良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ロリ・マドンナ戦争』(1973)ソフト化されない原因は差別表現か、輪姦シーンのためか?

 ずっと探していた作品のひとつ『ロリ・マドンナ戦争』をようやく見ることが出来ました。どういう経緯で流れてきたのかは分かりかねますが、生産された当時のフィルムであれば、数年前からヤフオクで出品されていました。  が、さすがに缶入りのフィルムを再生する機器を持っていませんのでオークション参戦は出来ません。予告編やメイキングなど一部だけの映像は動画サイトで鑑賞できましたが、全編通してアップされているのはすぐに削除されてしまうようでなかなか見る機会に恵まれませんでした。
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 日本語で『ロリ・マドンナ戦争』と入力しても、単行本か町山智浩の『トラウマ映画館』にヒットするだけです。ここ数年、TSUTAYAの旧作発掘コーナーを期待して、毎月この作品や前回記事にした『最後の脱出』を探していますが、いまだに権利関係がクリアにならないようです。  諦めかけていた矢先、ふとオリジナルタイトル『THE LOLLY-MADONNA WAR』で打ち込んでみると、たまたま全編動画にヒットしたのですぐにクリックすると再生が始まったのでかなり興奮しました。
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 ぼくらが知るこの映画の題名は『ロリ・マドンナ戦争』ですが、もともと付けられていたタイトルは『THE LOLLY-MADONNA XXX』でした。   XXXはキス・キス・キスという意味であり、作品中でも奪い取ったラブレターを読むロッド・スタイガーが「愛しているわ。キス・キス・キス! ロリ・マドンナより。」と間違えられたショート・カットのブロンドが可愛らしいシーズン・ヒューブリーに得意げに読んで聞かせる。
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 つまり、ラブレターの隠語なのですが、一般的にはXXXが意味するのは視聴年齢制限のレイティングでのトリプルX、つまりハードコア・ポルノを指します。  ポルノだとあらぬ誤解を避けるために公開時にタイトルは『THE LOLLY-MADONNA WAR』に変更されました。しかし今回ぼくが見たフル動画ではオープニングで出てくるタイトルは『THE LOLLY-MADONNA XXX』のままになっていました。
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 流出経路がどうなっているのかは定かではありませんが、調べた限りでは日本ではビデオ時代もDVD時代になっても、公式にこの作品のソフトがリリースされている気配はありません。海外ではDVDが発売されていたようで、DVDジャケットの画像もアップされています。  ただ、ぼくが見たのはDVDの映像とは思えません。おそらく大昔の傷んだフィルムからマニアが制作したテープか、もしくは1980年代くらいまでにテレビ放送されたときに録画されたビデオ・テープを音源にしたファイルをマニアがネットに流した映像がロリ・マドンナのファンを喜ばせているのだろう。
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 見たファイルは褪色が進んでいて、ノイズも所々に入りますし、音声も時おり乱れますが、視聴できる喜びが勝りますのであまり気にはなりません。  オープニング映像にはいがみ合うガッシャル家(ロバート・ライアン側)とフェザー家(ロッド・スタイガー側)の両家の人々のスナップ・ショットが使用される。まだ皆が若々しく、笑顔で写っているのがむしろ痛々しい。
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 映画の内容はアメリカのアパラチア高地の山岳地域で敵対し続けている一族同士の血で血を洗うような激しい抗争(実在のモデルあり。)を描いたものです。  北アイルランドに植民していったスコットランド系移民がイギリス系やフランス系移民に遅れて北アメリカ大陸に入植した地域なので貧しい生活を強いられる。
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 住む家もボロボロ、車もスクラップ同然、着る物もズタボロ、家具もボロボロ、知性もない彼らの様子が多少は誇張されているのでしょうが、同じアメリカ人とは思えないような下等な人々として描かれる。  リチャード・ライアンの一族とロッド・スタイガーの一族との抗争は当初は豚一匹を拿捕したスタイガー側への報復として密造酒工場(めちゃくちゃ粗末なもの。)を破壊するためにロリ・マドンナという架空の花嫁をでっち上げて彼らをおびき寄せるという作戦を実行する。
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 そこへたまたまバス停に通りかかった若い女(シーズン・ヒューブリー)をロリ・マドンナと間違えて、スタイガー側のエド・ローター(三男ホーク役)とスコット・ウィルソン(長男役)が拉致してしまったことから物語はややこしくなっていく。  ロリ・マドンナを誘拐したその日に彼女のスーツケースから盗み出した下着と化粧品で悪ふざけをしていたスタイガーの禿げ頭の息子(エド・ローター)とスコット・ウィルソンが自分の兄弟の彼女だったライアンの娘シスターE(ジョーン・グッドフェロー)を輪姦してしまう。
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 この場面はおぼこい処女を女の下着を纏って化粧までした下品な男たちが二人がかりで襲い掛かる悪趣味極まりないレイプ・シーンです。  このハゲ頭のエドは自分とエルビス・プレスリーを同化させてしまう妄想癖がある変人で見た目はズル賢いイタリア人ディフェンダーのような風貌なのでかなりインパクトが強い。
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 娘を犯されたライアンはついに銃撃戦に突入するが、初戦で妻を射殺される。スタイガー側も無傷ではなく、エドが瀕死の重症を負い、自宅ではこの惨状を招いた父親スタイガーのやり方をめぐり口論となった親子で殺し合いが始まり、スコット・ウィルソン(長男)が蹴り殺されてしまう。  決戦の直前にはライアン側の四男が和平交渉にやってくるが、スタイガーの妻が猟銃で頭を撃ち抜く。全面戦争が始まるなか、ライアンの娘とスタイガーの次男が駆け落ちを図るが、彼も狙撃されて絶命する。
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 ほとんどの一族が傷つくが発端となったロリ・マドンナ(シーズン・ヒューブリー)とジェフ・ブリッジス、両家の父親らは生き残る。画面は暗転し、再びオープニングと同じように家族のスナップ写真が写し出される。  なぜお互いに近所なのに殺し合うほどいがみ合うのだろうかとも思いますが、ご近所トラブルの過激版と考えれば、ある程度は納得がいきます。
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 こちらが何もしなくとも、性格が異常なヒマな隣人はしょっちゅう嫌がらせをしてきます。近所にもいますが、自治会などでしゃしゃり出てきたり、なんやかやと余計なお世話を焼こうとする者はみなさんの近所にもいるでしょう。  普通は自治会を脱会するか、無視をし続ければ、大抵のトラブルは避けられる。それらを我慢できない人たちが時に殺し合うほどの事件に発展するのでしょう。
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 都会ならば、まだ接触する機会も少ないでしょうし、鬱陶しいのであれば引っ越してしまうという荒業も使えます。しかしながら両者が先祖伝来の土地家屋に縛られている場合は常に緊張状態とパワー・バランスの均衡が保たれている。  そんなバランスが何かのきっかけで崩されると一気に衝突の危険性が増していく。それを 避けるにはお互いに言いたいことは山ほどあるでしょうが、それはそれとして妥協できるポイントを見つけて、上手く共存していけるルール作りをしていく必要がありますし、嫌いでも話し合える場所や機会を設ける必要があります。
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 全面戦争をした場合、人的にも物的にも損害を受けるのは自分達であり、そういう窮状につけこんでくる大地主もいるので、常に警戒していかねばならない。  映画は監督に『バニシング・ポイント』で成功したリチャード・C・サラフィアンを起用するも、興行的に大失敗に終わる。原因はロリ・マドンナがストーリーに全く絡んでこないことが大きいという意見が大勢を占める。
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 個人的にはそもそも彼女はでっち上げられた存在に過ぎず、ヒッチコック的なマクガフィンだと思えば良いのではないか。そもそも彼女は架空であり、もともといない存在である“彼女”を囮に使って密造酒を破壊した時点で彼女の本来の役割は完了している。  ちなみに1980年代に邦画で『Vマドンナ大戦争』というアクションがありましたが、たぶんこの映画『ロリ・マドンナ戦争』からアイデアを戴いているのでしょうね。
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 ロリ・マドンナの機能不全については原作がどうだったのかは知りませんが、せっかくハリウッドでMGMが映画化するのであれば、偶然捕えられた彼女が大活躍するような脚本に改変すべきだったのではないか。  原作改変を何よりも嫌うファンもいるようですが、映画は娯楽であり、興行的に問題がありそうなものを改良する目的においては許されるのではないか。
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 映画のラストではさすがにシーズン・ヒューブリーはロリ・マドンナではないと分かるので、スタイガー一家の人々はみな彼女を逃がそうとする。彼女は囚われの身ではあるが、ジェフ・ブリッジスと恋に落ちていく。この感覚はストックホルム症候群と同じなのだろうか。  しかしながら家を包囲されたスタイガーの敷地から無傷で出ていくのは難しく、じっとしたまま顛末を見ている。この映画は分かりにくいが途中からストーリーの語り手がヒューブリーの回想になる部分があるので当然ながら、彼女は生き残ったということになる。  音楽的にはフレッド・マイラーが付けたサントラの出来が素晴らしく、うらぶれたアパラチアの貧しい哀しさがにじみ出てくるような味わい深さを湛えています。出しゃばらず、しかもこの地域の雰囲気を音で表すような不思議な感覚でした。 総合評価 75点
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