良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ある勇気の物語! 孤独のマラソンランナー』(1976)懐かしの映画をついに発見!

『ある勇気の物語! 孤独のマラソンランナー』という映画を知っている人はどれくらいいるだろうか。それは名作『長距離ランナーの孤独』ではありません。優勝間際に走ることをやめて、反抗心を表したあの作品とは違い、こちらはアメリカ作品らしく、ハッピーエンドです。  製作されたのは1976年ですが、もちろん日本未公開だったのは当然で、実はテレビムービーとしてアメリカで放送されたものでした。  この『ある勇気の物語! 孤独のマラソンランナー』をぼくが見たのはたぶん12チャンで、小学生の頃で、放送は夜中だった気がしますが、なんせ30年以上は前になるのではっきりとは覚えていません。  親戚のお兄ちゃんと夜中まで大富豪やカブをしながら、だらだらと遊びながら、ちらちら見ていました。内容は冴えない少年(中学生か、高校生でした。その後、中学生と判明。)が主人公で、彼には誰にも言えない秘密があり、特に大好きな女の子には絶対に知られてはならない類いのものでした。
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 その秘密とはティーン・エイジャーになってもいまだに治らない夜尿症、つまりおねしょです。おねしょで悩まされた人は結構いるのではないか。ぼくは最後におねしょをしたのは小学一年生の一学期に一度だけやらかしてしまったのを覚えています。  弟はこの映画の主人公だった少年ジョンと同じく、中学二年くらいまでやっていました。珍しいと思っていましたが、知り合いの次男坊は中三になってもやらかしたことがあるそうで、そういうものなのだとすると、小学一年生での一回が最後だったぼくはまだ治るのが早かったのかもしれない。  思い出してみるとぼくの弟のおねしょ癖に手を焼いていたうちの母は布団にビニールシートを敷いて、その上に前の日の新聞を敷き詰めて蒸れにくくして、そこにシーツを敷いていました。またあまりにも連発するときには「ちんちんにホースをつけて寝なさい!」と半分あきれ顔で怒っていたのを覚えています。  また不思議だったのはあれだけおねしょを連発していたのに旅行先とかでは一度も世界地図を描かなかったことです。弟は無事に林間学校や修学旅行という一大プレッシャー・イベントを乗り切ったときは家族みんなで「おおー!よかったやん!」と胸をなでおろしました。
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 おねしょはカッコ悪いし、子供の象徴かもしれない。おねしょを卒業したときに子供から少年になり、声変わりや思春期を経験してから少年は青少年になるのだろうか。  セックスを経験し出すと青年となる。そして彼女や奥さんから何を言われても抵抗しなくなったとき、または言い返す気力を失ったときに大人になるのかもしれない。  それはともかく、マラソンランナー。業を煮やしたお母さんは罰として彼の部屋からおしっこ布団を干していくことを宣言し、実行する。  彼は大好きな女の子におねしょ癖があることを知られたくない一心で、世界地図を描いたその日には学校から猛ダッシュで帰宅する。
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 春夏秋冬、半年以上にわたり、来る日も来る日もおねしょをし続けた彼は知らぬ間に他者を圧倒する走力を身に付けていました。  その姿を陸上部顧問に見出だされた彼は破竹の勢いで選手として成長し、ついにはオリンピックにまで出場してしまう。しかも金メダルを獲得する。  保健体育的に言えば昇華ということになるのだろうか。それとも瓢箪から駒で片付けられるだけなのだろうか。冴えない少年でも努力次第では大きな運を掴むかもしれないというストーリー展開は青春映画として素晴らしい出来栄えです。  かっこいい少年が主人公ではなく、どこにでもいそうなさえない少年を主役に抜擢してきたからこそ、僕らのような多くのボンクラ映画少年の記憶に残り続けているのでしょう。
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 オリジナルタイトルは“LONELIEST RUNNER”です。これはマラソンランナーという競技者としての孤独だけではなく、思春期に差し掛かろうとしている時期に誰にも言えなかった悩みを耐え忍ぶ姿をも重ね合わせているのだろうか。  ジョン少年が家族にもおねしょが治ったと嘘をつき、毎朝早朝にコインランドリーでシーツを洗濯する姿が何度も描かれ、ついに洗濯屋が臨時休業したときにことが露見してしまうシーン、有料コインランドリーに硬貨をつぎ込むためにお昼代がなくなり、育ち盛りなのにスープしか買えない様子が切ない。さわやかとは程遠いのですが、繊細な少年の心の様子が手に取るように理解できます。  残念ながら地味な作品なのでビデオ化もDVD化もされていません。見るのは無理なのかなあと半ば諦めていたのですが、今日、何気なくyoutubeを見ていて、ものは試しに“LONELIEST RUNNER”という原題で入力してみたところ、なんとアメリカの有志がフル動画をアップしているではありませんか。  もちろん字幕はありませんでしたが、複雑な内容ではないので中学レベルの英語力があれば、十分に鑑賞できます。
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 それで気づいたのですが、記憶していたのは走っているシーンと彼女にばれないように努力している姿だったのですが、いざ見直すと友人との関係や家族との葛藤がしっかりと描かれていたのが意外でした。  特に母親の無理解は深刻で、治らないからと言って、世界地図入り布団を晒し者のようにベランダから干すシーンの連続には「今では虐待だろうなあ!」とか隔世の思いを感じながら見ていましたし、厳しく接していた父親が本当に息子が困っているときにはしっかりと心のケアをしていく様子が心温まります。  つまりプライドを打ち砕かれたくなければおねしょを治せと脅していく母親と息子の繊細な気持ちを理解している父親との対比が描かれていて、遠い昔に見たきりだったこの映画が記憶に残っていた理由が改めて分かった気がしました。  本当に可哀想なシーンの連続で、友人宅にお泊りする夜にはおねしょを恐れて一睡もできず、次の日にみんなで映画館にホラーを観に行っても、まったく寝ていないために真っ暗な映画上映中に眠りこけてしまうというあまりにも可哀想で泣けてくるシーンもあります。
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 またあれだけ隠し続けてきたのについに憧れの彼女におねしょがばれてしまうシーンは切なく、あまりのショックで家出までしてしまう。無事に保護されたジョンは父親から自分も14歳までおねしょをしていたことを告白されて、安心し、それが親子の絆になるという展開が良く、人間臭さというか、温かみが描けています。  母親は終始無理解なままで優しさはなく、テレビばかり見ていて、「私は13年間もひ弱な子供の世話をしてきて、もうこりごり!」と家族の前で言い放つなど、あまり愛情を感じない。  演出も凝っていて、まずはオリンピックで優勝してゴール・インする様子が描かれていて、メダル獲得記念でのテレビ番組出演場面を持ってくる。そこでの打ち合わせの合間にふと時計に目をやると、そこから時計を編集点にして過去に戻っていき、中学時代の暗黒の思い出であるおねしょ回想につながる。  終盤、コンプレックスを克服して現在に戻ってくるときはラップタイムを計るコーチの時計から、フラッシュフォワードしてテレビスタジオに帰ってくる。ほんの数分の回想だったことが分かる良いシーンに仕上がっています。  とても地味な作品ですので、恐らく今後もソフト化されるのは難しいのでしょうが、CSにぜひとも12チャン映画チャンネルを作ってもらい、過去に放送したヘンテコ映画やトラウマ映画、幻の映画をふたたび放送してもらいたい。 総合評価 80点