良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『もらとりあむタマ子』(2013)だらだらした前田敦子の演技と山下監督の演出が素晴らしい!

 大島優子と常に比較されながらも、大所帯のAKB48で常に絶対的エースだった前田敦子はグループ脱退後、歌手と女優業を行っています。『苦役列車』で前田を起用した山下敦弘監督は再び彼女を主演に抜擢して仕上げたのが『もらとりあむタマ子』です。  こういった作品ではアイドル出身の若い女の子を可愛らしく、チャーミングに撮ってしまい、熱心なマニアだけが楽しめるようなプロモーション・ビデオ的な代物になってしまうことが多い。しかしこの監督はそういった軽さに迎合する映画人ではなく、一人の女優としての前田敦子の可能性を広げてみせてくれました。
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 山下敦弘監督の演出、人間をしっかり描いた向井康介の脚本、前田をはじめとする演者の飾らない演技が一体となり、奇跡的な一本に仕上げられています。主な演者は主演の前田敦子、父親役の康すおん、そして撮影時にはまだ小学生だった伊東清矢です。この少年が最高に笑わせてくれます。まるで自分のことを見ているような等身大のさえない中学生を見せてくれています。  彼ら三人が見る者に与えるインパクトは強烈です。普通の生活を普通に送っているだけなのになぜこれほど驚かせてくれるのだろうか。すべての登場人物がイケてない、もしくはカッコ悪いのだが、彼らはみなとても魅力的です。というか、周りにいる人物を思い出させてくれる親近感が沸いてきます。何気に見た顔がいるなあと思ってキャストを注視していると富田靖子が出ているのに気付きました。
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 これはもしかすると傑作なのかめしれない。映画を見ていて、こんな気持ちになるのはいつぶりだろう。一般的(だらだらした?)な庶民を描き、しかも映画全体を終わりまで見ていっても、とくに何かが起こるわけではなく、何も解決しない。  ニートで何もせずに実家に寄生しているくせに、テレビに映る政治家や国家を批判し続けるタマ子に対し、父親が「ダメなのは日本じゃなくてお前だろ!」と叱りつけるシーンは印象深い。  ぼくの知り合いの女の子は昨年就活に失敗し、大学卒業後は資格を取るとか、春先に事務の面接を受けるとかあれこれ言っていましたが、結局は何も決まらずに今ではライン連絡も取れなくなっています。まさにタマ子と同じ状況です。
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 映画では父親は一応は末娘を独り立ちさせるきっかけを与えているが、前田にとっては事態は悪化したままでエンディングを迎える。ただそこに悲壮感はなく、奇妙な楽観主義を押し出してくる。  本当にカメラに写る前田敦子はただひたすらにダラダラと家で過ごし、食っちゃ寝を繰り返し、一日中ゲームをして、気が向いたら近所のガキをこき使うか、ママチャリで山梨の田舎駅周辺を走り回るのみである。
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 特に多いのが食べるシーンと畳に座って交わされる父娘のくだらない会話です。一年間の変遷を描くこの映画でのスタイルでは食べ物が季節感を伝えます。  秋はさんまとカレー、冬はみかんと年越しソバ、春は野菜の天ぷらと団子。夏はゴーヤチャンプル、アイスキャンディ、枝豆、スイカ、スパゲティ・ナポリタン、グレープフルーツと80分間にも満たない作品なのに食べるシーンばかりです。
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 畳の間での会話を見ていて思い出したのはなぜか小津安二郎作品で、会話でのカットの返し方がまるで原節子笠智衆を見るようでした。内容的にはコメディなのですが、イマドキの父娘の描き方としては素晴らしい。  文句を言いながらも、父親に寄生しないと生きていけない前田の役柄は共感できない人もいるでしょうが、末娘が甘えてきたら、ほとんどのお父さんは拒否できないでしょう。前田敦子をここまでブサイクに撮るこの監督の狙いはひとりの女優として彼女を世に送り出そうとしたことだろうか。
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 トイレで踏ん張り、腐女子のようにだらしない格好でひたすら無表情でダラダラして、仕舞いには屁でもこきそうな勢いでタマ子を演じている。どこまでが演技でどこからが素の彼女なのだろうか。このまま進んでいくと汚超腐人でしょう。  美味そうに食卓に提供される四季折々の食べ物を頬張る彼女が体をゆすりながら食べている表情がなんだか可愛らしい。基本、無表情でブサイクなのですが、時おり彼女が見せるキラリとした表情にハッとさせられます。彼女は良い女優になりそうです。  この作品はある意味、現代風青春映画の一つの到達点かもしれません。第二弾もできそうですし、上京や新入社員としての生活までをほんわかとシニカルに描ける世界観の広がりを持てそうです。 総合評価 88点