良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ファラオのはらわた』(1970)海外マニアがこれを探し回るのは何故なのか?

 数年前から、ずっとヤフオクや田舎のレンタル屋さんやリサイクルショップで探しまくっていたもののとうとう手に入れられなかった幻の一本『ファラオのはらわた』にやっと辿り着きました。  この作品は日本ではそれほど人気のあるタイトルではありませんが、欧米では知る人ぞ知るカルト作品だそうです。
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 かつての『女獄門帖 切り裂かれた尼僧』と同じように、海外マニアもヤフオク出品を狙っています。どおりでいつまで探し回っても見つからないはずだわと思い始めたのは昨年に『悪趣味ビデオ学入門』という名前のまんまのB級ホラーを集めたムック本が出て、この作品を取り巻く状況が紹介されていたからでした。  『インパルス! 暴走する脳』とともになかなか縁がない作品でヤフオクに参戦しても落札に到らない鬼門です。『インパルス! 暴走する脳』は5000円前後で取引されていて、正直そんなに高価というわけではありません。
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 ただし、限りある現金を遣り繰りするなか、よほどでない限りはボロボロのビデオテープ一本に5000円も出すのは馬鹿馬鹿しいのでさっさとカルト映画ばかりをリリースし続けるWHD辺りに『シェラデコブレの幽霊』と一緒に廉価DVDを出してもらい、不毛なオークションからホラー映画ファンを解放して欲しい。  『宇宙水爆戦』や『エルトポ』のDVDリリースでどれだけのカルト映画ファンや特撮ファンが無駄なオークションに参加する必要がなくなったことに感謝しているだろうか。
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 そもそもこの作品がさして魅力的とも思えないのに異様にレアなのは宗教的な表現が原因なのだろうか。欧米はキリスト教圈なので、ぼくらには解りかねるヤバイ表現でもあるのだろうか。  それとも出演者に現在セレブになっている人や伝説の俳優でも混ざっているのだろうか。キャメロン・ディアズがまだ駆け出しの頃(19歳)にお金のために出演したソフトSM『シーズ・ノー・エンジェル』が高額(40ドル。)で取引されていたこともありましたので、もしかすると出して欲しくないスタッフがいるのだろうか。
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 そういうことが理由となって、非常に視聴が難しい作品になってしまったのかもしれない。原因を探りながら、どんな作品なのかを想像しながら、ついに『ファラオのはらわた』と印刷されたラベルを眺めつつ、かなり古くなっているビデオテープを再生しました。  いつも思うのですが、古いテープを再生する瞬間に願うのは「いきなりビリビリいったり、ノイズだらけにならないでおくれ!」ということです。
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 『ファラオのはらわた』という作品についてはなかなか視聴が難しいかと思いますので、ストーリー展開を述べておきます。かなり視聴困難と思われますが、探してみせるという猛者はネタバレにお気を付けください。  まずはオープニングで上司とダ二エラ・ジョルダーノがうす暗い部屋で会話をしている。その後、ダニエラ・ジョルダーノは仕事の依頼を受けて、エジプトのカイロに出向いていく。この一連のシーンの安っぽさはまるで洋ピン(ビデオが家庭に普及するまでは中高生にとっては夢の映画。『グリーンドア』とか『ディープスロート』の類。)を見るような適当なインサートで、音楽も安っぽく、いつダニエラがスッポンポンになってもだれも驚かない下地が醸されていく。
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 彼女を待っていたのは現地スタッフだが何故か彼は写真に写らない(お化けじゃないか!)。 不思議に思いつつも行動を共にするヒロイン(なぜ?)。そこへエジプトの秘密結社も彼女を狙いだし、ついに誘拐(普通に誘われるままにどこでもホイホイついて行ってしまうヒロインに問題アリ。)に成功し、彼女は生け贄として全裸にひん剥かれて、捧げられる。  中盤からはセックス(レイプや鞭打ちなど。)、ドラッグ、カルト、暴力、貧民街の喧騒などがてんこ盛りで、トリップするような映像表現が多く、60年代後半の出来損ない、もしくは便乗映画で見たような汚らしい映像が続いていきます。なんだか『イージーライダー』の出来損ないみたいな感じです。
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 オカルト描写もあり、人形に鋭い針を打ち込んでいくと、秘密結社の祭壇に捧げられた若い女性が刺された部分を苦しみだすという、なんだかブードゥー教の儀式を見ているようでした。エジプトの現地民の描き方もどこか差別的で、嫌な感じでした。  エジプトに行った経験上、彼らはたしかにすぐにボったくろうとする人々ではありましたが、集団で観光客を囲んだりすることはありませんし、そんなに悪質な方ではありません。それでもカイロに着いた日に400円だった2リットルのミネラルウォーターは三日目には100円になっていたのを付け加えておきます。
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 ホテルの部屋に勝手にルームサービスのおっさんが女性宿泊客の部屋に入り込んできたりするので、安っぽいAVみたいです。しっかりスフィンクスなど観光名所も巡って、カルト集団からもなんだかんだで救出された彼女はイタリアに帰っていくが…。  プツリと唐突に作品が終わるため、結局何が言いたいのかはさっぱり解らない。これがイタリアの典型的な見世物映画なのだろうか。
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 より残酷に、より下世話なエロをぶちこんでおけば、それでオッケーという考えなのだろうから、こういうのにいちいち関わりあう必要もないのでしょう。でも気になってしまうのがB級映画ファンの性質なのでしょう。  全裸生け贄シーンがジャケットに使用されているため、ビデオ屋さんでパッとこのテープを見つけた者をたいそう驚かせたのだろうし、こんなジャケットをしたビデオテープを家に持って帰ったら、奥さんや彼女にどんな目に合わされるか分かったものではない。
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 泣く泣く諦めたものの、数十年経っても、このジャケットの衝撃を忘れられないマニアが数少ないビデオテープを買い漁っているのが真相なのかもしれない。  ぼくにとってはそういった、いわばジャケ衝撃の一本は『SM大陸マンダラ』(情熱大陸ではない。)や『ギニー・ピッグ血肉の華』だったのかもしれない。
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 前者は未だに見ていませんし、後者はレンタル全盛期の80年代当時に見ましたし、数年前にもこれを所有している人に見せてもらったのですが、購入しようとは思いませんでした。  終わってからの正直な印象は一言でまとめると拍子抜けというワードがもっともピタリと当てはまる。ワクワクしながら、ビデオテープを再生したものの「えーと、こりゃなんだろう?」と戸惑い、ガッカリしてしまうのは確実です。と書けば「ああ~。そんなら見る必要ないやあ!」となるのでしょうが、退屈ながら、あちこちにサービス精神旺盛なイタリア映画ですので、70年代初頭の風俗を結構楽しめるのではないか。
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 ただし、そうは言ってもそれは見たから言える事なので、未だ見ぬ強豪についても、思う存分期待して、どんな作品なのだろうかと想像を膨らませながら、実際に見るまでの時間を楽しみたい。  見れば分かるのですが、あまりにも唐突なラストにはひっくり返りそうになると思います。ヒロインのダニエラはいろんなクズ映画に出演しています。C級映画に出ている割には魅力的な方だと思います。 総合評価 56点