・イット・ビー』を撮ったマイケル・リンゼイ=ホッグでしたので、何も事情を知らない訳ではなく、あながち突飛な人選ではない。  台詞の端々にはビートルズ・ファンならば多くの人が知っているようなグループが揉めて解散に至る原因とされ るエピソード群やそれらへの回答や苛立ちを次々に当事者(もちろん二人のそっくりさんの俳優。)が語るので、思わずクスクス笑ってしまいますので飽きることはありません。
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 昔のインタビューで聞いた、ジョンやポールの独特な言い回しや表情を真似ているのがかなり楽しい。ジョンの“BACK”などに代表される破裂音の発音やポールの「なんちゃらかんちゃら(もちろん英語ですが。),You Know?」という言い回しはインタビューでよく聞くのでなんだか懐かしい。  また彼らが解散後にうんざりするほど質問されたであろう再結成にまつわるやり取りやジョンに向かって「あなたが歌った『イエスタデイ』が最高です!」と親しげに言い放つ人々との悶着や女性が最初はジョンに気づき近寄ってくるものの、横にポールがいるのに気がつき、「ポール!あなたの大ファンです!」と言われ、「どうせ、女はみんな君のファンなのさ!」と言い放つシーンが描かれているのも見ていて笑えます。
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 音楽業界を長い間離れていたジョンがギターを演奏しようとして運指が上手く行かずに「ポールの言うとおりだ。」と自問するシーンは素晴らしい。  ちょうどポールの『心のラブソング』が全米シングル・チャート1位を取ったタイミングでしたので、これをラジオで聴いたジョンが苦々しげにスイッチを切る様子やポールと出かけた際にファンに「こんなのが一位に相応しい曲だと思うか?」などと聞く様子も描かれています。
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 二人でジョンの自宅に戻ってから、屋上でたたずみながら、「最後に一緒に演奏したのは『ゲット・バック』だったなあ。」などとしみじみと語るくだりはファンならば号泣できるかもしれません。  ヨーコの留守中(笑)に数年振りに二人きりで会い、はじめはギクシャクしていた二人がお互いの活動や心境を議論し合い、マリファナを分け合い、ふざけ合いながら人間関係を取り戻していく様子やそれでも家族や取り巻きのしがらみで結局はまた別れ別れになってしまうラストは見ていて切ない。
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 彼らはもう好き勝手に行動できる若者ではなく、家庭を大切にしなければいけない立場に置かれていることが強調される。とてもよく出来ていて、ロバート・ゼメキスの『抱きしめたい』とともにビートルズ自身が出演しないビートルズ映画の中ではかなりレベルが高い。  リピート放送があったかどうかは定かではありませんが、残念ながらWOWOWで見る機会はその後はありません。放送後に数年経ってから、近くのレンタル屋さんにこの作品の在庫があるのを見かけましたが、そのときは「ああ、出てるんだ。」という程度ですぐに借りませんでした。
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 一ヶ月くらい経ってから、再度このレンタル屋さんに行ってみると、ちょうどVHSビデオ在庫の処分がされた後で当然のようにこれらのマイナー作品は店頭からは消えてしまっていました。  後悔先に立たずでそれ以来、この『ビートルズ1976 ダコタハウスにて』を見ることは二度とありませんでした。さらに何年後かにヤフオクの存在を思い出して検索すると、この作品のオークションを数回見かけました。
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 しかし、なんと入札額が7800円(安い方で!)などという驚きの値段がつけられていたので諦めて、気長に格安な値段が出てくるのを待つことにしましたが、この作品のオークション自体を見かけなくなり、気がつくと三年以上が経っていました。  最近もヤフオクやアマゾンで検索してみるとなんと最安値が9000円台で高いのは21000円でした。21000円?VHSテープに?となぜの嵐です。誰が買うんだろう?
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 さすがにもう見ることは無理なのかなあと諦めていた矢先に、親しくしているレンタル屋さんの倉庫に昔のVHSビデオが眠っていることを聞き出し、ぼくが見たい非DVD化ソフトのリストを渡し、彼が倉庫整理するときにでも気にかけてもらうよう頼んでいたところ、なんとこの作品のビデオが残っていたとのメール連絡をもらいました。  即借りするつもりで出向いて行くと、オーナーが「いつも利用してもらっているから、これはタダで貸したげるよ。」との有り難い言葉をいただき、ウキウキ気分で帰宅して久しぶりに見るチャンスに恵まれました。
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 オリジナル・タイトルは『トゥ・オブ・アス』でアルバム『レット・イット・ビー』のA面一曲目を飾るナンバーのタイトルから取っています。会話シーンでジョンが「彼らの一人として来たのか?それともぼくらの一人として来たのか?」というのが出てきます。  つまり私人として友人として彼を訪ねて来たのか、それとも商売をする相手として会いに来たのかと聞いてくる。友人として来たと告げるとようやくポールは家に入れてもらえる。細かいやりとりを楽しむ私的な作品なので、若いファンには解りにくいかもしれません。
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 なにはともあれ、タイトルは『トゥ・オブ・アス』。ずっと『ザ・ビートルズ1976 ダコタ・ハウスにて』で探していたので題名がこんな洒落ていたとは思いもしませんでした。なかなかDVD化されることなく現在に至っていますので、今後もそのままなのでしょうが、あまり知られていない頃を描いた作品は少ないのでソフト化してほしい。  もっともジョンとポールは解散後に完全に絶縁だった訳ではなく、ジョンがヨーコと別居していた頃のセッションにポールが参加したことがあり、海賊盤でこの音源が出回っています。音楽的な冴えはありませんが、彼ら二人が一緒に演奏すること自体が貴重なのでどうのこうの言える人はいないでしょう。
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 『ダブル・ファンタジー』で復活した直後に殺害されたので、もし何事もなく、普通に暮らしていたならば、ショーンが『イエロー・サブマリン』を見て、「パパはビートルズだったの?」と言われて再びアルバム制作の意志を固めたように、もし数年後に「パパとポールおじさんが一緒に歌うのを見たい!」と言っていれば、すっと諸問題は解決して、再結成アルバムがリリースされていたのかもしれません。  最後になりますが、現在日本語字幕版DVDは発売されておらず、また先ほども申しましたとおり、VHSビデオは10000円越えは必至な状況ではあります。ただ外国語版、つまり英語版DVDはアマゾンのサイトで1000円台というリーズナブルなお値段で購入可能ですので、英語に自身がある方はご視聴をご検討ください。  英語字幕が付いていれば、なんとか理解できるでしょう。リージョン違いなので国産DVDプレーヤーでは再生不能ですが、PCは大丈夫ですのでライン接続してテレビに繋ぐか、PCで視聴すれば問題なく再生できます。 総合評価 70点
ザ・ビートルズ・ボックス
EMIミュージックジャパン
ザ・ビートルズ

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