良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ウィネベーゴ・マン』(2009)YouTubeで脚光を浴びたオッサンの不幸なその後。

 ウィネベーゴ・マン(WINNEBAGO MAN)?なんのこっちゃ、よく分からないという方がほとんどでしょうが、今回の記事に選んだのはYouTubeで圧倒的な再生回数を誇る、伝説的な投稿ビデオについてのドキュメンタリー映画です。  アメリカにはキャンピング・カーを売り物にしているウィネベーゴという自動車販売会社があり、今回の主人公であるオッサン(ジャック・レブニー)はこの会社の宣伝用フィルムを撮るために真夏の暑い盛りに野外で高温や害虫たちに悩まされて、悪戦苦闘しながら、撮影に挑みます。
画像
 しかしながら、そのフィルムに写し出されるのは台詞を覚えられずにイライラし通しの中年男が“FUCK YOU!”“FUCK OFF!”“DAMM!”“SHIT!”、またはその組み合わせをひたすら連呼する放送禁止用語のオン・パレードなのです。  その様子を撮影クルーが面白半分に編集して、ウィネベーゴ本社に提出した結果、このオッサンは失職し、行方不明になってしまう。  もとの動画は下記にてどうぞ。 http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=zSWUWPx2VeQ  ところが、あまりに面白いそのビデオは家庭に普及していった1980年代のビデオ・デッキのブームとともにマスターからダビングが繰り返され、じわじわと全米に広がっていく。なんかまるで昭和の終わりの裏ビデオの流通経路のようです。
画像
 劣悪な状態になっても、本質の面白さは変わりがなく、ついにこの作品の監督の目に触れることになります。この手のビデオはウイルスが爆発的に感染するかのように広がっていくために、ヴァイラル・ビデオのはしりと考えられています。  落ち込んでいるときでも、このビデオさえ見れば元気になった監督はついにオッサンを探すことを決意します。  広大なアメリカですが、今は便利なインターネットがありますので、なんとかこのオッサンを探しだし、映画への出演を取り付ける。もともとはテレビでキャスターをしていた彼はかつてはジョン・F・ケネディマリリン・モンローにインタビューをしたこともあったそうです。
画像
 しかし彼を有名にしたビデオは一方では彼のキャリアを破滅させた要因でもあります。山奥に引きこもり、視力も失った彼はますます意固地になり、怒りっぽくなっていきますが、説得されて映画祭のゲストに招かれる。  そこでは監督のようにこのビデオを見た観客たちが彼をあたたかく迎え入れたために彼も素直に喜ぶ。そこで政治的な発言をして失笑を買うものの、下品なおっさんというイメージを払拭したかったのか、彼は悪びれることもない。  他人が見れば、まさに爆笑映像だとしても当事者にとっては運命を左右する場合もあるのだという事実を観客に突きつける。自分がいつ同じ目に遭うかは分かりません。
画像
 Twitterやミクシー、掲示板などに面白半分で投稿した画像が原因で訴訟に発展するケースも増えています。ファストフード店のバイトが悪ふざけで食べ物を粗末にする映像は幾度もテレビで流れています。  巨大テーマパークの乗り物をわざと破壊したり、そこで大怪我を負ったなどと嘘のコメントをネットに撒き散らした大学生が訴追されたようですが、聞いていても情けないなあという暗い気分になってしまう。
画像
 目立とうとしようとして、他人に大きな迷惑をかけるのは馬鹿げていますし、そんなことで目立っても一過性でしかない。  このウィネベーゴ・マンにしても、たまたまフォロワーが拾ってくれたから、まだハッピーな終わり方をしましたが、ほとんどは見た瞬間に忘れ去られ、責任を取らされて、退職して終わりでしょう。
画像
 他人に受けようとして、あざとく撮影された多くのビデオと違い、仕事に取り組んだ結果、他人から見れば大笑いできる映像だったからこそ、20年以上に渡り、ビデオからインターネットに視聴手段が変わっても、皆に愛され続けたのでしょうし、投稿ビデオの黎明期ならではの素の表情が撮れたのかもしれません。 総合評価 70点